テラーノベル
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十月から十一月、急に寒くなった。
夏休みが終わってからの一か月は、少し憂鬱だったが、いつも通りの日常を送ることができた。
だが、それも昨日までの話。今日はギリギリ、上着一枚で足りるが、息が白い。
季節の変わり目というのを、感じることができるのなら、感じてみたい。いつも突然、やってくる。
灯は変わらず来た。
むしろ、寒くなってから灯は機嫌がいいように感じられた。適温なんだろうか。そうだったら機嫌がいいではなく居心地がいい、という表現のほうが合っているのかもしれない。
ストローを吹くように、ふーっと息をやるとやっぱり息が白い。灯はそれを真似している。よーく見ても、息は────白くなっていない気がした。多分気のせいだと思う。
「あ~雪降んないかなぁ」
「あと一か月くらいしないと降らないよ」
「そっかぁ……」
そうすると灯は立ち上がり、近くの林から落ち葉を持ってきた。
「なにしてんの?」
「ふっふっふ~」
ベンチの前に大量の落ち葉を置いたと思えば、また林のほうへ向かった。
そしてまた、同じくらいの量を持ってきた。
それを何回か繰り返す。途中から運び方のコツをつかんだようで、さっきまでの二倍くらいの量を持ってくるようになった。
「ふう」
どうやら、作業は終了したようだ。落ち葉の山ができている。
「マジで何してんの?」
「飛び込むの」
「やめて?」
「……えーせっかく集めたのにぃ?」
「服……汚れちゃうよ?」
「うーん、そうだけど……」
何とか思いとどまっているようだ。
「そんなに言うんだったら……やめるよ……」
「そうしとき」
それでベンチに座ると思ったら、いきなりしゃがみ込んで落ち葉を拾い上げた。
そして、落ち葉を空中に放り投げた。まるで紙吹雪だ。
「あんたさぁ……別にいいけど」
「楽しいよ~凛香もやる?」
「やんない」
そんなことをやっていたら、5時になった。タイムアップ。
今日は、お別れ。
「ばいば~い」
「じゃあね」
────寒さが、より一層深まった。
寒い風が吹き荒れるせいで、肌も荒れる。
上着も、二枚重ねないとちょっと厳しい。
だが灯はいつもの服装でやって来た。
いや、いつも通りの服装?半袖に、ベスト?
なんで今まで気づかなかったんだろう。明らかにおかしい。いや、おかしいとは思っていたんだろう。ただ、気のせいだとか、なんとなくだとか曖昧というところを利用して、雑な、苦し紛れの言い訳で目隠しをしていたんだと思う。
そう考えれば、今まででおかしいところはたくさんあったのだ。
灯は、なんだ?
いつものように、聞かないほうがいいのだろうか?
聞いてみるか?
聞いたら……どうなるだろう。
考えると変な感覚になる。
寝る前、死について、宇宙について頭の中で考えているのと同じ感覚だ。いつまでも寝られない。恐怖と探求心。どっちもが存在していて、どっちもが強く頭を支配する。言ってしまえば怖いのだ。恐ろしく、怖い。何が怖いのか、というのはよくわからない。なぜ怖いのか。それを考えることすら怖い。鼓動が鳴る。なぜ考えることが怖いのか考える。怖い。それも考える。怖い。怖い。怖い。怖い。
「凛香……大丈夫?汗かいてるよ?」
「……ぁ、ごめん、ちょっと考え事」
「なんか、大変そう。話聞くよ?」
「大丈夫……」
「いやでも、こんなに────」
「ほんとに大丈夫だから、安心して」
「そっか……」
「ほんとになんでも……ない」
今日は少し早く帰ることにした。
十二月に入った。
入ってからも、灯への違和感は消えないままでいた。聞いて消すわけにはいけなかったから。いけないような気がしたから。
確かに、その違和感は言い訳という目隠しで少し消すことはできる。だけども完全ではない。赤シートも、近くだと見えてしまうのと同じように。同じベンチに座れば必然的に近くなり、その目隠しは意味を成さなくなる。
だから、ずっと心の端には違和感があった。違和感が鼓動と同じように波打っていた。
それでも、なんとかして日常は続けることができている。こんなにも弱い目隠しで。ちょっと違和感が増えれば、じきに崩壊してしまうだろう。
灯は、気づいていなかった。
「やほっい」
「灯……」
「最近どう~?」
「まぁ普通だよ、テストとかも上々」
「そっかぁ~~」
「……」
「あのさ、クリスマス、前に行った商店街行かない?」
「クリスマス?」
「うん、イルミネーションめっちゃきれいなんだよ!」
「イルミネーション……か」
「そう!なんか最近、凛香……ちょっと元気なさそうだし、なんかキラキラいっぱい見たら元気出るかなって……どお?」
「うん……確かにいいかも」
「やったぁ!じゃあ決まり!二十四日、ここに集合ね!」
「クリスマスイブね……分かった」
十二月二十四日。クリスマスイブ。
雪が降り積もっている。
いつも通りのベンチに私は座っていた。
灯もいつも通り来た。
雪が降っているのに。
雨と雪で、何が違うんだろう。
「いやぁー寒いね!」
灯は少し前から、ベストが長袖になっており、少しだけ季節に合った服装になった。
それによって、違和感も少し緩和された。と思う……。
いや、今日はそういうことは考えないようにしよう。ただただ、今日は楽しみたい。せっかく灯が誘ってくれたんだから。
「もう暗くなってるしね」
空が赤色で染まる時間はとうに過ぎ、真上の空は薄い暗闇だ。
「じゃあいこっか!」
前、灯が私を引っ張って行った時と全く同じ道を歩いて行く。
一回見たはずなのに、雪が積もって、また違う景色になっていて、新鮮味がある。
気づけば暗くなっていた。
前は走って連れていかれたから、あの古い小さめの商店街につくまでが遅い気がする。
街灯の灯りが点滅している。
たった一つの灯りだけでも、雪に反射しているからか、あたりは明るくなっている。
その一つの灯りがちっぽけなものだと思えるほどに、次に見た景色はとてつもないものだった。
イルミネーション。
こんな田舎で見れる場所があるとは思わなかった。
暗い中、イルミネーションの色とりどりの光が雪に反射して、より一層キラキラと光り輝いている。
まるで銀河のようだ。
灯は、花火の時と同じような眼をしている。
瞳に星が宿ったように、綺麗だ。
「凛香、きれいでしょ?」
「うん、めっちゃ綺麗」
雪の感じも相まって、どこか儚く、消えてしまいそうだ。
私より灯のほうが楽しそうだ。
まだ、小さなアーケードへの入口に居るだけなのに、鈴の音や、ジングルベルソングが聞こえてくる。
アーケードの道に入り少し歩きながら周りを見渡すと、いくつもの店がクリスマスの装飾を施している店が次々と見えてくる。
ツリーが二つ、三つ、四つ……数えていたらきりがない。
サンタがいるとかそういうんじゃない、だけどなぜか────
「……楽しいね」
「でしょ~」
「来年も来る?クリスマス」
そう言うと灯は少し立ち止まって、また歩き出した。
「どうしよっかな~」
「今日は灯が誘ったから言ったのに?」
笑顔で灯は「考えとくよ」と言った。
それだけ言って「そういえばね」と話題を変えた。
────いつの間にか帰宅する流れになっていた。
アーケードの入り口。
「じゃあね」と言って別れる。
数歩だけ歩いた時、後ろから来た灯の声が聞こえてきた。
「ねえ、凛香」
振り返ると、灯は少し遠くに立っていた。
「私とは……このままでいてね」
言葉の意味が分かりそうで、分からない。でも表面上は……
「分かった……」
そういうことにした。
灯の言葉が、どこか遠い記憶と繋がっている気がした。でも、どこに繋がっているのかはわからなかった。
灯は「ありがとね」と言って、いつものようにふわっとどこかへ行った。
────家に帰ると静かだった。
リビングのテレビがついていたが、音だけが部屋に流れて誰も見ていなかった。画面をのぞき込むと、クリスマスイブのニュースが流れていた。街の様子、イルミネーション、帰省ラッシュ。画面の中の景色が、ついさっき灯と見たものと重なった。それでしばらくテレビを見て、風呂に入って、布団に入った。
眠れなかった。
「私とは……このままでいてね」
天井を見つめながら、その言葉を反芻した。いや、意識的に反芻したんじゃなくて、勝手に頭の中で反響してるだけな気がする。
このまま、とはどういう意味なんだろう。
だめだ、これだと寝る前に考えて眠れないものの中に、灯のことが追加されてしまう。眠れないのは、死についてや宇宙についてだけでいい。
いつの間にか朝になっていた。いつ朝になっていたんだろう。
二十五日。年末が近づいている。
学校が冬休みに入った。灯は変わらず来た。
あと数日で、今年が終わる。
そんな時、灯が来なかった。曇り空だったけど、雨も、雪も降っていなかった。
今年が終わる。
来年、灯に会うことができるだろうか。
そう思って、自分自身がなぜそういうことを考えてしまったのか分からなかった。なんとなく、疑問に思ってしまった。
「なんとなく」
灯の口癖を、今日は使いたくなかった。
コメント
1件
「私とは……このままでいてね」 その言葉、すごく刺さりました。イルミネーションが綺麗な分だけ、灯の浮遊感みたいな不確かさが際立ってて……凛香が抱えてる「聞いちゃいけない気がする」っていう感覚、すごくわかる。季節が変わっても、違和感が薄れても、灯はどこかふわっと宙に浮いてるみたいで。年の瀬に灯が来なかったシーン、何も起こってないのにすごく怖かったです。次の話、ちゃんと読みたいです。
15,807
功野 涼し
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