一方、その頃。宮舘サイドは、比較的スムーズに事が進んでいるように見えた。
「涼太、準備できた?」
約束の時間ぴったりに、岩本が車でマンションの前まで迎えに来ていた。後部座席には、やけにニコニコしている康二の姿も見える。
「ああ、待たせたな」
宮舘は、落ち着いた様子で車に乗り込んだ。
「それで、今日はどこへ行くんだ?新しくできた日本庭園、と聞いていたんだけど」
「そうやで、舘様!なんでも、すごい“映える”スポットらしいわ!」
康二が、スマホでそれらしき庭園の画像を見せながら、楽しそうに話す。宮舘は「そうか」と相槌を打ちながら、窓の外へと視線を移した。
車は、都心から徐々に離れていく。見慣れた景色が、見慣れない景色へと変わっていく。宮舘は、何も言わずに、ただ静かにその風景を眺めていた。
しばらくして、康二がわざとらしくカーナビを指差した。
「あれ、照兄?こっちの道であってます?なんか、山の方に向かってません?」
「…ああ。ナビ通り」
黙って運転していた岩本が、短く答える。その横顔は、いつもより少しだけ硬いように見えた。
その、ほんの些細な違和感。
康二の、どこか空回りしている明るさ。
岩本の、口数の少なさと、硬い表情。
そして、この道筋。都心から離れ、緑が深くなっていくこのルートは、庭園に向かっているとは、少し考えにくい。
宮舘は、ふっと息を吐くと、静かに、しかし、全てを見透かしたような声で、問いかけた。
「…二人とも」
その声に、康二と岩本の肩が、わずかに揺れる。
「一体、どこへ向かってる?」
その鋭い指摘。それは、疑問形でありながら、ほぼ確信に近い響きを持っていた。バックミラー越しに、宮舘の冷静な瞳が、岩本をまっすぐに見つめている。
「え、えっと…やから、庭園やって!」
康二が、冷や汗をかきながら、しどろもどろに答える。
しかし、宮舘はもう康二を見ていなかった。ただ、運転席の岩本だけを、じっと見つめている。無言の圧力が、車内に満ちていく。
目的地に到着する前に、作戦がバレてしまうのか。岩本と康二は、最大の危機に直面していた。
コメント
8件
ハラハラするっ笑
毎日毎日開いて更新確認して更新してなくても1から見て… この小説飽きない!!!!好きです!

すき