テラーノベル
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朝。
窓から差し込む光が眩しい。
春はもう終わりに近付いている。
らっだぁは一人だった。
きょーさんは仕事。
夕方まで帰らない。
机の上には紙が置かれている。
『仕事行ってくる』
その下に、もう一枚。
『留守番しとるんやぞ』
さらに。
『勝手に死ぬな』
最後の一文だけ雑だった。
きっと急いで書いたのだろう。
紙を折り畳む。
ポケットへ入れる。
最近はそうしていた。
捨てられなかった。
一枚も。
✦
昼。
市場は賑わっていた。
らっだぁは買い物袋を抱えて歩く。
以前なら考えられなかった。
一人で外へ出ることも。
人混みの中を歩くことも。
少し前の自分なら、
ずっと怯えていたと思う。
けれど、今は違う。
帰る場所がある。
待っている人がいる。
それだけで、世界は少し優しかった。
だから。
最初は気付かなかった。
自分にまとわりつく視線に。
一つ。
二つ。
三つ。
知らない顔。
知らない目。
けれど。
妙にこちらを見ている。
らっだぁが歩けば、視線も動く。
曲がり角を曲がるとついてくる。
心臓が嫌な音を立てた。
気のせいだ。
そう思いたかった。
でも。
気のせいじゃなかった。
路地へ入る。
人が少なく、足音だけが響く。
そして。
「おい」
後ろから声がした。
振り向く。
知らない男たちがいた。
らっだぁは一歩下がる。
男たちは笑っていた。
嫌な目だった。
知っている。
昔。
何度も見た。
獲物を見る目。
「青いな」
男のひとりが言う。
「珍しい」
別の男が続ける。
「売ったらいくらだ?」
笑い声。
らっだぁの指先が震えた。
買い物袋を握る。
男が近付く。
一歩。
また一歩。
「触らせろよ」
腕が伸びる。
その瞬間。
らっだぁは反射的にその手を振り払った。
ぱしっ。
乾いた音。
男が目を細める。
「……あ?」
空気が変わる。
まずい。
本能が叫ぶ。
逃げろ。
今すぐ。
らっだぁは走った。
全力で。
後ろから怒声が聞こえる。
足音が追ってくる。
怖かった。
それはたぶん、自分の身に起こることが怖いだけじゃなくて。
きっと、失いたくないものがあるから。
✦
帰宅した時には息が切れていた。
扉を閉める。
鍵を掛ける。
もう一度確認する。
それでも落ち着かない。
部屋の中は静かだった。
誰もいない。
当たり前だ。
きょーさんはまだ仕事中だから。
なのに。
今だけは、ひどく彼に会いたかった。
らっだぁはソファへ座る。
膝を抱える。
震えが止まらない。
知らなかった。
忘れていた。
いや。
忘れようとしていた。
自分が何者か。
青鬼。
高く売れる。
珍しい。
価値がある。
だから狙われる。
昔からずっとそうだった。
ずっと。
⋯もう、そんなことはないだろうと思っていたのに。
夕方。
鍵が開く音がした。
扉が動く。
「ただいま」
聞き慣れた声。
らっだぁは顔を上げる。
きょーさんだった。
安心した。
それだけで。
金色の彼は違和感に気付いた。
「……らっだぁ」
返事がない。
いつもなら紙が飛んでくる。
『おそい』
とか、
『ざこ』
とか。
どうでもいい言葉が。
今日は無い。
らっだぁは俯いていた。
「何かあったんか」
長い沈黙が続いた。
やがて。
紙を取る。
ペンを握る。
震える手。
初めてだった。
こんな風に震えているのを見るのは。
紙に文字が書かれる。
ゆっくりと。
途切れ途切れに。
『怖かった』
四文字。
金色の顔から笑みが消える。
らっだぁは続ける。
『見つかった』
ペン先が紙に引っかかってかすれた。
『知らない人』
ペンが止まる。
インクが滲む。
『青鬼だって』
黙って紙を読む。
そして。
静かに息を吐いた。
最悪だ。
思っていたより早い。
ずっと。
「……そうか」
それしか言えなかった。
らっだぁは俯く。
肩が小さく震えている。
金色の彼は迷った。
何を言えばいい。
”大丈夫”?
違う。
”平気”?
違う。
そんな言葉は嘘になる。
だから。
何も言えない代わりに。
ぽん。
頭に手を置く。
今度は迷わず。
ゆっくりと、優しく撫でる。
らっだぁが目を見開く。
「大丈夫や」
嘘だった。
本当は分からない。
守れる保証なんてどこにもない。
それでも。
言わずにはいられなかった。
「俺がおる」
短い言葉。
彼が言えるのは、それだけだった。
らっだぁは何も書かなかった。
ただ。
その手が離れるまで、ずっと。
俯いたままだった。
だから。
金色の彼は気付かなかった。
らっだぁが。
泣きそうな顔で笑っていたことを。
✦
そして。
その夜。
高い塔の上で。
男は新しい報告書を受け取る。
目を通す。
短い文章。
『市場にて接触。
対象確認。
青鬼本人である可能性極めて高し。』
男は静かに目を閉じた。
「そうか」
小さく呟く。
そして。
机の上に置かれた別の書類へ手を伸ばした。
そこに書かれていた名前は一つ。
”ばどきょー”。
窓の外では、静かに夜の風が吹いていた。
NEXT=♡1000
あまおう
73
ホウ酸
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#らっだぁ
れーん🌸
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コメント
7件
ヒエッ…ここから平穏はなくなりそうだ…
あぁ見つかっちゃった!? すぐ逃げてよかった...でもこれから2人ともいろいろと大変になりそう…… 2人の平和を壊すな!( ・᷄ὢ・᷅ )金なんかどーでもいいわ! 続き楽しみに待ってます✨