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「これが……桜か……」
「こんな光景があるなんて―――
まるで夢のようです」
六十過ぎの老人が、孫のような年齢の女性と共に
公都『ヤマト』の桜を見上げる。
ここは公都の『ガッコウ』施設……
そこの校庭のような広場で、
満開となった桜の木々が、来る人々を
喜ばせていた。
「じいちゃーん!
団子あげるー!」
「おうおう、すまんのう。
ありがたく頂こうかの」
そこへラミア族の女の子がやって来て、
二人に串団子を渡し去っていく。
「人外や亜人の子がこんなに―――
公都の事は知っていたつもりでしたけど、
こうして見ると、本当に天国のような
世界ですわ」
「桃源郷……というものか。
クアートル大陸では見られぬ光景だ」
目尻のシワを細めながら、老人はうなずく。
この好々爺に見える老人―――
実はランドルフ帝国の皇帝、マームードその人
であり、
そして側に控える女性……
パープルの前髪を眉毛の上で揃えた彼女は、
ティエラ王女様であった。
もちろんお忍びで来て頂いているが、
どうして二人がここへ来たのか―――
それは数日前に遡る。
大ライラック国との一件が片付き、実はそれは
ティエラ王女様と相談の上で解決した事だと、
事後承諾のような形で皇帝・マームード陛下にも
報告が上がった。
そこでティエラ王女様の仲介の下……
私も皇帝陛下に謁見しつつ、事情を説明する事に
なったのだが、
途中から雑談のようなものに移行し、ふと私が
桜の話題に触れた途端、ティエラ様もマームード
陛下もそれに興味を示し、
事が一段落したのだからと、一目見せて欲しいと
『ゲート』を使用しての訪問になったのである。
もちろん、ライオネル様の許可も取っては
いるが、
『まあお前が護衛につくんだったら、同時に
メルとアルテリーゼもつく事になるし、
大丈夫だろう』
と、家族同伴で陛下と王女様の護衛兼案内に
つく事を条件に―――
公都『ヤマト』での一時滞在が認められたので
あった。
「どうですかー? おじいちゃん。
私たちも花見は初めてなんですけど」
「おおそうか。それは意外じゃな。
てっきりもうずっとここで行われてきたと
思っていたが」
黒髪ロングの童顔の妻が陛下を接待し、
「もともとこの桜は、天神族の里にあった
ものでのう。
鬼人族の里にも送られたし、帝国でも
植えてみてはいかがか?」
「ピュウ~」
同じ黒髪の、欧米風の顔立ちをしたもう一人の
妻が、続けて対応する。
「春にしか行われないとはいえ……
これだけのものが見られるのです。
きっと、新たな風物詩となるでしょう」
ティエラ王女様もうなずきながら、満開の桜を
見上げる。
「初めて見るお人ですな。
まあ、シン殿の連れて来た方なら問題は
無いでしょうが」
そこへクーロウ公都長代理―――
今はそれを息子に譲り、『ガッコウ長』となった
老人が現れ、
「あ、こちらマームードさんです。
あちらのランドルフ帝国の商人の方で」
「おー、そうですかそうですか。
海の向こうからはるばる、『ヤマト』へ
ようこそ」
ニコニコと笑顔で挨拶し、彼の紹介もと思い
陛下に話を続ける。
「ええと、彼はクーロウさんです。
この公都『ヤマト』の『ガッコウ長』でして」
「これはこれはご丁寧に。
マームードと申します、どうぞよろしく」
その光景をティエラ王女様はハラハラしながら
見守っていたが、
「しかし、ここはすごいところですな。
亜人や人外、他種族がこれだけ入り混じって、
そして平和に過ごせている国を―――
私は知りませんよ」
「ははは、こちらでも実際のところ、ここ数年の
出来事でございます。
私が子供の頃はそれこそ、獣人すら珍しい
存在でしたからね」
確かにこの世界に来て、人外らしい人外との
交流はドラゴンが初めてだった。
次いでラミア族や獣人、精霊様たちと来て、
思い返せばこれほどまでに他種族と交わる事に
なるとは予想もしていなかったな。
「ほほう、それほどまでに、ですか」
「それもこれもシン殿のおかげです。
この年になってこれほどの変化を見られるとは
思いもしませんでしたよ」
その節はすごく迷惑をかけたしなー……
思わず肩をすくめてしまう。
「それじゃ、ごゆっくり堪能なさってください」
「ええ、楽しんでいきますよ」
はたから見ると、老人同士の何気ないのんきな
会話だが―――
一方は帝国の皇帝陛下だとは誰も思うまい……
そうしてただの商人となった皇帝と王女、そして
私たち家族とで、花見は再開された。
「うーっす、やっているか?」
「あ、ジャンさん」
この公都のギルド支部長がやって来て、
私たちにあいさつする。
「レイド君とミリアさんは?」
私の疑問に、筋肉質のアラフィフの男は小声で、
「(だって皇帝陛下と王女サマだろ?
花見に行くって言ったら、逃げるように
去って行ったぜ)」
あー……
まあ普通の神経をしていたらそうなるかも。
予め、この二人の正体はギルドメンバーには
伝えていたんだけど、それが裏目に出たようだ。
「それより、楽しんでいるかい?」
マームード陛下とティエラ王女様に
彼が話を振ると、
「ああ、こんなに楽しい事は久しぶりだ」
「空にはドラゴンやワイバーンが飛び―――
そこかしこで、獣人やラミア族、精霊様が
駆け回る……
理想郷というのは、こういうところを
言うのでしょう」
ここは亜人・人外専用地区もあり、結構な比率で
他種族が共存している。
確かに、他ではめったに見られない光景だろう。
「……故郷でも、このような光景が見られる日が
来るであろうか」
どこか遠い目をして、皇帝が独り言のように
つぶやく。
ランドルフ帝国の人外に対する扱いは
知っている。
また、周辺国を武力で制圧してきた事も。
この前、自治権の拡大を認めるなどの政策を
行ったものの―――
恨みというのは一朝一夕で薄まるものではない。
「すぐには無理、だろうな」
ジャンさんも独り言のようにつぶやいて答える。
その言葉にティエラ様は目を伏した。
彼女は公聖女教信者として、
ランドルフ帝国の周辺国や亜人・人外に対する
待遇改善に動いてきた。
それだけに、帝国が行ってきた数々の非道や
差別は、身をもって知っているのだろう。
「うーん、まぁねー」
「こういうのは心の問題でもあるからのう」
「ピュイィ~」
家族も同調するような感じで反応する。
実際私は、ランドルフ帝国がやって来た事を
全否定する事はない。
周辺国、勢力の安定化は国防上しなければ
ならない事だ。
武力でも調略でも……
他の大ライラック国やモンステラ聖皇国、
ドラセナ連邦とは地理的にも離れているため、
すぐに戦火を交える事態にはならないが、
隣接している地域を制圧・管理下に置く事は、
『まともな』支配者・施政者であれば誰でも
最優先で考える事だからである。
「シン殿。
このような光景はあなたがいたからこそ、
と聞いておる。
故郷は今後―――
どのように動くべきだろうか?」
マームード陛下の問いに、王女様も私の顔を
のぞき込むように見つめる。
私は手にしていた日本酒を少し喉に流し込むと、
「とにかく、豊かにする事だと思います」
「ふむ?」
私の答えに老人はアゴを軽くなでる。
「本国、周辺国共に……
生活を安定させ、将来の希望を持たせて
やる事が肝要かと。
結局、反発も反乱も―――
社会不安や未来に夢も希望も持てなくなる
事からくるものです。
ある程度地に足をつける生活が保障されるので
あれば、不満は無くなるかと」
実際、テロや破壊活動に走るのはそれが原因だ。
宗教や歴史的な恨みを晴らすと言っても……
直接的な行動原理は、経済的な不安定、つまり
貧しさからくる事がほとんど。
現に何十年にも渡りテロ活動を続けていた
組織が、本国が世界有数のIT国家へと変貌を
遂げた途端、
あっという間に和解し、テロ行為は鳴りを
潜めた。
「もちろん、全員が全員それで納得はしないで
しょうが―――
時間をかければ、改善されていくのでは
ないかと思います」
その答えに納得したのか、マームード陛下は
両目を閉じ、
「……そうだな。
たいていの不満は貧困から生じる。
どんな理由もその後付けに過ぎんだろう。
これは何としてでも、この大陸との交易・
交流を盛んにせねばな」
「まっ、そこまで深刻に考える事もないんじゃ
ねぇか?
あの『神前戦闘』で、獣人族の人気は
すごく上がっているしよ。
それに亜人や人外を題材にした演劇も、
ここじゃすごく流行ってんだ。
それらを導入していけば―――
こうなる未来はすぐだぜ」
ジャンさんが周囲を見渡しながらカラカラと
笑う。
そこには、人間に混ざって酒盛りしたり、
お団子を食べるハーピーや魔狼、羽狐たちも
いて、
改めて公都『ヤマト』の他種族共存を実感し……
その日は皇帝も王女様もここで一泊し、
翌朝―――
私たち家族と共に『ゲート』でランドルフ帝国へ
帰還する運びとなった。
「ビルドさんが帰って来ない?」
以前、獣人族のビルドさんに故郷へ戻って、
『神前戦闘』に興味のある人材をスカウトして
欲しいと頼んでいたのだが、
(■215話
はじめての すぱいたいさく参照)
その進捗を聞きにランドルフ帝国帝都・
グランドールの冒険者ギルド本部を訪問
したところ、
彼がまだギルドに戻って来ていない事を
聞かされたのである。
「何かあったのかな?」
「人材の選定で遅れておるのかのう」
メルとアルテリーゼも首を傾げ、
(ラッチはティエラ王女様預かり)
「んー、ここに来てトラブルとはねえ。
彼の祖国で何かあったのかな?
でも、別段敵対とかそういう案件じゃ
無かったと思うんだけど……」
シルバーの短髪の男性―――
ベッセルギルドマスターも両腕を組んで
視線を天井へと向ける。
「新たな奴隷募集か何かと間違われたとか」
受付嬢のカティアさんがぼそりと話す。
そういえば以前、彼は闇闘技場に出場させられ
そうになっていた事もあるしな。
映像記録用の魔導具があったとはいえ、
殺し合いか何かをさせられると疑われた
可能性も……
と思っていると、
「ギルドマスター!」
「兄から手紙が来ました!
って、シン様もいらっしゃったのですか?」
そこへブラウンの短髪にハチマキのような布を
巻いた、パーティー『月下の剣』リーダー、
エードラム君と、
その彼女である獣人族、クエリーさんが
ギルマスの部屋へ入って来た。
「手紙―――
という事は、彼は無事なんだね?」
ベッセルさんが聞き返すと、彼女はコクリと
うなずき、
「とにかく、詳細はここに……
どうも何か面倒な事になっているようです」
そこで私たちはみんなで、手紙の内容を
確認する事になった。
「あ~……
奴隷待遇改善などがあったから、逆に
警戒されちゃったのかな?」
手紙を読み終えた第一声は、ギルドマスターから
話された。
事の次第はというと―――
奴隷待遇の改善及び規制強化、そして周辺国の
自治権拡大が重なった時に、
ビルドさんが持って来た『神前戦闘』の選手募集
という話はあまりにも美味しく、
『本格的に奴隷撤廃が行われる前に、その人員を
確保しようとしているのでは?』
と疑われてしまい、
また『神前戦闘』の記録映像は見せたものの、
それはウィンベル王国で撮ったもので、
下手をすれば海の向こうに売り飛ばされる
のでは、と悪い方向に疑いが重なり、
ビルドさんは帝国に戻る事も出来ず、拘束されて
しまっているのだという。
「奴隷となった獣人族は、いったん解放されて
国に戻ったら……
もう二度と帝国に行かないくらいの扱い
でしたからね」
「そこへきてまあ、獣人族が大人気のイベントが
あると聞かされても―――
なかなか信用はされ辛かったのかも」
クエリーさんとエードラム君が申し訳なさそうに
語る。
「しかし今回の件は……
獣人族全体のイメージアップもかかっている
事でもあります。
売れるのはもうわかっておりますし、
何としてでもこの大陸で、『神前戦闘』の
選手を育成しなければ」
その第一手でつまずくわけにはいかない。
私が頭を悩ませていると、
「俺が行きます、シンさん!
親父が絡んでいる事でもありますし―――」
「いやいや、余計ややこしくなると思うよ。
それに君は今や獣人族を一員とした、
ミスリルクラスパーティーのリーダーなんだ。
君まで万が一の事があったら、それこそ
獣人族に対するこれまでのイメージ改善が
一変してしまう」
彼の提案をギルマスが却下し、再び重苦しい
空気が室内に流れる。
「もうここはシンが出るしか無いのでは?」
「言い出しっぺでもあるし、ビルドに頼んだのは
シンであろう。
行く理由は十分あると思うが」
と、妻二人に動く事を勧められる。
確かにこの件の発端は私だ。
関わっていないとは言えず、むしろ当事者
でもある。
「ふむ、それならギルドからの依頼という事に
出来そうだねえ。
シン殿、どうも向こうに誤解があるよう
だから―――
行って『話し合い』をしてきてもらえない
かな?」
と、正式に冒険者ギルド本部からの
依頼となり……
私たちはその日のうちに、ビルドさんと
クエリーさんの故郷―――
獣人族の国へと出発する事となった。
「ビルド、すまねえな。
俺たちとしちゃ、あの『神前戦闘』―――
やってみたい気持ちはあるんだが」
「年寄り連中は頭が固いからな……」
渦中の人物たるビルドは、生まれ故郷の
とある村で軟禁状態にあった。
「……まあ、俺も話を急ぎ過ぎた。
それに今までの経緯を考えたら、素直に
ハイそうですかと信じる事は出来ないだろう」
あまり年の変わらない青年層の連中を前に、
ビルドはため息をつく。
するとそこへバタバタと複数の足音がして、
「ビルド! お前―――
シンという人間を知っているか?」
初老くらいの年齢の獣人族が来るなり、
質問を浴びせる。
「シン様か? 俺の恩人だ。
向こうの大陸から来たという話だが……
そもそもこの話自体、シン様が持ち込んだ
ものだったからな」
困惑している老人に彼は淡々と答え、
「そのシンという男だが、ドラゴンの妻が
いるという話は本当か?」
「ああ。確か妻は2人いて―――
ドラゴンの方はアルテリーゼ様、人間の方は
メル様という奥様がいる」
それを聞いた男は目を白黒させ、周囲の
青年たちは何事かと質問する。
「いったい何があったのですか?」
「慌ただしく来たようですが」
その問いに初老の獣人族は一息入れて、
「そのシンという人間がこちらに来ている。
お前も当事者であろう。
来るがよい」
「シン様が……!?」
その答えにビルドは驚いて立ち上がり、
老人の案内でその場へと向かった。
「あ、ビルドさん。お久しぶりです」
「シン様!
どうしてこちらへ!?」
私たちは彼の妹であるクエリーさんから頂いた
手紙を見せると、
ひときわ大きな建物の中へと案内され、
そして一番大きい部屋であろう大広間で
待機するよう指示されていた。
「いえ、何かちょっと誤解があるよう
でしたので……
そもそもの話は私が持ち込んだものですし、
私の口から説明するのが筋かと思いまして、
こうしてここまで来た次第です」
私がそう話すと、恐らく長老クラスであろう
獣人族の老人たちが渋面を崩さずにこちらを
見つめる。
「確かにあの『神前戦闘』の様子は、魔導具で
見せてもらった。
熱狂する観客や、まるで偶像のように
扱われている選手もな」
長老クラスの中でも一番偉いであろう老人が、
年齢に似合わない重厚な声を発する。
「ここに来てランドルフ帝国の動きは解せない
ものばかりだ。
確かにその動き自体は、我々が歓迎するべき
ものである。
だがどうして、こうまで方針を変えたのだ?」
まあ侵略上等の覇権国家が、いきなり平和路線、
寛容路線に走ったら何かあるか勘繰りたくも
なるだろう。
「……私どもは海の向こうの大陸から来ました。
『神前戦闘』も、あちらの獣人族がやっていた
ものです。
こちらでの歴史や経緯はある程度聞き及んで
おりますが―――
確かに向こうの大陸では亜人・人外に
対する差別は無いとは言いません。
ですが少なくともここより寛容なものだと
思われます。
異種族間結婚も盛んでありますし」
そこでいったん話を区切り、
「それがランドルフ帝国との交流の中で、
影響を与えたのではないかと思われます。
帝国としても有望な交易先との関係を考え、
熟慮した結果かと」
すると話していた長老はフッ、と笑い、
「商売のためか。
ずいぶんと正直に申すものだのう。
だが利益のためと言われれば、まだ
納得する余地はある」
「今回の『神前戦闘』も―――
帝国で莫大な人気を博し、相当な利益を
上げたと言われています。
なので裏に企みや狙いなど無いものと」
ビルドさんが補足するように説明する。
そして恐らく村長的な存在であろう老人が
うなずくと、他の長老連中も同様にうなずき、
「よかろう。
選手とやらの選抜でも何でも、やって
みるといい」
これでようやく解決に至ったかと、ホッと胸を
なでおろしていると、
「……だが、条件が1つある。
いくら何でも無条件で、と言えるほど―――
帝国との確執の根は浅いものではない」
私や妻たちが姿勢を正すと、長老は続けて、
「我らが先祖を祀る廟がある。
どういう仕掛けかわからぬが、非常に強大な
魔力によって守られておるものだが。
そこに行って報告し……
戻ってこれたら今回の件を認めよう」
「それは!」
ビルドさんが口を挟む。
そんなに難しい条件なのだろうか?
彼は続けて、
「それでは最初から拒否しているも同様では
ありませんか!
あの廟は我らの中でも、10年に1人と
言われるほどの強者でなければ―――
無傷では帰れないもの!」
「だからこそだ。
それほどの条件を見事達成したのであれば、
文句を言う者はおるまい?」
そこで私は妻たちと顔を見合わせ、
「そんなに難しいものなのですか?」
するとビルドさんは頭を下げ、
「『魔力溜まり』とはまた異なりますが……
急激に魔力を放出される場所なのです。
あまりに強烈過ぎる魔力を浴びる事は、
よほどの者でなければ耐える事は出来ませぬ
ゆえに」
それを聞いて私とメルとアルテリーゼは、
「なーんだ、魔力か」
「ならシンであれば問題はあるまい?」
「そうだね。じゃ、ちょっと行ってくるか」
私たちが立ち上がると、獣人族たちはポカンと
した目でこちらを見つめた。
「……この廟じゃ。
中に入ると強力な魔力に襲われる。
すぐに出て来ればそれほど人体に害は無いが。
あそこにある最奥の本尊まで行って戻って
来るには―――
よほどの者でなければ不可能であろうて」
案内された私たちは、その古ぼけた建物を見て、
「おー、確かにこりゃスゴい」
「どうやってこの魔力を維持しているのか」
妻たちもその魔力のすごさを実感している
ようだが、
何せ私は魔力そのものが無いので、ただの
古い木造の建物にしか見えず……
「シ、シン様! おやめください!
恩人を危険な目にあわせるわけには……!」
ビルドさんが心配して止めて来るが、
「あの、この魔力―――
魔法で封じてもよろしいでしょうか?」
私の言葉に長老は一瞬目を丸くして驚いた
ようだが、
「そういえば、すさまじい『抵抗魔法』の
使い手だと聞いた。
まあ、やれるものならやってみるがよい」
苦笑しながら老人は一歩引くが、私は小声で、
「人に害を与える、もしくは強力な……
そんな魔力を発する場所など
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやくと、
「な!?」
「ま、魔力が、き、消えた……?」
「な、何をしたのだ!?」
獣人族たちが困惑する中、私は建物に一歩
足を踏み入れて、
「あ、ちゃんと後で戻しますから―――」
と、彼らが見守る前で奥まで行って本尊に
手を合わせ、
そして戻って来ると……
『無効化』を解除したのだった。
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