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午後の柔らかな日差しが、スタジオの大きな窓から静かに差し込み、空間を黄金色に染め上げていた。 舞うほこりの粒が光を受けて浮かび上がり、まるで金色の粉が空中を漂っているようだった。
窓の外では、初夏のそよ風が木々の葉を優しく揺らし、時折聞こえる鳥のさえずりが、都会の喧騒をほんの少し遠ざけている。
壁一面に設置された巨大な鏡は、その光を受けてまばゆく輝き、スタジオに開放感をもたらしていた。
反射した光が空間をさらに広く感じさせ、どこまでも続くようなその中に、彼らの声や足音が豊かに響いていた。
木目のフローリングはやわらかく光を受け止め、ダンスのたびに軋む小さな音が静かに空気へと溶けていく。
ときおり、靴底が床を擦る音が静けさを破り、そのリズムが彼らの呼吸や鼓動と重なって空間を満たしていく。
練習の合間に交わされる軽口や笑い声が、張り詰めた空気をそっとほどいていた。
スピーカーからはグループの最新曲が静かに流れ始める。
深みのある重厚なベースラインが低く響き、透明感のあるメロディーが優雅に乗る。
リズムは一定の波のように押し寄せ、スタジオ中にじわじわと広がっていった。
その響きは身体の芯にまで届き、自然と動き出したくなる衝動を呼び起こす。
今日はメンバーのうち四人が揃っていた。
残るメンバーは別の予定で欠席だったが、そんなことは気にせず、彼らはいつも通りの集中力で練習に臨んでいる。
彼らの中に流れる絆は、言葉にしなくても伝わるほどに深い。
颯斗は黒のスウェットに白いスニーカーというシンプルな装いながら、その佇まいにはリーダーとしての貫禄があった。
まっすぐに伸びた背筋、地にしっかりと足をつけた立ち姿は、見る者に安心感と信頼を与える。
精悍な顔立ちの中に時折のぞく無邪気な表情もまた、彼の魅力のひとつだった。
鏡の前で何度も動きを確認しながら、彼は常にメンバーの様子に目を配り、的確な指示を飛ばしている。
「よし、もう一回サビのラップから行くぞ!」
颯斗の声は低く、しかし芯のある響きで、スタジオの隅々にまで届いた。
その一言でメンバーの意識が一点に集中し、空気がきゅっと引き締まる。
その隣に立つのは、グループ最年少の永玖。
黒のジャージに身を包み、手にしたマイクを軽く握っていた。
透き通るように白い肌、無垢な笑みが時折のぞくが、歌い出すと表情は一変し、情熱的な光を放つ。
高く伸びる彼の歌声はスタジオに透明な虹を描くように響き、颯斗への信頼と想いがそのまま乗せられていた。
「任せて、颯斗。ここは絶対キメるよ」
その声は真っ直ぐで、幼さの残る響きの中に強い意志がにじんでいる。
少し離れた位置では、直弥が鏡越しに颯斗と目を合わせ、いつものようにツンとした表情を見せながらも、どこか優しげに微笑んでいた。
白いタンクトップに黒のジョガーパンツというラフな服装が、しなやかな身体の動きを際立たせている。
彼のダンスには鋭さと柔らかさが共存しており、グループに欠かせない存在感を放っていた。
クールな表情の裏にある照れ屋な一面も、ふとした瞬間ににじみ出てしまうのが彼らしい。
鏡の前では哲太が深い青のTシャツにジーンズを合わせ、声を張っていた。
その歌声は安定感に満ちており、ダンスで息が上がっていても一切揺らぐことはない。
彼は直弥の隣で、その動きや表情をじっと見つめていた。
驚くほど近い距離で寄り添い、まるで引き寄せられるようにぴたりと寄っていた。
「直弥さ、さっきの振り付け、めっちゃ良かったぜ。お前の動きがあると、グループ全体がピリッと締まるんだよな」
甘えるような口調でそう言って、哲太は照れたように笑った。
「ありがと。でも、ボーカルのお前こそ、もっと前に出て存在感見せてよ」
直弥はツンとした口調で返すが、頬にはうっすらと赤みが差していた。
「いやー、俺はお前のダンスについていくのが精一杯だって」
そう言いながら笑った哲太は、さらに一歩近づく。
ふたりの距離は自然と縮まり、そのまま寄り添うように立ち続けていた。
そんな様子を、颯斗は少し離れた場所から静かに見守っていた。
胸の奥にじんわりと温かさが広がり、彼らの間にある絆の深さをあらためて実感する。
彼らは、ただの同僚でも、ただの恋人でもない。
大きな家族のようなグループの中で、互いに支え合い、理解し合い、時にぶつかりながらも、一歩ずつ共に前へ進んでいる。
休憩の合間、颯斗は自然な仕草で永玖の肩にそっと手を置いた。
目が合った永玖は、少し照れくさそうに笑う。
ふたりの距離はまるで時間が止まったかのように静かで穏やかだった。
周囲の視線など気にする様子はなく、ただ隣にいるという事実に満たされていた。
「よし、みんな。今日はここまでにしよう。お疲れ~。練習のあとは、みんなで飯行こっか」
颯斗の声がスタジオに響くと、三人は顔を見合わせ、ふっと笑みを交わした。
互いのパートナーに目を向け、視線を合わせ、それぞれの場所で小さく頷き合う。
その瞬間、四人の間に流れるあたたかな空気が、まるで何気ない日常の一部として、確かにその場に息づいていた。