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静かな秋の午後、葉月は学校の帰り道にある古びた商店街を歩いていた。特に用があったわけではない。ただ、なぜか足が自然とその道へと向かっていた。
ふと足を止めると、目の前には一軒の古い時計店があった。窓には様々な種類の時計が並び、どれもアンティーク調のデザインが施されている。
「こんな店、あったっけ?」
葉月は首を傾げながらも、何かに惹かれるようにドアを押して中に入った。店内は時が止まったかのような静けさに包まれており、古い木の香りが漂っている。壁には様々な時計が掛かり、どれも丁寧に整備された様子だ。
「いらっしゃいませ。」
奥から年老いた店主が現れ、優しく微笑んだ。葉月はふと、ガラスケースの中に飾られている一つの懐中時計に目を奪われた。それは、真鍮製の美しい時計で、中心には複雑な模様が彫り込まれていた。
「これ…」
「気に入りましたか?それは特別な時計ですよ。昔の名家の持ち主が使っていたと言われています。」
葉月は時計を手に取り、じっと見つめた。不思議な感覚が胸を満たし、彼女は気づかぬうちに財布を取り出していた。
その夜、葉月はいつものように自室で勉強をしていたが、どうにも懐中時計のことが気になって仕方がなかった。机の上に置かれた時計を手に取り、無意識にふたを開けた。
「…何か変だ。」
その瞬間、時計が淡い光を放ち始め、部屋中がその光で満たされた。次の瞬間、葉月は全身が宙に浮かぶ感覚に襲われ、周囲の風景がぼんやりと変わっていく。
葉月が目を開けると、そこは見知らぬ場所だった。周囲には古い建物が並び、現代では考えられないような服装をした人々が行き交っている。大正時代を思わせるその光景に、彼女は驚きのあまり言葉を失った。
「ここは…どこ?」
混乱する葉月の前に、馬車が通り過ぎ、彼女は思わず後ずさった。信じられないことに、自分が100年前の世界に来てしまったのだ。
「何だ、あの格好は?」
葉月が振り返ると、一人の青年が彼女をじっと見つめていた。背が高く、端正な顔立ちの彼は、黒い和服を身にまとっていた。その青年こそ、名家の次男 北原玲 だった。