テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
中古の車を買った。
しかも、カーナビ付きで。
「ちゃんと中のデータはアップデートしていますので」
ディーラーは、貼り付けたような笑みを浮かべてそう説明した。
カーナビが少々古くても、今どきスマホの地図アプリもあるのだからそこまで不便はしないだろう。
さっそく、彼女をドライブに誘ってみた。
「車買うお金、あるんだ」
「中古買うぐらいならあるって」
少し不満そうな表情を浮かべていたのは、俺が世界的に有名なネズミのいる遊園地に行くのを渋ったせいかもしれない。
いや、だって高いだろ。ワンデーパスでも1万いくんだぞ。
おまけに中に入ってからもあれやこれやと金がかかる。好きな人が行くなら楽しめるのかもしれないが、遊園地に興味の無い俺としては金をドブに捨てに行くようなものだ。
ドライブ中、彼女の機嫌は良くなかったが向かっている先がそのネズミのいる遊園地だとわかった瞬間、表情が変わった。
「え!あれだけ行く必要無いって言ってたのに!?」
「いや、まぁ、そりゃ行く理由ねぇな、とは思ったけど行ったこともないのにそういうのはどうかなって思って……」
「え〜!!マジで意外なんだけど…。あ、でも、チケットは?」
「取ってある。でも、調べたらあれだろ?レストランとか乗り物も予約?しなきゃいけないんだろ?」
「あ、そのへんは私にまかせて!」
彼女はニヤリと笑ってスマホを取り出した。
何をしたのか俺は正直さっぱりわからないが、入園してからレストラン、アトラクションの予約は全部彼女がやってくれた。
そのお陰で、無駄な待ち時間も無くスムーズに楽しむことができた。
何より、彼女が久しぶりに楽しそうに笑ってる顔が見れて俺は一安心した。
「なに?人の顔、じっと見て」
「最近ずっと暗い顔してたから。楽しんでもらえてよかった」
「……は?なにそれ」
言葉は悪いが照れているのはすぐにわかった。
「こんな彼氏ですが、たまにはやることちゃんとやるんですよ」
「はいはい。帰り事故らないでね」
そう釘を刺されて俺たちは帰路についた。
順調に走っていたはずだ。
それなのに、おかしなことが起こった。
「ねぇ、またこのカーナビ、山奥に連れて行こうとするんだけど」
彼女が言いながらカーナビを操作する。
そう。目的地を設定していないのに、突然カーナビが案内を始めたのだ。
最初は設定をいじったり、無視したりしていたのだが、ずっと同じ場所を案内する。
「ここ、何があるんだろ」
彼女がぽつりと呟いた。
「い、行かないからな!」
「なにビビってんの?」
ニヤニヤ笑いながら彼女は脇をつついてくる。
「やめっやめろって!運転してんだか!危ないだろ!?」
「はいはい。スマホの地図だと民家があるっぽいんだよねぇ」
しかし、古いカーナビには一本道しか表示されておらず、その先に何があるのかはわからなかった。
「今日はもう遅いし、寄り道はしない!いいな!」
「は〜い」
彼女は、渋々といった感じで返事をした。
だが、その選択は間違っていなかったのかもしれない。
後日、車を買ったディーラーに問い合わせると、顔色を悪くして答えてくれた。
「調べればわかることなんですが」と前置きをして。
俺が買った車の前の持ち主─Aさんは、カーナビが案内した先にある家に住んでいたのだという。
Aさんは事業に失敗して、多額の借金を背負ってしまい、この車を泣く泣く手放したあと一家心中したのだそうだ。
その話を聞いて、俺は空いた口が塞がらなかった。
カーナビがずっと家に帰ろうとしていたのは、何か意図があってのことなのだろうか。
あのときカーナビに従って走らなくてよかったと一人、安堵の息をこぼした。
「そんな車を売ってしまって申し訳ありません」とディーラーは深々と謝罪し、代わりに別の中古車を用意してくれた。
「そんなことがあったんだ」
彼女とまた遊園地に向かいながら、前の車のことを報告した。
もっと驚いたり、怯えたりするのかと思ったが案外彼女は平気そうだった。
こういうとき、女性は強いな、と思う。
「でも、私の調べだとさ」
「え、調べたのかよ」
俺はギョッとして彼女の顔を見返す。
「だって気になるじゃん。でさ、あの家、一家心中じゃなくて殺人事件に巻き込まれてみんな殺されちゃったんだって。犯人もまだ捕まってないらしいよ?」
#一次創作
#オリジナルキャラクター有り
コメント
1件