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ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
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Roblox本部のロビーは、朝の光でやわらかく照らされていた。
出勤してきた人たちのざわめきの中で、ジョン・ドウはいつも通り少しだけ浮かれていた。
新しい一日、新しい人、新しい出来事。
それだけで、彼にとっては十分楽しい理由になる。
「おはよーございます!」
元気よく挨拶しながら入ったその瞬間——
彼の視界が、ぴたりと止まった。
黒い服。
無駄のない立ち姿。
低い位置で結ばれたピンクの髪が、静かに肩を滑る。
彼女は受付で何か書類を確認していた。
まつ毛が長く、視線は鋭いのに、どこか整いすぎていて冷たい美しさを持っている。
——その一瞬で。
「……え」
ジョンの思考は、完全に止まった。
(なにあれ……めちゃくちゃ綺麗な人いるんだけど……)
心臓がドクン、と妙に大きく鳴る。
(いや待って落ち着け俺、ただの新入社員かもしれないし……いやでもあれは……)
彼女が顔を上げた。
目が合った。
「っ!?」
ジョンはびっくりして、なぜか勢いよく目をそらした。
(なんでそらした!?俺!!)
数秒後、恐る恐るもう一度見る。
彼女はもうこちらを見ていない。
淡々とペンを走らせているだけ。
その“どうでもいい”扱いに、逆に心を撃ち抜かれる。
(うわ、なにこの感じ……全然興味持たれてない……いやそれが逆に……)
「——あの」
気づいたら、声をかけていた。
(言った!?今俺、言った!?)
彼女はゆっくり顔を上げる。
「何?」
短い。
無駄がない。
感情もほとんど乗っていない。
それなのに、ジョンはなぜか余計に緊張した。
「え、えっと……その……あの……」
(何話すつもりで声かけたんだ俺!?)
「……用がないなら、どいて」
冷静な一言。
「あります!!」
食い気味だった。
彼女の眉が、ほんの少しだけ動く。
「……じゃあ、簡潔に」
(簡潔に!?無理だって!!)
ジョンは一瞬固まり、次の瞬間——
「はじめまして!ジョン・ドウです!!」
勢いだけで押し切った。
彼女は数秒、無言で彼を見る。
その沈黙が、やけに長く感じる。
「……そう」
それだけ。
「あ、あの!名前、聞いても……?」
「ジェーン」
間。
「ジェーン・アイズ」
その名前が、やけに綺麗に耳に残る。
(ジェーン……)
ジョンの中で、その音が何度も反響する。
「よろしく」
ジェーンはそれだけ言うと、再び書類に目を落とした。
会話は終わり。
完全に。
「……」
ジョンは立ち尽くす。
(終わった……?今ので……?)
でも。
不思議と落ち込む気持ちはなかった。
むしろ——
(やばい……めっちゃ好きかもしれない……)
頬がじわっと熱くなる。
何も始まっていないのに、すでに始まってしまっている。
ジェーンは変わらずクールで、こちらを一切気にしていない。
その距離が、逆にどうしようもなく惹きつけた。
「……よし」
小さく呟く。
(もう一回話しかけよ)
——懲りていなかった。
むしろ、完全に始まっていた。
ジョン・ドウの、一目惚れが。