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「で、どうしたんだ突然」
カウンターから出てきた店長が優陽へと歩み寄る。 向かい合うと、かなり大柄なはずの航平と然程変わらない長身。
百八十五だったろうか?
世に公表されている身長は真実らしい。
(ビックリした)
騒がれるだけあって、本当に異次元の美しさ。
ついつい見続けてしまうほどに。
すぐ近くにいてもきっと永久に道が交わることはない、そんな別世界を彼から感じる。
(店長、とんでもない人と知り合いじゃないですか……先に自慢しててくれませんか……)
心臓に悪い。知っていればまだ、落ち着きを装えたかもしれないのに。
と、そんな柚が息を整えている間にも、二人は平然と言葉を交わし合う。
「いや、航平からの連絡あんまりにもしつこいから顔出さなきゃなって」
「おいこら、なんつったお前」
人が心配してやってんのに、と。睨みつける航平を無視して、優陽はチラリと柚を見た。
「……思って、来たけど。こんなに可愛い女の子に会えるなんて凄くラッキーだったなあ」
「「は……????」」
重なり合った声が店内に響く。
「あ、そうだ。ねえねえ、自己紹介でもしとこっか?」
「ええ? いやいやいや」
知ってますよ、と。柚が言葉にするよりも先に。
「俺は森優陽、二十七歳。 一応今のところ歌ったり曲作ったりが仕事。俺を知っててくれて嬉しかったよ」
定型分的な自己紹介とセットの笑顔。
口角を左右対称に引き上げて、作られる表情は綺麗すぎて、有名人というのも大変だな、なんて考えながら。
「……え? あ、えっと? 天野柚です、二十五歳です」
つられて自己紹介をしてみるけれど、この紹介など果たして必要なのか。
そんな思いをよそに、目の前の優陽は目を細め、より一層の笑顔を放つ。
「ゆず、かぁ。うん、ゆず。可愛い名前だね」
そう繰り返しながらカウンターの一番端の席。
食洗機の前に立つ柚の前に座った。
「え、そうですか? 言われたことないんですけどありがとうございます」
そんなに繰り返すほどの名前でもないと思うのだけれど。
とりあえずペコペコと頭を下げ、再び彼に視点を合わせる。
すると頬杖をついて、ひとつも変わらないままの笑顔でこちらを見ていた。
(…………見過ぎ、のような)
異様に見られているようで、居心地が悪い。
人に凝視されることなどまず経験がないのだ。
芸能界なんかにいたら綺麗な人を見尽くしてしまって、一般人が珍しいとかあるんだろうか?
謎に見つめ合う、奇妙な数秒。そう広くはないキッチンを少し後ずさる。
沈黙を破ったのは、航平の短いため息だ。
続けて呆れたような声が会話に参加する。
「優陽。おまえ一応目立つ仕事してんだから、女見つけりゃ手当たり次第愛想振りまくのな、いい加減やめろ」
優陽は、大袈裟に肩をすくめて言った。
「え? 人聞きの悪い。 航平よりはマシでしょ」