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#さのじん
自分夢の中
3,722
柔side
「おい、冗談だろ……」
時計の針は深夜1時を回っている。
締切まであと数時間。
なのに、俺の目の前にある原稿用紙は、おぞましいほどに真っ白だった。
いつもなら、俺がプロットを渡せば、舜太が魔法みたいに綺麗な線で女児たちの夢を描き上げてくれる。
しかし、肝心のしゅん丸先生が、夕方から忽然と姿を消した。
誘拐された。
……いや、笑えない。
マジで事件だ。
「……いや、待て。俺だって原作者だ。絵の一枚や二枚、最悪俺が……!」
ペンを握り、舜太の絵を思い浮かべながら必死に線を引く。
ガリッ、ビッ。
「……何これ。呪いのわら人形?」
自分で描いたヒロインの顔を見て戦慄した。
目が完全に据わっている。
これじゃ女児たちの夢どころか、トラウマを植え付けるバケモノだ。俺、絵が下手すぎる。
いや、下手なのも問題だけど、それ以上に頭の中が「舜太、今どこで何してる」「無事なのか」で埋め尽くされて、1ミリも集中できない。
やっぱり、舜太じゃなきゃダメだ。
俺の隣には、あいつしか——。
その時、机の上でスマホがけたたましく震えた。
非通知。
嫌な予感を胸に画面をスワイプした瞬間、スピーカーから信じられない声が聞こえてきた。
『……っ、ゆ、柔太朗……たすけ、て……っ』
「舜太!?」
画面に送られてきた動画には、縄でキツキツに縛られ、服はボロボロ、目元を真っ赤にして泣きじゃくる舜太の姿が映っていた。
『ガハハ! 連載を落としたくなければ——』という誘拐犯の下衆な笑い声を置き去りに、俺はスマホを掴んで部屋を飛び出していた。
時刻は夜中の3時。
夜の街を全速力で走りながら、俺の脳裏には走馬灯のように、これまで隠し続けてきた「本当の気持ち」が溢れ出していた。
あいつは、俺たちが『漫画の相棒』として仲良くなったと思ってるだろう。
でも違うんだ。
俺は、ずっと昔からお前が好きだったんだよ
「待ってろ、舜太……絶対助ける!!」
舜side
「う、うぅ……ひっく、柔太朗ぉ……」
なんで俺、こんな薄暗い廃倉庫で縛られてるんやろ。
体がバキバキに痛いし、服は破れてるし、何より締切がやばい。
目の前には、絵に描いたような大男が3人。
しかも手にはハンマーやら斧やら、完全に一線を超えたガチの凶器を持っている。
女児漫画の悪役でも、もうちょっと可愛い道具使うぞ。
「おい、ガキ。泣いたって誰も来やしねえよ」
「今頃相棒のイケメンも、絶望して原稿用紙破り捨ててる頃だろ!」
大男たちがゲラゲラ笑う。
アホか、柔太朗が俺のいない間に原稿描けるわけないやろ!
あいつ、びっくりするほど絵が下手くそなんやからな!
今頃トーンの代わりに呪いのオーラ放ってるわ!
ガシャーン!!!
突然、倉庫の重い扉が蹴り破られた。
「舜太を、返せ」
月光を背に受けて立っていたのは、息を荒くした柔太朗だった。
深夜3時に全力疾走してきたはずなのに、乱れた髪すら芸術的に美しい。
やっぱり顔が良すぎる。
「あ? なんだァ、本当に来やがったか!」
大男たちがハンマーを振り上げて柔太朗に襲いかかる。
あかん、柔太朗! 相手は凶器持っとる!!
そう叫ぼうとした俺の目に、信じられない光景が飛び込んできた。
柔太朗は、突っ込んできた男の腕を流れるような動作で掴むと、そのまま鮮やかに脳天からコンクリートへ叩きつけた。
ズドォォォン!!
「……え?」
間髪入れず、斧を持った2人目の懐に潜り込み、綺麗な一本背負い。
バキィィィン!!
「ひぎぃっ!?」
最後の一人が怯んだ隙に、電光石火の足払いでトドメ。
そう、山中柔太朗はただの顔がいいインテリ原作者ではない。
運動神経バチくそお化けな上に、柔道初段の有段者なのだ。
わずか数十秒で、3人の大男が床に転がってピクピクしている。
「舜太、大丈夫!?」
柔太朗がすぐに駆け寄ってきて、縄をほどいてくれた。
「じゅ、柔太朗……っ」
緊迫の糸が切れた瞬間、ボロボロにされた恐怖と痛みが一気に押し寄せてきた。
急に息が上手く吸えなくなる。
「はっ、……く、は、……っ」
「舜太!? 落ち着いて、過呼吸だ。俺の真似して息吐いて。すー、はー」
柔太朗が俺の体を強く抱きしめ、背中を優しくさすってくれる。
その温かさと、あいつの胸のドクドクという速い鼓動が伝ってきて、少しだけ呼吸が落ち着いてきた。
「ごめん、な……原稿、間に合わん、かも……」
泣きじゃくりながら謝る俺の頭を、柔太朗が愛おしそうに撫でた。
「そんなのどうでもいいよ。……いや、どうでもよくはないけど、今は舜太無事ならそれでいい。世界で一番、あいつらより、漫画より、俺には舜太が大事だから」
耳元で囁かれたその声が、あまりにも優しくて熱くて、俺の心臓は過呼吸とは別の意味で爆発しそうになっていた。
天下獲ったら付き合う…か…
ありかもな……
そう思いながら俺はまぶたを閉じた。
fin
コメント
1件
おお、第11話読み終えたわ!今回も熱かったな~🔥 柔太朗、まさかの柔道初段で誘拐犯を秒♡♡♡るとかカッコよすぎるやろ!「流れるような動作で掴む」とか「電光石火の足払い」とか、戦闘描写のキレが良くてテンション上がったわ。しかも助けた後の過呼吸の舜太を抱きしめて「俺には舜太が大事」って囁くシーン…エモすぎて心臓持ってかれた(笑) 舜太の「女児漫画の悪役でももうちょい可愛い道具使うぞ」って関西弁のツッコミもめっちゃ好き。 続き、めっちゃ気になるわ!