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『貴方想い、散りゆく恋』〜身分違いの恋だとしても〜
第漆話 偽った想い
『……。』
雪華に会わなくなってもう1週間か……。
なんて自分勝手なんだ。私は。自分で決めたことなのに。
コンコンッ。
『…入れ。』
『失礼致します。フィンレイ様。悪魔執事が来ています。』
『悪魔執事が…?…通せ。』
『はっ。』
『…失礼致します。フィンレイ様。』
『お忙しい中申し訳ございません。』
入ってきたのはベリアンとハウレス君だ。
『……憲兵。彼らと2人きりにしてくれ。』
『はっ。』
バタンッ。
『フィンレイ様。我々が来た理由…お分かりですよね。』
『……あぁ。概ね理解している。』
『えぇ。ご想像の通りです。主様のことで…。』
『……。』
一方その頃――
『ねぇ。ナック君。』
『はい。ラトさん。』
『どうして私たちだけ馬車で待機なのですか?』
『ラトさんが先程問題を起こさなければ良かったのですが…。』
『問題…?あぁ。難癖をつけてきた貴族を壊そうとしたからですかね。』
『ラトさん…。(呆)』
『だって主様の悪口を言った貴族ですよ。許せませんよ。』
『気持ちはわかります。私も抑えられる気がしませんでした。ですが、ここで問題を起こせば主様に危害が加わる。それだけは避けたいのです。』
『それは私も同じです…。仕方ないですね。終わるまでこのままでいましょう。』
一方、デビルズパレスは――
『え……?ベリアン達がフィンレイ様の所へ?』
『はい。フィンレイ様に話をつけに朝出掛けました。』
『私の為に…っ。』
『…どうしますか。主様。』
『え?』
『ここで、行かなければフィンレイ様はもうどこか遠くへ行ってしまうかもしれ ませんよ。』
『それって、どういう意味…?』
『…フィンレイ様は貴族です。沢山のご令嬢から求婚され…もしかしたら…。』
『っ、そんなの嫌……。私は本気でフィンレイ様のこと――。』
『でしたら、やるべき事は1つです。行きますよ。』
『ルカス…っ?』
『馬を走らせます。行きましょう。グロバナー家へ。』
『う、うん…!』
グロバナー家――
『私とて、あんなこと言いたくなかったんだ。だけど、私の立場として――』
『そのせいで主様は傷ついて泣いていたんです!貴方は我が主を傷付けた…。我々執事とってそれは許し難いことなのです!』
『!』
『無礼を承知で申し上げているのは分かっています。だけど、主様を傷つけられて黙っていられるほど私は謙虚ではありませんから。』
『ベリアン……。そうだな…。君らがそう思うのは普通のことだ。執事として……。』
『フィンレイ様……。』
『ボソッ。このことはルカスにしか伝えてなかったが、もうそれもやめだ。』
『え…?』
『私は…雪華のことが好きなんだ。』
『『!?』』
『っ、主様の気持ちには気付いていたんですよね…?』
『…あぁ。』
『主様の気持ちには気づいていたのにどうして……っ。』
『…こうするしかなかったんだ。彼女を、雪華を守る為には――。』
『『え……?』』
『はぁ、はぁ…っ。』
ルカスが馬を走らせ、私をグロバナー家に
連れて行く。
『ルカスさん!?』
『主様も…どうしてここに?』
『さぁ、主様。行きましょう。』
『はぁ、はぁ、うん…っ。』
心臓が苦しい。緊張してるのか、はたまたドキドキで――。
『ナック君、馬をよろしくね。』
『任せて下さい。』
『お気をつけて。主様。』
2人は私を見送る。
ダッダッダ…
グロバナー家の門を開き、急いで中に入る。
『はぁ、はぁ…!』
ルカスから全部教えてもらった。
馬では知ってる時に全部――。
本当は両想いなことも。貴方が、私のことを
守ってくれたことも全部――。
私が伝えたいのはただ一つ。『貴方が好き』
これだけは伝えたい――。
『私はグロバナー家当主。フィンレイ・グロバナー…。幼い時から色んなことを叩き込まれた。政略結婚だってさせられそうになった時もあれば、暗殺されそうなこともあったな。立場というのは…政略結婚や暗殺されることより怖くて辛いものなんだ。私は貴族の立場として雪華と添い遂げるなど、周りの貴族になんと思われるか。』
『……。』
『もし仮に、雪華と添い遂げられても、雪華が貴族に襲われたりしたらと思うと怖くて堪らないんだ。だから私は、雪華を守るために敢えて傷付けたんだ。私を嫌って憎んで、二度と好きにならないように。だがそれが…彼女を苦しめていたんだな。私はただ…
彼女を守りたかっただけなんだ。愛してるからこそ…傷付けたくなかったんだ。』
『『フィンレイ様……。』』
私はドアの外で全部聞いていた。
『フィンレイ、様…っ。う…っ。』
(やっぱり、私のために、全部…っ。)
『……。主様。行ってください。』
『ルカス…っ。』
『主様の想うことを全部伝えて来てください。フィンレイ様に。』
『うん…っ。』
私はドアを勢いよく開ける。
ギィィ…!
『…!テディさん?どうしたんですか?』
別邸のドアを開けてテディさんが部屋に入る。
『主様はフィンレイ様の所へ行かれたんですね。』
『…。そのようですね。』
『俺達、振られちゃったんですね。』
『えぇ……ですが、主君の幸せを願うのが執事です。』
『はい…そう、ですよね。』
テディさんは私にもたれ掛かる。
『う、う…っ。』
『……。』
テディさんの頭をそっと撫でる。
『ずっと、お慕いしておりますよ――
雪華様。』
『あーあ。無理にでも引き止めりゃ良かったな。』
『ボスキ…。』
『そうっすね〜惜しいことしたっす。』
『2人とも、主様が幸せならそれでいいと思わない?』
『はっ。お前が1番独占欲強ぇクセに健気なことだな。』
『そ、そんなことないけど…。』
『今度フィンレイ様に言っておくか。次泣かせたら俺らがもう屋敷から逃がさねぇってな。』
『ボスキ……(呆)』
『ふん…。最初からフィンレイの所へ行っておけばいいものを。』
『まぁまぁ、シロ。選ばれなかったからって拗ねんなよ。』
『は?うるさいぞ、ハナマル。』
『あ、図星?』
『:( #´°ω°` ):イラッ』
『剣を抜け、ハナマル。』
『おー怖。』
『落ち着けよ、シロ。』
俺はシロをなだめた。
『…主様。頑張ってね。』
『…フルーレ君。ここ、ほつれてるよ。』
『え、あ、すみません。』
『……気になるんだね。主様のこと。』
『……はい。主様が幸せならそれでいいんです。でも…少し辛いですね。』
『そうだね…でも、私達は執事だ。執事として主様の幸せを1番に願ってあげよう。』
『……はい…っ。』
俺はギュッと涙を堪えた。
『おい。ロノ。』
『あ?なんだよ。』
『沸騰してるぞ。』
『おわぁっ!!』
『動揺してるんだな。主様のことで。』
『そりゃそーだろ…。好きな人が違う男に惚れて…あんな必死な顔で屋敷から出てったんだからな。』
『あぁ。だが俺も同じ気持ちだ。今胸が痛くて仕方ない。』
『俺達2人とも振られたな。』
『あぁ。そうだな…。』
『ナック君は悔しくないんです?』
『え?』
『主様を取られて…。』
『…そうですね。今胸がとても苦しいです。ずっとお慕いしていた人が私の傍にいないのは、辛いですね。』
『えぇ…主様のことを好きだったのは同じですからね。ナック君。今は私しか見てません。泣きたいのなら泣いていいんですよ。』
『ラトさん…。はい、ありがとうございます。』
『フィンレイ、様…っ。』
『雪華…?今の、聞いて…。』
ダッダッダ…!
私はフィンレイ様の所まで走り、抱き着いた。
『っ!?』
バターンっ!!
その勢いで椅子から倒れ込む。
『好きです、大好きです…!フィンレイ様っ!!』
『雪華……っ。あぁ。私もだ。愛してる。』
ギュッと雪華を抱き締め返す。
『ベリアン、ハウレス君。』
2人に声をかけて、2人きりにさせる。
ギィィ…バタンっ
お幸せに――主様。
『済まなかった。君を傷付けてしまって。』
『そんなのもういいんですよ、フィンレイ様の気持ちわかってますから。全部私を思っての事なんですよね。』
『雪華…。』
『フィンレイ様とこうしてまた会えて私嬉しいです。』
『あぁ。私もだよ。』
2人はお互いに見つめ合う。
『ん……。』
フィンレイ様にそっとキスをされる。
『…このまま返したくないな。』
『えっ!? 』
『ふっ…。冗談だ。』
フィンレイ様は私の頭を撫でた。
『しばらく2人で話そうか。君に伝えたい事が沢山ある。』
『ふふ、全部聞きますよ。フィンレイ様。』
数時間後――。
『では、またね。雪華。』
『は、はい。』
フィンレイ様は門まで送ってくれた。
『お待たせみんな。』
『いえいえ。ちゃんと話せましたか?』
『うん!おかげさまで。』
『悪魔執事の諸君。雪華のことをよろしくね。』
『かしこまりました。フィンレイ様。』
『雪華、また。』
『は、はい!』
私はフィンレイ様に手を振り、馬車に乗る。
『……我ながら恥ずかしいことをしてしまった。』
私は唇に触れる。
(熱いな…。)
私はグロバナー家へ戻る。
両片思いの2人が、両想いになった。
だがそれを許せないのは悪魔執事のことをよく思っていない貴族で――?
ユラっ
『…このまま上手くいくと思うなよ。フィンレイ・グロバナー。悪魔執事の主。お前には罰を与えねばな。』
次回予告
フィンレイ様と両想いになり、今日はフィンレイ様とデート――のはずだった。
『ここは、どこ…?』
『目が覚めたか。』
『貴方は…!』
何者かに攫われた主様。助けに行くのはもちろんフィンレイ様と執事達。無事に主様を救うことは出来るのか――
次回
第捌話 愛する人の救出
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