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「ミア、ようやく思い出してくれたみたいだな? オレはあの日から一日たりともミアを想わない日はなかったぞ……!」


そう言ってルークはフッと柔和な微笑を口元に浮かべた。


「ごめんなさい、ルーク……私、どうしてこんな大事なことを忘れちゃっていたんだろう? 私にとっても大切な思い出だったのに」


私の心はルークへの愛で満たされながらも、同時に罪悪感に苛まれていた。


本当にどうして私ったらルークのことを忘れていたんだろうか?


いくら考えても答えは出て来ない。ただ申し訳ない気持ちでいっぱいになり、私はルークの顔を見ることも出来ずただ俯くことしか出来なかった。


「気にすることは無い。今、こうしてミアはオレの傍にいる。オレはそれだけで十分だよ」


「私って本当に酷い人間ね。妹だけじゃなくって、恩人であるルークの心を傷つけてしまって……」


妹を、ニーノを傷つけてしまった? 何気なく口をついたその言葉に、私は違和感を覚えた。


何故、ここでニーノのことを思い出したんだろうか?


その時、一瞬、見覚えのない記憶がフラッシュバックする。それは幼い頃の私とニーノが楽しくお喋りをしている光景だった。ところどころ記憶が欠けていて何故かニーノの顔だけが影に覆われて見ることが出来ない。心の底から得体の知れない恐怖が込み上げて来た。


「ミア、どうかしたか?」


ルークの声で私は我に返る。


「ううん、何でもないの」


今のは疲れが出た為に見た悪い夢。そう自分に言い聞かせ、私はルークに向き直る。


「私、今まで不思議に思っていたの。どうしてルークは私のことを愛してくれているんだろうって。でも、その理由が分かったからこそ一つだけ聞かせて欲しい」


その時、一陣の風が私達を凪ぎ、黒百合の花が舞い散った。


「私、ルークのことを愛してもいいの?」


私ってずるいな。もうとっくに彼の答えは分かり切っているのに敢えてそう訊ねた。


「言ったはずだ。この獣耳と尻尾を君に捧げると。それがオレの答えだよ」


すると、ルークは静かに私の前に歩み寄ると、優しく私を抱きしめた。


「ミア、どうかオレの傍にいてくれ。そしてオレと一緒に生きて欲しい」


私は彼の背中に手を回しながら答える。


「はい。私も貴方を愛します……!」


その時だった。突如として禍々しい魔素が背後に現れるのを感じ咄嗟に振り返る。


異変は既に起こっていた。視線の先におぞましい瘴気の気配を感じ取る。そこには深淵の闇が広がっていた。


「これは何が起こっているの……⁉」


闇は暴風を巻き起こし、空には暗雲が立ち込めた。それは瘴気の塊であった。王都は再び瘴気の渦に呑み込まれ闇夜の世界と化した。


次の瞬間、禍々しい魔素は膨張し、それと相反する神聖魔力が光の奔流となって溢れ出し門のような形を創り出した。


「何故転移門ゲートが出現しているのだ⁉」


ルークの狼狽した声が響き渡る。


私はそれを見て確かにルークの転移門ゲートの魔法に似ていると感じた。


でも違う。私はかつてこれと同じものを見たことがあった。記憶を取り戻した今なら分かる。あれは、私がかつて夜の国に迷い込んだ時に発動したゲートであることを。


その時、得体の知れない悪寒が全身に走り、背筋が凍てつくのが分かった。


私の脳裏に伝説の双子聖女である聖女ランの像の姿が過る。


かつて私は偶然にも聖女像に触れ、願い、祈り、この夜の国に迷い込んだ。その時、目の前に現れたゲートは私が発動したものと同じだった。


それが意味するもの。もしもかつて二つの世界を繋げていたゲートを起動させるのに聖女像と聖女の力が必要であるのならば、このゲートを誰が起動させたのかは考えるまでも無かった。


「下がっていろ、ミア」


ルークはそう言って私を後ろに下がらせた。


最悪な予感が頭をもたげる。


緊迫した空気が流れ、私達は固唾を呑んで状況を見守った。


ゲートの中からゆっくりと人影が現れる。


そこに現れたのは私と同じ顔を持ち、私から全てを奪い、かつて私が最愛の妹と呼んでいた存在だ。


私は思わず叫んだ。


「ニーノ! どうして貴女がここに……⁉」


理由など考えるまでも無い。私の命を奪うこと。それ以外にニーノが夜の国に現れる理由など存在しないのだ。


「お久しぶりね、ミアお姉さま。お元気そうで何よりですわ」


ニーノは不気味なほど穏やかな表情でニッコリと微笑みながらそう言った。そこに殺意や憎悪は感じられなかった。だからこそ余計に私はニーノが恐ろしいと感じた。


いつも私が差し入れるアップルパイを目を輝かせて美味しそうに頬張るニーノ。


私から全てを奪い、魔女として処刑台に送り込んだニーノ。


最愛で、この世で最も恐ろしい私の妹。


再会出来た喜びなど微塵もありはしない。ニーノを狂気に走らせた原因は自分にもある。だからこそ、私はニーノを憎むことが出来なかった。でも、だからといって、元の姉妹の関係に戻れるわけもなかった。


処刑されそうになった時の記憶が蘇り、ニーノの嘲笑いが脳裏を過るのと同時に足が震え始める。きっと私の顔は蒼白しているに違いない。


そんな私を見たルークは怒りを露わにニーノに叫んだ。


「魔女が何の用だ⁉」


「お前はあの時、ミアお姉さまを連れ去った獣人……⁉」


すると、突然、ニーノの顔が怒りに激しく歪み始めた。噛み千切らんとする勢いで下唇を噛みしめ、口から血が滴り落ちるのが見えた。殺気と怒気に塗れた鋭い眼光を放ち、全身から禍々しい魔力を迸らせた。


「連れ去ったとは人聞きが悪いな。オレは魔女から花嫁を救い出したに過ぎん。大人しく去るのであればここは見逃してやるが、さもなくば地獄の業火で貴様を焼き殺すことになる……!」


ルークの真紅の瞳から炎の様な魔力が迸った。


「花嫁、ですって? 薄汚い獣人風情が私のミアお姉さまを……⁉」


何だかニーノの様子がおかしい。本来は私に向けられるべき悪意の感情が、何故かルークに放たれていた。


「私の大切なミアお姉さまをたかが獣人風情が、家畜にも劣る畜生の分際で穢したな⁉ 許さない、絶対にお前だけは許さない……!」


ニーノは獣の様に叫ぶと、憎悪の塊を全身から放出した。


ドス黒い魔力を、いや、夜の国ですら見たことの無いおぞましくも禍々しい瘴気を全身から放った。


その時、ニーノは私を見て優しく微笑する。


「待っていて、ミアお姉さま。今、薄汚い獣人魔王から助けて差し上げますから……!」


一瞬の微笑の後、ニーノは狂気に顔を歪めながら瘴気をルークに放った。


ルークは右手を前に差し出すと、ニーノの放った瘴気の塊を掴み上げ、それを一気に握り潰した。握り潰された瘴気は霧散し消滅する。


「何故、人間が、仮にも聖女を名乗る者がこれほどまでの瘴気を纏っているのだ……?」


流石のルークの表情にも焦燥の色が見て取れた。


「フン、流石は魔王を名乗るだけのことはあるわね」


「貴様、本当にミアの妹なのか? 昔、ミアから話に聞いていたのとはまるで別人のようだが……?」


すると、ニーノは苛立ちを露わにしながら親指の爪をギリギリとかじり出す。


「お前のせいでミアお姉さまは……! 許さない。私達の絆を引き裂いたお前だけは絶対に許さないわ⁉」


ニーノの全身から更なるおぞましい瘴気が放たれる。


それは無数の毒蛇の姿に豹変し、ルークに襲い掛かった。


「何だと⁉ これはまさか……⁉」


ルークは全身を毒蛇に縛り上げられ身動きできない状態に陥った。


「死になさい!」


次の瞬間、ニーノは強大な瘴気の塊をルークに放った。


瘴気の塊は無慈悲にもルークに直撃し、爆裂音を轟かせるのであった。

汝に我が尾と獣耳を捧げよう──。

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