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優奈に抱いた感情。
父に抱く感情。
どちらかを認めてしまったなら、どちらかと必ず向き合わなくてはいけなくなるから。
「ねぇ、私がどれだけまーくんを見てきたかわかってる?」
逃げてばかり。
見せかけばかり。
雅人が必死に作り続けた縮まることのなかったこの距離が、どうしようもなく愛おしい。
紛れもない、雅人の弱さだったのだから。
「高遠のパパのとこでも言ったでしょ。まーくんが望んでる自分じゃなくなろうとしてたら私が引っ叩いてでも止めてあげるし、守ってあげる」
その場にいるだけで、たくさんの人が振り返り熱いため息をこぼす。
これまで数え切れないほどの人間を魅了してきただろう高遠雅人の、弱さを握るのは。
(私だけだ)
「まーくんはパパのコピーなの? 何もかも同じになるの? 違うよね?」
「違うと思いたい」そう言って、頷く雅人。
しかし落ち着きのない指先は、迷いを優奈に見せつけてくる。
「どうして未来を見てきた気になってひとりで決めちゃうの? まーくんがどれだけ予想したって、そこに私がいればそんなもの当たらない! まーくんには私がいるじゃんか」
(私だけが、この人をこんなに弱々しく跪かせることができる)
「私だって、今、喜んでるの」
「喜ぶ?」
眉を顰める雅人。
そうだ、もっと、こっちを見て。
優奈は声に力がこもる。
伝わってほしい。雅人は雅人だと、優奈は優奈だと。そうでしかないのだと。
「世間を騒がせるイケメン社長だなんて言われてる高遠雅人は、私がその手の中にいなきゃこんなに……、何も持たない子供みたくなるの、嬉しいよ?」
「優奈」
「まーくんが抱く支配とか優越とか、そんなのと何が、違うの!?」
「優奈!」
声を被せるようにして、雅人は優奈の名を叫び、掻き抱くようにその広い胸の中に閉じ込めた。
そこには優しさや慈愛に満ちた余裕もない。優奈の身体をソファーに押し付けたかと思えば、声を発する暇を与えることなく食いつくようなキス。
「ま、まーく……ん」
雅人との初めて触れ合った唇。
それは何も言葉を発しないまま、何度も角度を変え繰り返され、深さを増してゆく。
「優奈」と名前を呼ぶたびに、髪の毛を梳かすその手さえも荒く強引だ。