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やるしかない。

そう思ったのに、どうしても身体は動かなかった。


(やるしかないって、やっても負けるじゃん!? 逆にどう勝つか教えて欲しいぐらい何ですけど!?)


戦闘訓練というより、魔法を教えてもらいに来ているのに、どうして戦闘訓練になったのだろうか。というか、アルベドの認識と私の認識がずれているんじゃないかと言うところから、始まるのではないかとも。

まあ、ここまで来てしまって、今更に無理ですは、アルベドに通用しないだろうし、私としても格好悪いからしたくない。でも、アルベドは、理論派じゃなくて感覚派な気がするしそもそも教えるとかはこういうことだと押し切ってきそうと思った。

剣術とか、立ち回りとか、他にも戦闘慣れしているのに、魔法までで斬るアルベドはハイスペック過ぎる。ゲームだったら、凸らせたいキャラだと思った。


(一泡吹かせたいけど、そんなこと私に出来るはずも無いよね……)


あのニマニマ笑っている、アルベドに一泡吹かせたいと思っているけれど、そんな簡単じゃないことも分かっている。私が泣いて負けなような気もするんだよな……と、私は、アルベドの指示で、彼と向かい合った。


「お、お手柔らかに……お、お願いします」

「ンだよ、ビビってんのか?」

「当たり前でしょ!? アンタが、強いの知ってんだからね!」


そういえば、アルベドは、嬉しそうに口角を上げて「だよなあ」と、私を笑うような目で見てきた。腹立つことこの上ない。でも、それは本心だったし、アルベドが弱いなんて事一回も思った事無い。どれだけピンチの時に助けてもらったか。数回とかそういう次元じゃ無い気がしてきた。思えば、アルベドに頼っているところもあったし、助けて貰えるって確信していた部分もあった。アルベドに甘えていたんじゃないかとすら思う。


(不本意すぎる……)


リースを助け出すときに、力を貸して貰った、相棒に選んだのは他の攻略キャラの誰でもないアルベドだったから。


「まあ、俺が強いのは事実だが」

「自分で言うのは、何か違うと思うけど……そう思ってるし、周りからの評価もそうなんでしょ? 私に魔法教えてくれるとか良いながら、私のことボコる気じゃん」

「んなことしねえよ。多分な」

「多分って信用ならない言葉第一位なのよ! 逃げる言葉使ってんじゃないわよ!」


多分。とか言われて、身の毛のよだつ思いをした。本気で、アルベドが向かってきたら、私なんて勝ち目がないから。だからといって、アルベドが手加減してくれるかと言われたら首を縦に振ることは出来ないし、手加減するアルベドの顔が想像できなかった。

それに、手加減してくれたとしても、その後の自分が強くなれるとは思わない。


「やるしかないのかあ……はあ」

「嫌なら、やめれば良いだろ。お前から言いだしたことだし」

「だから、撤回すると、恥ずかしいというか。私は強くなりたくてきたの……って、ヘウンデウン教の事を聞きに来たんだけど、でも、アルベドに魔法を教えて貰ったら強くなるんじゃないかって言うのは、確かで」

「ふーん」


アルベドは、興味なさげにそう言うと、何処か遠くを見た。風邪でかすかにチューリップが揺れ、その香りを漂わせる。あまり匂わない花だと思っていたから意外で、私は瞬きをした。

紅蓮が揺れて、ピンク色が揺れて、綺麗な色で絵になるなあと、アルベドとチューリップの組み合わせは、案外悪くないんじゃ無いかとも思った。黙っていれば、本当に絵になるし、美形だと思うけど……その口の悪さを知っているからか、現実に戻される。


「何だよ。見惚れてたのか?」

「自惚れないで。絶対違うから」

「あっそう? でも、そんな風に俺は見えたが……まあ、お前は素直じゃないところがあるしな。好奇心旺盛で、変なところで積極的で……それで、何でそこまで、強くなりたいと思うんだよ。お前は、色々持ってるだろ」

「私が、持ってるってよく言える……偽物聖女だって言われてたの知っていたくせに、その言い方はないんじゃない?」


別に怒ってない。色々持っていると言われて、違う、そんなんじゃないと言い返しただけだ。アルベドは目を細め、その満月の瞳を鋭くさせた。

あっちもあっちで、私の地雷を踏んだんじゃと思っているのかも知れない。そんな心配をする必要は無いと言ってあげたいけれど、言葉にしたところで、どうにもならない。


(無い物ねだりって奴かな……私も、アルベドが持つ者だとは思っていたけど……関わっていくうちに、持たざる者なのかも知れないって、思い始めたし)


何でも出来る、非の打ち所のないイケメン。それが攻略キャラのあるべき姿だと思っていた。でも、実際は、現実にいるような、コンプレックスや悩みを抱えている、不器用な男達が多かった。

アルベドもその内に一人だって勝手に認識している。

私だって、不器用だし、感情のコントロールだって下手くそだ。それに、全部完璧に出来て、何でもかんでも手に入る持つ者であれば、こんなに今感情が掻き乱されていないのだと思う。


「強くなりたいって思うのは普通じゃない? 理由とかいるの?」

「そんなに焦って強くなる必要がねえだろって話してんだよ。お前は、聖女で、それなりに魔力を持ってる。ブリリアント卿に教えて貰うことだって出来るだろうし、つか、教えて貰ってたんだろ。実際。俺から聞く理由がイマイチよくわかんねえんだよ」

「アルベドだから。アルベドだから、教え方云々より、私の力引き出してくれそうな気がしたから」

「かなり、俺、お前の仲で評価委員だな。買い被りすぎだぞ」


と、アルベドは吐き捨てる。


買い被りすぎ。それはそうかも知れないけれど、私に合わせてくれるブライトよりかは、乱暴にでも引き出してくれそうなアルベドの方が適任だと思った。

リュシオルを殺されかけたとき、あの時、感情が暴走して、途轍もない魔力を放つことが出来た。だから、ああいう荒療治? 的な方法であれば、強くなれるんじゃ無いかとも思ってしまったのだ。やり方は乱暴でも、その乱暴さに振り回されて引き出されるなら、それでもいいって。

今はただ、時間が無い。

アルベドは、私の話を聞いた後、はあ……と大きなため息をつき、私の方を再度見た。先ほどの私に教える事を拒むような目ではなくて、仕方ないから、覚悟しろとでも言うような顔。

私は息を飲む。


「わかったよ。お前が強くなりたい理由は、何となく分かる。時間が無いのは、俺もだ」

「アルベドも?」

「だって、そうだろ。もう少しで、大きな戦いが始まるって噂だ。何でも、ラジエルダ王国に直接攻め込むだとか」

「……そう、なの」


私は知っているていで頷いたが、初耳だった。

確かに、最近周りの空気がピリピリしてきたなあとは薄々思っていたが、そういう理由があったのかと。でも、その話というか、ラジエルダ王国に本当に攻め込むとは思っていなかった。だからこそ、驚いた。

けれど、いつかそうなるだろうな、とは思っていたから。


「驚かないのか?」

「ううん、そうだね……でも、いつかそうなるんじゃないかって思ってたから。それが、すぐ近くだったって言うだけの話で。怖いとか、嫌だとかそういう思いはあるけど……だからこそ、尚更私は頑張らないとって思うかな」

「そうかよ」

「うん。だから、アルベド。私も、頑張って本気でぶつかるから、何か掴めるように、アシストしてよね」

「ああ、アシストは出来ないかもだが、お前の能力を引き出してやるよ。こい、エトワール」


挑発するように、クイッと指を曲げたアルベドに私は、魔力を溜めて創り出した光の剣を握りしめ、走り出した。

魔法は、イメージでどうにでもなるが、イメージが途切れたり、感情の起伏によって使えない場合がある。だから、私の弱点は、そのイメージが途中で途切れることなのだ。

アルベドは、私の攻撃をひょいと飛んでかわし、同じように、闇色の剣を出して、こちらに向かって走ってきた。本物の刃物より、鋭く光って見えたため、私は弱腰になってしまう。あれに切られたら……そう、想像するだけで、恐ろしくて、光の剣がかすみ出す。


(ダメ、これじゃダメ!)


私は、自分の中の恐怖心と戦い、真っ直ぐとアルベドの方を向いた。逃げたら負けだと思った。ここで、立ち向かうことで、そのイメージは繋がると。


「私は逃げない――――ッ!」

乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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