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#主人公最強
しめさば
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【前書き】
※注意:本編には一部、過激な『唐揚げレモン論争』が含まれます。派閥争いでのコメント欄の荒れはご遠慮ください(サクラさんは断固レモン派です)。
*
「とんだ邪魔が入ったけど大魔王サクラ! 今度こそ!
このツバキ・ルミナスハートが貴女を倒します!」
ツバキの声は張り詰めており、その眼差しは真剣で、
この子は何かをキメてるんだろうなと思った。
「なにその名前!?あはは!!」
カエデの爆笑が酒場に響き渡る。
「はぁ……やれやれだわ……“山田 椿”さん」
私は深いため息をついた。
「そ、その普通の本名を呼ぶなぁー!
喰らえ! ホーリービーム♡
……ぐッ! ぐわぁあああああ!」
ツバキが両手で♡を形作ったが、突然左目を押さえて膝をつく。
「ん”?」
私の眉が上がる。
「はぁ……はぁ……くっ……『聖なる闇の光』の力を使いすぎたか……」
ツバキは息を切らしながら、汗で濡れた前髪をかき上げる。
「あ。これ長くなるやつ」
私がめんどくさいからツバキ埋めるかと思った瞬間──
「うるせぇぇえええええ!!!」
突然、厨房の奥から店長の怒号が飛んできた。
「さっきからビームだのバイトだの、お前らデカい声でうるせぇんだよ!
他のお客さんの迷惑だ! 表出ろ表!! 出禁だ!!」
「あ、はい。すいません」
私は素直に頭を下げた。
そして、私は立ち上がり、カエデとエスト様と辰美に声をかけた。
「ちょっとあんたたち、店長怒ってるし、このテーブルごと外に運ぶわよ。
なんか狭苦しいし、夜風に当たりたいし」
「賛成ー! はいエストちゃん、椅子持っていこ!」
「わかったー!」
カエデとエスト様はノリノリ。
「え!? テーブルごと!? さっき怒られたのに、さらに怒られませんか!?」
辰美は真面目だ。魔王軍の良心かな。
「もう出禁になったんだから関係ないわよ」
「ここまで私の力を使わせるとは……サクラ! なかなかやるわね!」
私たちがズルズルとテーブルを運び出してるなか、
ツバキは肩で息をしながら、震える手でポケットから『無駄にトゲトゲした銀色の指輪(※市場の屋台で買った安物)』をゆっくりと取り出した。
「すいませーん! 外のテラス席(セルフ)に、とりあえず生3つとオレンジジュース!あ、あと唐揚げ4つね!」
「出禁っつっただろ!! なに外にテーブル持ち出して追加注文してんだ!!」
厨房から店長の悲鳴に近いツッコミが飛んできた。
「は? 出禁って『店に入るな』ってことでしょ?
私たち今『外』にいるんだけど。異世界のルールバグってんの?」
「お前の頭がバグってんだよ!!」
私はチャリン、と刀の鍔を親指で弾いて、ニッコリと笑った。
「……で? 注文、受ける? それとも店ごと『外(更地)』にする?」
「……喜んでェェェ!!(涙)」
「サクラ! サラダも頼んで! 野菜食べなきゃダメ!」
カエデが追加注文。
「とうとう……この『封印の指輪(リミッター)』を解放する時が来たのね……
まさかこんなに早く使うことになるとは……!」
ツバキは誰もいなくなったテーブル跡地で指輪を高く掲げ、
空を見上げながら呟いた。
その目は潤み、頬は紅潮し、唇は期待に震えていた。
「「「カンパーイ!!」」」
カチン! と、店外のテラス席に移動した私たちのジョッキが鳴る。
「目覚めよ、銀竜(アガートラム)……!
我が左眼に宿りし過剰な『光』を、その牙で喰らい尽くせ……ッ!」
ツバキは指輪を左手の中指にハメると、
その手で疼く左目を大袈裟に覆い隠した。
「ホントにこれ10個もあるのー?」
エスト様はメニューの裏にある『鬼難易度の間違い探し』に夢中だ。平和か。
「じゃあ大皿のサラダ1つと、この店の唐揚げ全部持ってきて。
支払いはあそこの店内で一人芝居してる女につけといて」
私は窓越しに店員にウインクした。
そんな中、店内のツバキは左眼を覆った瞬間、
「くっ……!」と苦悶の声を漏らし、
全身を小刻みに震わせ始めた。
「力が……反発している……!?
ダメだ、光が強すぎる……ッ!
ええい、鎮まれ! 鎮まれ私の左眼(ルミナス・アイ)!!
銀竜の封印に従えぇぇッ!」
その顔は苦痛に歪んでいる演技をしているが、
口角は隠しきれないほどニヤけていた。
その横で、ローザが「おおお……! 聖女様が銀の竜を使役しておられる……!」とヨダレを垂らしながら聖典に猛スピードで何かを書き込んでいる。それも大概怖かった。
「ちょ! カエデ! たまご焼きの端っこは私の!」
「サクラ! さっきも端っこ食べてたー!」
届いたたまご焼きをめぐって、
私とカエデは店外のテーブルで箸で取り合いをしていた。
「──封印完了(システム・オールグリーン)!!
ふふっ……これでようやく、貴女と『対等』に話ができるわね、
大魔王サクラ……ッ!」
ツバキが一人芝居を終えると、
突然勢いよく立ち上がり、胸を張った。
そして、指輪をハメた左手を顔の前にかざす『最高にキマったポーズ』で振り返った。
「ふふふ! 待たせたわね!
サク……あれ?……サクラ?……カエデも……?
ってあれ……護衛の皆さんまで……? みんなどこ……?」
だが、ツバキの右眼が捉えたのは、
誰もいない酒場の空間。
ツバキの焦った声が聞こえた。
皆で外のテーブルから店内のツバキに視線を移す。
「あれ……みんな……? な、何してるの……」
ツバキは悦に入った表情から一転、
寂しさと困惑が入り混じった複雑な表情になると、
その場にこうべを垂れた。
開け放たれた扉から差し込む夕日が、
ツバキの後ろ姿を赤く染め、長い影を床に落としていた。
店内にいた小さい子が飴玉を手渡してあげてた。
「アメちゃんあげるから元気出してね。」
「ぁ……りがと……ぅ……」
ツバキはお礼を言うと同時に飴玉を握りしめた。
すると突然!
街中に怒鳴り声が響き渡った!
「聖女ツバキ!! 見つけたぞ!!」
いつのまにか酒場の外は、
白銀の鎧を着た【聖騎士団】に包囲されていた。
騎士たちの鎧が夕日を反射し、
威圧的な姿に空気が一瞬で凍りついた。
「こ、この役立たずの偽聖女が!
『麦は焔の刻こそ至高!』だの、『小麦の牢獄に幽閉されし黄金の蛇……禁断の融合』だの、それらしい神託を並べて教皇様を誤魔化していたが……!
よくよく解読してみたら、全部ただの『パン』の話じゃないか!!」
ツバキは耳を塞いでその場にうずくまる。
「や! やめて! は、恥ず!あ、あれは仕方なく……!
わざわざ現実の言葉に翻訳して言わないで……ううぅ……」
「「いや教皇、なんで騙されたの」」
私とカエデは冷静にツッコミを入れた。
「魔王を倒すどころか、
魔王と酒場(の外)で馴れ合うなど言語道断!
お前は偽物だ! 大魔王サクラとともにお前を処刑する!」
騎士団長が私たちに剣を向けながら、
怒りに満ちた声で叫んだ。
そして騎士団長の鋭い視線が、
ツバキの背後にいたローザに向く。
「シスター・ローザ!
あなたも聖女の監視役として、
随分と甘い汁を吸っていたようですが……
教会(こちら)側に戻るのなら、命だけは助けてやりましょう。
さぁ、早くその偽物から離れなさい!」
その言葉に、ツバキの肩がビクッと跳ねた。
そうだ。
ローザはツバキのお目付け役であり、元々は王国の人間だ。
ここでツバキを見限るのが、一番賢い選択に決まっている。
しかし──。
「……お断りします」
ローザは静かに、だが熱を帯びた声で言い放った。
聖典を胸に抱き抱え、ツバキの背中を庇うように一歩前へ出る。
「な、なんだと……!? 命が惜しくないのか!」
「愚問ですね。
私の魂はすでに、聖女様の虜……ッ!
王国派など今日この場で辞めさせていただきます!
私は今後、教会の教えではなく!
聖女様のお尻と尊厳を守護する係として、生涯付き従う所存ッ!!」
ローザがビシィッ! と狂気に満ちた敬礼をした。
命を懸けた、感動の裏切り(ファンサ)シーンである。
「ロ、ローザ……!」(ツバキの目に涙が浮かぶ)
ツバキが震える声でローザを見上げた。
そして──
「……やだ怖い!! ローザはややこしくするだけだもん!!
ホントに来ないで! 帰って!
え?待って!?“生涯”って言った!?重い!!」
全力でドン引きしていた。
「えっ!? 聖女様!? なぜですか!
私のこの命に代えてもあなたのすべてを書き記し──」
「それが嫌だって言ってんの!!
頼むから王国に帰ってぇええ!!」
「はぁ……せっかく美味しいお酒を外で飲んでるのに……」
私はゆっくりとジョッキを置き、立ち上がる。
「え? えぇ!? サ、サクラ!? ど、どうしよう…」
ツバキはローザと騎士団の間で視線を行ったり来たりさせてパニックになっている。
「ねぇ、騎士団の皆さん?
今さ、処刑するって言った? 聞き捨てならないわね」
私はため息をつきながら、
テラス席のテーブルからゆっくりと前に出た。
「黙れ! 黙れ黙れ大魔王!
お前を討伐し、この偽聖女の首を国へ持ち帰るのだ!」
騎士団長は剣を抜き、私に向けて突きつけた。
「へぇ? 私を? 討伐?
……回っとけよ!! 『竜牙旋風破(ドラゴン・スクリュー)』!!」
私は騎士団長の剣を素手で掴んでへし折ると同時に、片足を掴んで倒れ込んだ。
「ぐわぁーーーーー!」
騎士団長の悲鳴が響き渡る。
「ちょっと!
今、無駄にカッコいい漢字当てたでしょ!? それ私のセンス!!」
「サクラ?暴力はダメだよ?」
ツバキが店内で悔しそうに地団駄を踏み、カエデが外で唐揚げを見ながら言った。
こいつらと何で友達だったのか、自分でもわからない。
「はーい。皆さーん? どんどん行きますよー」
そして数分後には、聖騎士団の皆さんを地面にめり込んだオブジェにしてあげた。
「き、騎士団を一瞬で……?……こ、これが…サクラの力……」
ツバキは呆然と立ち尽くしていた。
「さて、外の席に戻ろっと。
あぁツバキ? あなたの分の唐揚げもあるけどどうする?
レモン、たっぷりかけといたわよ」
私は意地悪く笑って、ツバキの肩を軽く叩いた。
「え?………う…うん! も、もちろん食べるわよ!
……って、レモン?」
ツバキは戸惑いながら私を見た。
ゆっくりと左目の『封印の指輪』を外す。
「……は? 私が唐揚げにレモンかけない派だって、知ってるくせに……!」
ツバキの右目からボロボロと涙が溢れ出し、同時に小さく微笑んだ。
「ふん。相変わらず文句が多いわね。
逆らうならツバキもドラゴン・スクリューで埋めるわよ?」
私はツバキの頭を、乱暴に撫でた。
「グスッ!……は、ははっ!
やれるものならやってみなさいよ?
ホーリービーム♡する……が……ら”ね”!」
ツバキはその場で泣き崩れた。
「うん。この世界に来て、色々あったんだよね。
ゆっくり聞かせなさい」
泣き崩れているツバキの頭をポンポンと叩く。
「うっ…泣いてるんじゃないがら”ね”!
聖なる闇の力が目から溢れてるだけ……なんだがら”あ”!
……怖かったよぉ……サクラぁ……
誰も信じられなくてさ……
ずっと一人で、嘘ついて……
でもさ……
サクラとカエデの名前だけは、
口に出したら壊れそうで……言えなかった」
「……はいはい。そうだね。光か闇のどっちかにしようね。」
ツバキの号泣が、夜の酒場に響き渡る。
──雨の上がった夜空の下、大魔王と勇者と聖女は、
テラス席のテーブルで冷めた唐揚げを囲んでいつまでも笑い合っていた。
その背後で、ローザが『第13章:聖女、涙の唐揚げ』と熱心に書き記しているのを、ツバキはまだ知らない。
(つづく)
*
【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】
『過去の黒歴史は、レモンをかけて食っちまえ。
酸っぱい思い出も、唐揚げと一緒なら喉を通る』
解説:
なお、ムダ様は唐揚げにマヨネーズをかける異端派である。