テラーノベル
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ーーCR。
貴利矢はすでにモニターの前に立っていた。
ドアが勢いよく開く。
するとすぐに声が飛んでくる。
「おい、永夢の様子は…!」
貴利矢だ。
飛彩が息を切らしながら駆け込んできた。
「今は比較的安定してる。だが……」
貴利矢は画面を見ながら答える。
「どうしたんだよ?」
飛彩は即座に答える。
「呼吸状態は抗がん剤の副作用だ」
「吐き気と倦怠感も一致している」
一拍。
「しかし――」
視線が鋭くなる。
「鼻血が止まらなかった」
貴利矢の表情がわずかに変わる。
「圧迫しても止まらない」
「量も多い」
「抗がん剤の副作用では説明がつかない」
一瞬の沈黙。
貴利矢が低く呟く。
「……それって」
「白血病の症状じゃ……」
飛彩は短く答える。
「そうだ」
そして、パソコンを操作する。
「これが今のあいつのデータだ」
二人の視線が画面に落ちる。
血液検査の結果。
貴利矢の視線が、画面に釘付けになる。
一瞬、言葉を失う。
「……これって……」
ゆっくりと、数値を追う。
「増えてる、よな……?」
飛彩の声は低い。
「そうだ、通常ではあり得ない」
その時。
背後でドアが開いた。
「随分難しい顔してんな」
低い声。
振り向く。
そこにいたのは――
大我だった。
飛彩は眉をひそめる。
「お前か」
大我は肩をすくめる。
飛彩は画面を見せる。
「小児科医の血液データだ」
大我が近づく。
数秒。
黙って画面を見つめた。
そして。
「……なるほどな」
小さく言う。
飛彩の目が鋭くなる。
「何か知っているのか」
大我はポケットに手を突っ込みながら言った。
「レウコイド」
その名前に、空気が少し変わる。
「そいつを調べてた」
飛彩は黙って聞く。
大我は続けた。
「普通のバグスターとは違う」
「患者からすぐ分離して暴れるタイプじゃない」
飛彩の目が細くなる。
「……どういう意味だ」
大我は短く答えた。
「いわば寄生型だ」
一拍。
「宿主の体内で成長する」
飛彩の視線が鋭くなる。
「……つまり」
大我は静かに言った。
「エグゼイドの体の中にいる可能性が高い」
CRの空気が重くなる。
「白血病細胞が減らない理由も説明つく」
飛彩は低く呟く。
「……レウコイドによるゲーム病によって」
「白血病細胞を増殖させている」
大我は小さく笑った。
「おそらくそうだ」
飛彩の視線が、再び数値に落ちる。
一瞬の沈黙。
(……抗がん剤は効いている)
(だが――)
「……レウコイドによる増殖作用が」
しらすのお部屋
低く、確信を込めて。
「化学療法の効果を上回っている」
「だとすれば」
「初期の進行が早かったことにも合点がいく」
飛彩の視線が、再び数値に落ちる。
ー病室。
ベッドの上で、永夢はぐったりと横たわっていた。
呼吸は浅いが、さっきよりは落ち着いている。
静かな呼吸音だけが、部屋に響く。
ベッドの横。
椅子に座るパラドは腕を組んだまま、永夢を見つめていた。
「……ったく」
小さく呟く。
「無茶しすぎなんだよ」
永夢は眠っているようで、返事はない。
枕の上には、黒い髪が落ちていた。
抗がん剤の影響で、少しずつ抜け始めている。
パラドはそれを見て、眉をしかめる。
その瞬間。
永夢の指先が、ぴくりと動いた。
「……?」
パラドが顔を上げる。
永夢の呼吸がわずかに乱れる。
「……っ……」
胸が小刻みに上下する。
「……う……」
小さな呻きが漏れる。
パラドは椅子から立ち上がり、ベッドに近づく。
「永夢?」
眉がわずかに寄り、苦しそうに呼吸する永夢。
「……は……っ……」
その瞬間、パラドの表情が鋭く変わった。
胸の奥で、何かが動く気配――。
まるで、永夢の体の中で何かが蠢いているような感覚。
パラドは眉をひそめる。
「……なんだ」
永夢の胸元をじっと見つめる。
ドクン。
小さく震える永夢の体。
「……っ……!」
呼吸が乱れ、顔を歪める。
パラドは咄嗟に永夢の肩を掴む。
「おい!」
その瞬間、パラドの中に確かな感覚が広がった。
――バグスターの気配。
だが、いつも感じるものとは違う。
パラドの目が鋭くなる。
「……永夢の中に……いるのか」
その瞬間。
永夢の体が再びびくっと震える。
苦しそうな呼吸が、部屋に響く。
パラドの脳裏に、ひとつの名前が浮かぶ。
さっき聞いたばかりの存在。
「……レウコイド」
低く、しかし確信を持って呟いた。
永夢の体が大きく震え、ベッドに沈み込む。
「あ゛ああっ……!」
苦しげな声が、呼吸と混ざりながら漏れる。
パラドの声色が焦りに満ちる。
「おい、永夢!」
モニターが鋭くピッ、ピッ、ピッ――と警告音を鳴らし続ける。
永夢の体が、大きく震えた。
「あ゛……っ……!」
苦しげな声が、途切れ途切れに漏れる。
モニターが鋭く鳴り続ける。
ピッ、ピッ、ピ――――
その音に重なるように。
永夢の姿が、揺らいだ。
まるで熱に歪む空気のように。
輪郭が崩れ、少しずつ薄れていく。
影のように、ぼやけていく。
体の表面で、小さな光が弾けた。
ぱち、ぱち、と火花のように散る。
存在が、削れていく ――ゲーム病の兆候だ。
「永夢っ……!」
パラドが叫び、駆け寄る。
手を伸ばす。
その瞬間。
永夢の胸の奥が、赤く光った。
次の瞬間――
永夢の身体から白いモヤが、溢れ出す。
胸元から、じわりと。
「なんだよ、これ…」
煙のように、だが重く粘つく気配。
足元へ、壁へ、天井へ。
病室全体を、ゆっくりと侵食していく。
視界が白に染まる。
空気が、変わる。
「……っ」
パラドが思わず息を止める。
その中で――
空間はすでに、白く濁りきっていた。
その中心で。
何かが、生まれようとしていた――。
ナースステーション。
規則的な電子音が、不意に乱れた。
ピッ、ピッ、ピ――――
看護師の一人が、モニターに目を向ける。
「……え?」
表示された数値が、不安定に揺れている。
心拍、血圧、呼吸。
どれも大きく逸脱しているわけではない
――だが、
明らかに“おかしい”。
そのとき。
「っ……なに、これ……」
別の看護師が、廊下の奥を見つめた。
永夢の病室の方向。
白い、靄のようなものが、ゆっくりと漏れ出している。
「……煙?」
いや、違う。
もっと、粘つくような。
空気そのものが濁っているような感覚。
ぞくり、と背筋が冷える。
「鏡先生を……!」
看護師はすぐに踵を返し、駆け出した。
CR。
看護師の声が響く。
「鏡先生!」
飛彩が顔を上げる。
「宝生先生の病室です、バイタルが不安定で……それに――」
一瞬、言葉が詰まる。
「……何か、変なんです」
飛彩の目が細くなる。
「変、とは?」
「説明できません……でも、空気が……」
貴利矢が眉をひそめる。
「空気?」
看護師は小さく頷く。
「白い靄みたいなものが……病室から……」
その瞬間。
大我が小さく笑った。
「……来たか」
低く、呟く。
飛彩は即座に踵を返す。
「行くぞ」
三人は同時に動き出した。
廊下へ――。
白く濁る、その先へ。
廊下。
三人の足音が、硬く響く。
その先――永夢の病室。
扉の隙間から、白いモヤがゆっくりと漏れ出していた。
「……なんだ、これ」
貴利矢が思わず足を止める。
空気が、重い。
肌にまとわりつくような違和感。
大我が目を細める。
「……完全に当たりだな」
飛彩は一切迷わない。
扉へ手をかける。
「行くぞ」
次の瞬間――
バンッ!!
病室のドアが勢いよく開いた。
白。
視界が、一瞬で塗りつぶされる。
濃いモヤが、室内を埋め尽くしていた。
「永夢っ!!」
飛彩の声が響く。
その中で。
かろうじて見える影。
ベッドの上で、永夢の体が大きく震えている。
「あ゛……っ……!」
苦しげな声。
モニターの警告音が鳴り続けている。
ピッ、ピッ、ピ――――
そして、そのすぐそばに――
「……来たか」
大我が低く呟く。
パラドが、そこに立っていた。
視線は一点を射抜いている。
その瞬間。
永夢の体が、大きく跳ねた。
「あ゛あああっ……!」
胸元から、赤い光が爆ぜる。
同時に、白いモヤがさらに濃く広がる。
空間が、歪む。
そして――
“それ”が、引き剥がされた。
影の塊。
永夢の体から、ゆっくりと分離していく。
四人の視線が、そこへ集まる。
誰も、動けない。
白の中で、影が脈打つ。
形を変え、膨張し――
「……ビンゴだな」
大我が小さく笑った。
飛彩の目が細くなる。
「レウコイドか」
影は、急速に姿を変えていく。
白だった外殻が、赤く染まる。
脈動するように、力が膨れ上がる。
空気が震える。
床が、微かに軋む。
レウコイドが、そこに立っていた。
パラドが一歩下がる。
「……進化したのか」
貴利矢が息を呑む。
「……こいつ……手強いぞ……」
その背後で。
ベッドの上の永夢は、かすかに呻いていた。
だが、その存在は薄い。
光の向こうへと、消えかけている。
飛彩の視線が、一瞬だけ揺れる。
だが――
すぐに前を向いた。
「……来るぞ」
戦いの中心は、すでに移っていた。
レウコイドへと――。
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