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里奈と香里――二人の影は、まるで鏡合わせのように理沙の前に立っていた。
双子ではないはずなのに、表情も声色も同じで、不気味なほど揃っている。
「理沙、思い出してよ」
「私たち、いつも頼ってばかりだった」
影の姉妹が歩み寄るたびに、理沙の胸がざわめいた。
たしかに里奈は涙もろく、香里は冷静でありながら、最後には理沙の決断に頼ることが多かった。
「……私は、守ることしかできなかったのかもしれない」
その瞬間、影の二人は笑みを浮かべた。
「そうだよ。だから、あなたが残って当然だった」
「犠牲になるのは、強く見えるあなただけでよかった」
理沙の胸の奥で、何かがぎゅっと締め付けられる。影の里奈と香里の声は、甘くもあり、冷たくもあり、理沙の心の奥底にずかずかと入り込んでくる。
「でも……それだけで、本当に良かったの?」理沙の声はかすれ、震えていた。
「それしか選べなかったんだから、仕方ないじゃない」影の香里が優しく答える。だが、その瞳には微かな光すらなく、空っぽに感じられた。
理沙は小さく首を振った。「いや……私は……」言葉が続かない。胸の奥のもやもやが、言葉にすると崩れそうで怖かった。
影の里奈が手を差し伸べる。「あなたがそう思うなら、今なら変えられるかもね」
その手は暖かくも冷たくもない、存在しているはずなのに触れられない感覚だった。理沙は目を閉じ、心の奥で一つの決意を固める。
「変えたい……もう、誰も犠牲にしないで済む世界に」
影の二人はゆっくりと頷いた。「そう、それでいいのよ……」
その瞬間、理沙の胸に光が差し込み、影が少しずつ揺らぎ始めた。
「私が、守る」理沙の声は震えていたが、以前よりも強く、揺るがない決意を帯びていた。
影の二人は消える寸前、かすかに笑った。「じゃあ、行きなさい……理沙」
そして、影は静かに霧のように溶けて消えた。理沙はひとり立ち尽くし、胸の奥に残った温かさを感じながら、新しい一歩を踏み出した。