真っ白い空間だった。
眩しい。
額の上に手のひらを乗せては
下を向いた。
青々しく広がった芝生があった。
知らない子どもたちが
楽しそうに遊んでいる。
少し離れているところにはブランコやローラー滑り台
グローブジャングル、シーソー、ターザンロープがあった。
目の前にコロコロとボールが足元に転がって来る。
無意識にそのボールを拾った。
「お父さーん! 早くボール取ってこっちに投げてよ!」
遠くで手を振って呼んでいる女の子がいた。
颯太は手を振って走ってボールを投げた。
「紬ちゃん、ボール投げうまいね」
「本当? ありがとう。学校のスポーツテスト1番取っただけあるかな」
紬の隣にいる女性の顔が光で見えない。
「スポーツテストで1位? すごいね」
「それほどでも〜。って、お父さん、投げたボール届いてないよ」
「あー……ごめんごめん」
そう言うと、また白く光って消えた。
夢を見ていたようだ。
広いたくさんの遊具がある公園で
誰かと遊んでいた。
紬ともう1人。
顔がぼんやりしていて実花なのかそれとも別な誰かなのか分からなかった。
理想的な家族の風景。
公園遊びなんて行ったこともない。
年中無休のパン屋
休みなく働いて、こどもとの遊ぶ暇もない。
いつも紬の相手をするのは颯太だけ。
実花はパン生地に夢中で紬と遊ぶことに興味はなかった。
颯太がいない時は実花の母が居間で一緒にカードゲームするくらいで外に出て遊ぶことは少なかった。
颯太は家族3人で出かけることをいつも夢見てた。
それは叶わない夢だった。
そう思っていた矢先のカフェに一緒に行こうと言う突然の提案。
実花の母が出不精の実花をいくらでも外に出させようと考えていた。
夫婦の仲、家族の関係も良くなるようにと思っていたものだった。
◇◇◇
「ごめん、紬。仕事が入って、行けなくなったんだ」
朝起きてすぐに颯太は紬に電話をかけた。
無理矢理に作り上げた空間でいい関係が築けるわけがない。
「ええーーー。つむちゃんすごく楽しみにしてたんだよ。お父さんと行くの。久しぶりに会うし、カフェなんて3人で行くの
初めてなのに……それなのに……。もういいよ、お父さんなんて大嫌い!!」
子どもは正直だ。
素直に感情を表現できる。
その行動が羨ましいとさえ思う。
そう言うと、実花のスマホはプツンと切れた。
そこに実花のフォローさえも入らない。
実花はどう話したらいいとかも考えられない人だ。
パンとは向き合えるのに人とは向き合えないみたいだ。
これで良かったのだろうか。
スマホをテーブルにおいてベランダに行き、タバコに火をつけた。
もう家族に執着するのはやめようかなと考え始めた。
ただただ、生活費を仕送りして何の見返りもない。
子どもを連れて会いにもこない。
ましてや、実花の方から連絡なんて来たこともない。
こちらから実家に帰っても歓迎をされない。
自分は何で存在してるんだろうと精神的に病む時もあった。
無関心。
夫婦仲は良くなかった。
紬のことで少し話題にあがれば会話する。
紬がいなければ颯太はいてもいなくても
変わらない。
その関係性に耐えられなかった。
ベランダに煙を吹かしているとスマホがバイブレーションで揺れているのが見えた。
『おはよう、颯太さん』
「ああ、熱は? 下がったの?」
『さっき測ったら37.9だった。解熱剤は飲んだんだけど、寒気して極寒にいるみたい』
ガタガタブルブル震えながら、ベッドにスマホを置いて話し続けた。
「北極くらいの寒さかな。ダウンジャケット着ないといけないよね」
他愛のない話し相手が心地よかった。
「今、看病しに行くよ」
颯太はタバコを灰皿に押し付けて早々に服に着替えて勢いよく玄関のドアを開けた。
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