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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「……アレン様?」

いつもなら緊張していて一定の声音、稀に声が裏返ってしまうのが可愛いところがある愛しのアレイシア。

僕の名前を呼んだ彼女の声は今まで聞いたことのない凍るような冷たい声。

この場が凍ってしまったと錯覚してしまうほどであった。

僕はゆっくりと刺さる視線の方へ向く。

「アレイシア?」

「……」

僕はすぐにアリスから手を離した。

アレイシアは視線で訴えてきた。髪より深みのある青色の瞳から感じる感情は怒り。

気のせいか瞳からは炎が見える。

怒りの原因はアリスとの握手だろうか?それとも勝手に連れ出したこと?

今思い浮かぶものはこの二つ。

礼儀や作法などで怒っているとは少し違う気がする。

「わたくしという婚約者がいるにも関わらず別の異性と手を握るとは……」

『ドッドッドッ』

鼓動が異様に早いことからかなり緊張してしまっているのはわかっている。それに言葉は尖っていた。

「何か如何わしいことでも?アレン様がわたくしにかけてくださった言葉は嘘偽りがあったということでしょうか?……見知らぬ女と……」

アレイシアの鋭い眼光は視線はアリスへ向ける。

アレイシアの眼光は事情も知らない人からすれば恐怖そのもの。しかも、アリスは平民、公爵令嬢から睨まれている。

緊迫する空気の中……アリスはというと。

「……ふむ」

「公爵令嬢たるわたくしにその態度……無礼だと理解できないのですか?」

この場に似つかわしくないことを口にしながら考え事をしていた。

アレイシアはそんな態度にさらに尖った口調で発言していた。

その反応に戸惑うが僕はある一つの光景……前世の記憶が呼び覚まされていた。

今のアレイシアは……主人公を咎める乙女ゲームの悪役令嬢の姿だった。

「アレイシアこれは誤解でーー」

「誤解?……では、何故手を握っていたのですか?それにこの場所……異性をこのような場所に連れ込んだのですか」

……おかしい。

アレイシアがこんなに緊張しているのに、淡々と言葉を紡いでいる。それに、緊張しているのに定例分ではなく声に感情がこもっていた。

だが、この場で話しているのもよくない。

アレイシアの声は徐々に声が大きくなりつつある。

時間が経つにつれて新入生歓迎のための茶会が開かれる。

建物の隣接している間のため、人目につかないが声がよく響く……このまま時間が経てば自ずと人が集まる。

だから、この場は一度間を空けるべきだろう。

「アレイシア、一先ず一度教室へ戻ろう」

「わたくしはこの場で……この状況を説明しろと言っているのです」

「だから、一度時間をあけて」

「何故あやふやにしようとするのですか!?」

高く荒げた声は建物の間に響き渡った。

異常な鼓動の速さ、何より感情的な口調。

今のアレイシアは今まで一度も見たことがない。だが、状況を整理するに……嫉妬しているのではないだろうか?

「……僕はアレイシアしか眼中にないよ」

あくまで予測の段階。僕の思い違いの可能性も少なからずある状況、お門違いかもしれない。

でも、この場では素直な気持ちを伝えることが最良だと思う。

「……信用……できません」

アレイシア悩む素振りを見せた後、返答が来た。

だが、反応から察するに僕の言葉が響いているのかもしれない。

鋭い視線はなくなり、眉がわずかに上がる。僕から目を逸らすを繰り返す。

目を凝らせば瞳も潤って見えた。

この反応はどこか5年前に似ている。

僕とアレイシアの距離が縮まったあの日に。

どこか不安が募り続け今にも泣きそうな……自身の立場ゆえに醜態を晒すことを恐れている。

別に泣くのは恥ではないのだが。

それを言ったところでアレイシアは弱みを見せることはしない。

意地であり誇り。

今まで公爵令嬢アレイシア=ソブールが積み重ねてきた努力の末たどり着いた境地と言ってもいいだろう。

そのプライドゆえに他人に弱みを見せられない。5年経ったにも関わらず僕相手に完全には自身を曝け出すことができないでいる。

面倒すぎる性格に人間性、だがそれが彼女の美徳であり欠点でもある。

直向きな努力家。不器用すぎる故に人に誤解されやすい。

5年の関わって理解した彼女の本質。

その経験から予測するに……何かを求めている。

言葉だけでは足りない何かを。

僕はアレイシアの右手を両手で優しく包み込むように握った。

「……え?」

戸惑いの声を上げるアレイシアだったが,振り解こうとしないので嫌というわけではなさそうだ。

そのままアレイシアの綺麗な瞳を見つめ、最も納得するであろう言葉を発した。

「僕は君を愛しく思っている……これは嘘偽りのない気持ちだよ」

まっすぐ瞳を見つめた。アレイシアは僕の言葉を聞き、視線を外すことなく真剣に見つめ返してくる。

その綺麗な瞳は宝石のように煌びやかに見える。いや、キラキラと光って見えるのは瞳が潤っているからか。

だが、先ほどの怒りや疑念の色は見えず、別の何か……よく見れば表情は柔らかくなっている。

『すぅ…はぁ…』

『ドクドクドクドク』

アレイシアは大きく深呼吸をした。

これでいつも通りだ。

アリスの問題行動、アレイシアの誤解を片付けることができた。

「「……」」

ここで困ったことがあるとすれば……いつ視線を外せばいいのかというところ。

ここで外したら、せっかく伝わった想いが途切れてしまいそうで怖い。

「「……」」

まじでどうしよう?以心伝心ってやつか……いや、そこまで心通ってないような。

アレイシアしか見えない状況で忘れていた第三者。

「最高……マジ最高っす!乙ファン最高シチュ!頑張ってよかったっす!」

「「……え?」」

元修羅場だったこの場は再び混乱となった。

やはり僕とアレイシアは以心伝心なのかもしれない。

アリスの意味不明の発言に僕たちの戸惑いの声だけが響いたことで甘い一時は無くなった。

そして、アリスはアレイシアとの距離を詰めた。両手でアレイシアの片手を握り、顔をこれでもかと思うほど近づけさせた。

「私アリスって言います!」

「え……あ…ふぇ?」

初対面で今までこんなに至近距離に顔を近づけさせたのは初めてなのだろう。

アレイシアは突然の出来事にあたふたしていた。

「安心ください!アレン様は私の人生の恩人!アレイシア様が思っているようなことはありません!」

「……え…は、はい」

『ドクドクドクドク』

いや、人生の恩人て……もしかして前世でアレンというキャラに救われたということだろうか?

……いや,そんなことより。ここは引き離すべきか?でも、会話を聞く限り悪い方向に進まないと思うが。

ん?今アレイシアと目があったな。

助けを求めているのだろうか。

「アレイシア様、私感動しました。二人が互いに想い会う真愛!是非とも特等席で眺め……いえ、お近くで支えさせてほしいっす!」

「……」

もう言い切っちゃってるよな?誤魔化す気ないよな?

状況把握ができなくなったアレイシアは僕に視線を向けたままフリーズしてしまっている。

僕はどうすべきだろうと考えるも、アレイシアのために引き離すべきだと判断し、注意を促そうとする。

「こら、アリスさん。アレイシアがーー」

「だから、私とお友達になってください!」

アリスは僕の言葉を遮るように発した。

その発言に僕は次の言葉をかけず、静観することにする。

アレイシアに必要なのは僕でいうレイルたちのような親友たち。

もしかしたらアリスはなってくれるかもしれない。

アリスは色々と問題言動はあるが、人間性は善。

「アレイシア様?どうされたんですか?」

静観することに決め、眺めているとアリスはアレイシアの両肩をゆすり始めた。

お、フリーズの対処法を即座に見出すとは。

「……あ…あの……よ、よろしくお願いします」

「はい!」

フリーズから戻ったアレイシアはいまだに状況把握ができずにいたが、友達の誘いだけは把握できたらしく、了承していた。

元気よく返事したアリスは、今日1番の笑みをしていた。

アレイシアとの距離のつめ方は慎重にすべきと考えていたが,この無理やり距離を詰めるというやり方も効果的なのかもしれない。

少なくともアリスの言動は予測不能だが、良い方向へ進むことを強く願いたいと想う。

実は僕……すごく耳がいいんです〜乙女ゲームで感情のない人形と呼ばれた悪役令嬢は重度のあがり症だった〜

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