テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
それ、さっき俺が目を付けていたチョコのやつだ。
俺は子供の時から、カラースプレーを見るとどうしたってテンションが上がってしまう。あのカラフルな粒には、特別な魔法がかかっている気がして。
「……カレンちゃん、好きな方選んでいいよ。俺、甘いの苦手だし」
「じゃあ……私も甘いの苦手なんで、チョコの方あげますぅ」
「じゃあ、なんで買ったんだよ」
「ん? お姉さんが可愛かったから」
「理由しょうもな。アホかよ」
ふふっ、と鼻で笑いながらりんご飴を受け取る。やっぱり可愛いな、カラースプレーチョコ。口の中がもうチョコの味を迎えに行っていて、自然と気分が高揚する。
前にいつきくんたちと秋祭りに行った時も、りんご飴食べたっけ。いや、俺は写真を撮っていたから食べていないか。りんご飴を頬張るいつきくんといっちゃんを、ただひたすらレンズ越しに眺めていただけだった。
「かった! なんやこれ……っ」
「本当、歯が折れそう……え?」
隣を見れば、カレンちゃんがものすごい形相でりんご飴に食らいついていた。
待って、本当に。女の子が人前で見せていい顔じゃないんだけど!
「だから、いちご飴の方が良かったでしょ?」
「やって! こんなに硬いとおもてなかったんやもん!」
「……ん?」
今、カレンちゃん何語を喋った?
さっきの「ペコパン」とかいう宇宙語とは明らかに違う。
「……こんなに硬いと思ってなかったんだもぉ~ん♡」
「言い直しても遅いよ」
上目遣いでパチパチと瞬きをしても、もう誤魔化せていない。
カレンちゃん、だいぶ本質が漏れ出ているぞ。想像していた清楚なイメージとは、まるで正反対じゃない?
「あ、だいきさん! あそこじゃないですか? ここが第四宮で、向こうが第一宮って書いてあります!」
「そう。でも、ここから結構長いんだよ。ちょっとしたお散歩コースくらいはある」
「じゃあ、第一宮に着くまでに、どっちが早くりんご飴を食べ終わるか競争しません? 負けたら一発ギャグ! よーい……」
「は!? いや、待て――」
一発ギャグってなんだよ。「ドン」と言う前に、彼女はもう猛烈な勢いで食べ始めている。
……これは、絶対に負けられない戦いだ。
「やばい、歯ぁ死ぬ……」
「俺、もう顎取れそう……」
結局、人混みを避けて隅っこに立ち止まり、二人して必死に飴を砕いている。
なんなんだよ。なんで俺は、お参りをする前に一発ギャグを賭けて戦っているんだ。
「終わった! だいきさん、負けー!」
「いや、ズルいだろ。先に食べ始めてたじゃん」
「あ~! 女の子相手にハンデもくれないんだぁ! ぷんぷん!」
「バカ、今更『ぷんぷん』もねぇだろ。散々猫かぶってたくせに」
「バレたかぁ~。うまく誤魔化せたおもてたのに」
「全然誤魔化せてないからね? 俺、途中から普通に会話してたし」
カレンちゃんは悪戯っぽく笑うと、少しだけトーンを落として首を傾げた。
「……こういう女の子、お嫌いですかぁ?」
「別に、どっちでもいい。女の子自体、興味ないし」
「……あ~!! お口汚れてます!だいきさん、これどうぞ!」
カレンちゃんが小さなバッグから取り出したのは、ウエットティッシュ。……いや、なんだこの馬鹿でかい塊は。
「なんでおしりふきなの?」
思わず吹き出して、口の中のりんごが飛び出しそうになった。
「これ、めちゃくちゃ便利なんですよ! 大容量で汚れがよく取れるし、もうこれなしじゃ生きていけない……っ」
さらに「こっちにゴミ入れてください」と、手際よくビニール袋を広げてみせる。もう、お母さんじゃん。
「ふふっ、カレンちゃんってさ、モテるでしょ?」
「え、この状況のどこがですか?」
片手にゴミ袋、もう片方におしりふき。肩には一眼レフの入ったクソデカバッグ。本当にできるお母さんすぎて、笑いが止まらない。
「包容力と、見た目のギャップで」
グフフと笑いを堪えながら答えると、彼女は「それは褒め言葉ですか?」と少しつられ笑いをしながら聞き返してきた。
「もちろん、褒め言葉だよぉ?」
やばい、不覚にもカレンちゃんの喋り方がうつってしまった。このままだと、帰る頃にはエセ関西弁を喋っていそうだ。
「でも、だいきさんは……やっぱり無理ですか?」
「え? なにが?」
「……もし、私が男の子なら。ありですか? なしですか?」
え、なに。本当に俺に惚れちゃったとか? マジでやめてくれ、女の子の感情は色々面倒なんだって。
「ん~、友達としてならありかな。恋人としてなら、ちょっと色気が足んない」
「……じゃあ、女の子でも友達としてならありってことですか?」
「うん、全然ありだね。だってカレンちゃん面白いもん。今日、あいつらと一緒にいる時と同じくらい楽しかったし」
「やった! だいきさんの友達に合格!!」
カレンちゃんが弾けるような笑顔を見せる。
「なんなの、今日は試験だったわけ?」
なんだ、そうか。りゅうせいと仲良くしているのはただの男好きだからだと思っていたけれど、なんだかわかった気がする。女の子なのに、特有の壁を感じさせない。自然体で笑い合えて、まるで男友達と一緒にいるみたいだ。あいつらの中に混ざっていても、きっと楽しく笑える気がする。
その後、「ペコペコ・パンパン・ペコ」の謎も無事に解け、第四宮まで戻ってくる頃には、すっかりエセ関西弁が飛び出すくらいには仲良くなれていた。
なんだろう、嬉しいな。
ずっと避けてきた「女の子」という存在と、こんな風に友達になれるなんて。
会社に行く楽しみが、また一つ増えた気がした。
今度あいつらに会ったら、思いっきり自慢してやろう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
萩原なちち