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部屋で源治さんが家政婦さんらを連れて来るのを待っている間も、彼は浮かない顔つきで、ソファーに座る足に両肘をついて指を組み合わせ、その上に顎を乗せて考え込むように押し黙っていた。
たぶんなぜ見当たらないのかを考えているんだろうなと思うと、私からも言葉はかけづらくなっていた。
そんな私たちの不安気な雰囲気を察してか、ふらっと入って来た猫のミルクが、しきりに二人の足に頭をこすり付けた。
「……ミルクか」と、気づいた貴仁さんが、片手を伸ばして、その頭を撫でると、
「おまえも気にしてくれているのか。だが、指輪はきっと見つかるはずだから」
ミルクちゃんに話しかける口ぶりで、自らにも言い聞かせるかのように口にした。
すると彼女《ミルク》は、その通りだとでも言うように「ニャー」とひと鳴きをして、頭を撫でる貴仁さんの手をぺろっと舐めた。
「ふっ、くすぐったいな」
彼がわずかに顔をほころばせると、曇りがちだったその表情に、にわかな晴れ間が垣間見えた。
しばらくして、源治さんが数人の家政婦さんを伴ってやって来たが、
貴仁さんから指輪のことを問われても、いずれも源治さんと同様に見ていないとのことで、その言動に嘘はないようだった。
「そうか、知らないか……」
と、彼が落胆の色を濃くして、
「家以外では外したような覚えはないから、どこかにあるはずなんだが」
困惑するように、片手で顎を掴んだ。
「ああそういえば、掃除に入った者で、一人休んでいる女性がいまして、その者がもしくは知っているかもしれません。ただ明後日の日曜まで出て来ないので、私の方から早めに連絡をして確かめてみますか?」
源治さんから、いぶかるように問われて、
「あさってか……」
と、彼が眉間に薄くしわを寄せる。
「いや、出て来てから、私が直接尋ねる。それに、もう少しこちらでも、探してみるから」
「承知しました」と、源治さんが頷いて、家政婦さんと共に戻って行った。
その後も、彼のデスクまわりなど目につくところを手分けして探してみたが、やはり指輪は出てこなくて、
「……ミルクちゃんも、見つかるって言ってくれたのに」と、後ろ向きな発言がつい口からこぼれた。
「私の不手際だ……悪いな」
苦渋の表情を浮かべる貴仁さんに、首を何度も振って返すも、家の中をここまで探してもないことに、胸のざわつきはいよいよ強まるばかりだった……。