テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
正月休みも終わり、新年一発目の出勤日。
結局、あの初詣以降はスーパーに行くくらいしか外に出なかった。あいつらを誘っても「実家に帰っている」と断られたし、なんだか寂しい休みだったな。カレンちゃんに連絡先を聞いておけばよかったと、何度思ったことか。
「おはよう、いつきくん。どうしたの?」
「おはよう、だいき。受付嬢の二人が着物着てるんだって。りゅうせいもいっちゃんも興奮して写真撮りに行っちゃった」
「ふぅん」
遠くに見える人だかりはそういうことか。いつきくんまで背伸びして覗き込んでいるじゃん。なんだよ。俺だって初詣の日、着物着たのに。……やっぱり、若くて可愛い女の子には勝てないってことか。
「あ、だいきの着物も見たよ。めっちゃ似合ってたじゃん」
「え? どこで見たの?」
「これ。カレンちゃんからグループLINEに送られてきた」
「グループLINE……?」
なんだよ、それ。俺、そんなグループに招待されてないんだけど。
大体、ここに送るくらいなら誰かに俺のIDを聞いて、本人に一番に送ってくるのが筋じゃないのか?
「だいきくん、おはようございます。あけましておめでとう」
「今年もよろしくっす」
「あ、そっか……あけましておめでとう」
「うん、おめでとう。よろしく」
朝からモヤモヤする。初詣に来なかったくせに。年越しだって誘ってくれなかった。結局、俺たちは会社だけの関係ってことかよ。本当は、都合のいい財布としか思ってなかったのかな。
「だいきさん! あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします!」
「……うん」
横から声をかけられ振り返ると、そこには鮮やかな赤の着物に大きな花の髪飾りをつけたカレンちゃんがいた。
「なに? だいきくん、めっちゃ見惚れてんじゃん。一目惚れした?」
「え、だいき、そうなの?」
「カレンちゃん可愛いもんねぇ。ねぇ、だいきくん?」
「は!? バカ、急に声かけられてびっくりしただけだよ。ほら、仕事の邪魔になるだろ、行くぞ」
「じゃあねぇ、カレンちゃん!」
カレンちゃんと親しげに手を振り合うりゅうせいの腕を掴み、強引にエレベーターへ向かう。
何言ってんだ。俺が女なんかに惚れるわけないだろ。面倒で、ヒステリックで、自己中心的な生き物に。
「で、どうだったんすか? 初詣。写真ではめっちゃ楽しそうでしたけど」
「いや、俺の写真、俺の知らないところで勝手にみるのやめてくれない? 俺、グループ呼ばれてないし」
「だって、だいき、グループに女の子いたら、絶対怒るでしょ?プライバシーがどうのとかって」
「……確かに」
「だいきのことは、なんでもわかるって」
「え、なんか嬉しい。いつきくん好き」
俺もだいぶチョロい自覚はある。女の子のことを「チョロい」なんてバカにできた義理じゃない。
「カレンちゃん、めっちゃ喜んでたよ。めちゃくちゃ楽しかったぁ、って」
「で? だいきくん自身はどうだったんすか?」
なんなんだ、さっきからいっちゃんはそんなのばっかりだ。たまたま二人きりになっただけ。数時間一緒に過ごしただけで、一体何を期待しているのか。
「……普通に、楽しかったよ。初めて一緒にいたのに、ずっと友達だったみたいな不思議な感じだった」
「うわっ、それ前世で恋人だった説ないっすか? 神社だし、スピリチュアル的な何かが働いた感じ」
「バカ。恋人じゃなくて『友達』な? 全然タイプじゃないし」
「でも、めっちゃ珍しいよね。だいきが女の子といて『楽しい』なんて言うの。普段、仕事以外で五秒以上喋ってるの見たことないもん」
「本当、絶対運命だぁ」
「バカなこと言ってないで仕事しろ」
「はぁーい」
なんなんだ、みんなして。俺とカレンちゃんを結びつけようとしていないか?
……だいたい、おかしいと思ってたんだよ。三人揃ってお腹を壊すなんて、そんなことがあるか? しかも蕎麦で。蕎麦でどうやって腹壊すんだよ。
それに、あのグループLINE。俺を騙すなら、俺を入れないのは当然だ。カレンちゃんのあの社交性なら、俺のLINEくらい誰かに聞けば済む話なのに。
「あ、だいきさん! 今から営業ですか? 頑張ってくださいね」
受付の前を通る時、チラリとカレンちゃんを確認すると、目が合って小さく手を振られた。
隣の受付嬢は桃色の振袖に、白く細かい花の髪飾りか。色の白い彼女によく似合っている。
けれど、やはり赤の振袖は迫力があって、目を引くほどに綺麗だ。あの大きな花の髪飾り、真っ赤な口紅との相性が抜群で、まるでそこに大輪の薔薇が咲いたみたいで……。
……はぁ、しょうもな。俺は何を考えてるんだ。
「おかえりなさぁい、だいきくん。今日、みんなでご飯食べに行きませんかぁ?」
仕事を終え、誰もいない静かなロビーを抜けて部署に入ると、りゅうせいといつきくんがデスクに座って俺を待っていた。
うわ……なんだよ。朝のモヤモヤなんてどうでもよくなるくらい、めちゃくちゃ嬉しい。
「え、いいの? 俺さ、肉食いたかったんだよね」
「うわ、いいね。俺も食いたい。……けど、食べ放題行かないと破産しちゃうよ? りゅうせいがいるから」
「確かに! 俺、店の肉を食い尽くせる自信あるわ」
「こっわ」
いっちゃんはまだ営業先らしく、後で合流するとのこと。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
萩原なちち