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コンソメパン
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ラウールsaid
「……はぁ。本当に、うちの学校の教師陣は、教壇に立って黒板に向かう前に、まず自分の目線のやり場をどうにかしたほうがいいと思うわけ」
私立雪男学園の校長室。
入学式という一大イベントが無事に終わり、今日から学園では本格的な新学期の授業が始まっていた。
僕はデスクの上で炭酸水を一口すすりながら、机の上に配置された防犯モニターに映し出される各教室の様子を拡大していた。
もちろん、手元のタブレットの無音シャッターはいつでも稼働できる状態だ。
世間からは「若き天才校長」なんて一目置かれているけれど、僕は知っている。
新しく赴任してきた4人のイケメン教師陣も、今日から始まった授業という慣れない環境に、どこか不器用な空気を漂わせていることに。
特に、初対面の入学式であれだけ激しい一目惚れの気配を撒き散らしていた社会科の目黒先生や、体育の岩本先生、家庭科の宮舘先生、理科の阿部先生だ。
立場はあくまで「先生と学生」。
おいそれと距離を詰められるわけもなく、今はまだ、お互いに学校という空間と、その新しい関係性に慣れるので必死な、じれったい時間が流れていた。
教師と学生の恋愛というのは、世間一般では慎重になる関係だ。
当然、うちの真面目な教師たちだって「今はまだ」と自分を律するに決まっている。
……まぁ、最終的には受け組が付き合いたいって言っても「もう少し待とう」なんて大人の理性を保とうとするくせに、愛の熱量に負けて、あっさりとその理性を折り曲げてしまう未来が、僕にはもう見えているんだけどね。
ちなみに、目黒先生と康二先輩のところだけは、攻めである目黒先生のほうが早く付き合いたくてたまらなくなって、受けの康二先輩が「まだだめなんちゃうん?」って戸惑うような、少し特殊な関係になりそうな予感がしている。
なんにせよ、最終的に先生たちが折れちゃうのは時間の問題だ。
まずは、1年B組の社会科の授業。
目黒「いいか、ここが次の小テストに出るから、しっかりノート取っておけよ。……おい、向井。そこ、よそ見しない」
康二「あ、目黒先生! すんません! 黒板の文字がちょっと見えにくくて、ついキョロキョロしてもうてん!」
一番前の席でシャカリキにノートを取っていた一年生の向井康二が、社会科の新任教師、目黒先生の声に慌てて姿勢を正した。
目黒先生は初対面の入学式からずっと康二のことばかりを目で追っているけれど、いざ授業となると、新任としての緊張もあるのか、どこか硬い表情を崩さない。
康二は女子からも男子からもモテる人気者だけど、本人はカメラに夢中でその自覚がない。
目黒先生にストレートに
向井「目黒先生の板書、めっちゃ綺麗やなぁ」
なんて言ってのけるあたり、本当に無自覚で人懐っこい一年生だ。
目黒先生はクールな顔のまま、教科書を持つ大きな手をほんの少しだけ強張らせて、
目黒「……うるさい。早く書け」
と、少し優しいトーンで注意していた。
まだ付き合うなんて次元には程遠い、ぎこちない先生と学生のやり取りだ。
次は3年A組の体育の授業。
岩本「深澤、お前また見学か。バスケ部の練習も幽霊部員のくせに、初日からサボり癖を出すな」
深澤「あ、岩本先生〜。そんなに怒らないでくださいよ。俺、生徒会長の仕事が忙しくて、ちょっと寝不足なだけですから。……ほら、これあげるから許して?」
グラウンドのベンチで、生徒会会長の深澤辰哉が、体育教師の岩本先生にお菓子を差し出していた。
深澤は成績はそこそこだけど、女子からも男子からもモテる要領の良い人気者。
岩本先生は厳しい態度を取りつつも、深澤が話しかけてくるたびに、その引き締まった男らしい表情を少しだけ和らげている。
岩本「学校でお菓子を食べるな」
深澤「えー、でもこれ美味しいですよ?」
岩本「……没収」
そう言いながらも、岩本先生は深澤の差し出した袋を受け取った。
まだどこか互いの距離を測りかねているような、初々しい視線が交わされていた。
さらに家庭科室のほうを見れば。
宮舘「渡辺、この包丁の使い方はこうだよ。危ないから、ちゃんと手元を見てて」
渡辺「っ、分かってるよ……っ。宮舘先生、別に俺、子供じゃねぇんだからさ」
美容オタクで肌がピッカピカな三年生の渡辺翔太。
バスケ部の幽霊部員で成績は良くないけれど、男女問わずモテまくる彼が、家庭科の新任教師、宮舘先生の隣で呟いていた。
宮舘先生は物静かで落ち着いた佇まいのまま、渡辺の少し離れた位置から調理の手順を教えている。
2人は幼馴染だという噂があるけれど、学校という「教師と学生」の立場になって初めての共同作業に、渡辺はどこか調子が狂ったように顔を赤くしていた。
宮舘先生はそんな渡辺の様子を見つめている。
そして最後に、3階の理科室。
佐久間「あべちゃん! 今日の実験、さく美が一番に成功させちゃうにゃん!」
阿部「こら、佐久間。まだ授業が始まったばかり。勝手に薬品を混ぜないの。あと、阿部先生でしょ!」
放送委員会会長を務める三年生の佐久間大介が、理科担当の阿部先生に元気に声をかけていた。
佐久間も男女問わずモテる人気者だけど、成績は良くないから、阿部先生の授業には興味津々だ。
阿部先生は笑顔を浮かべながらも、佐久間が「あべちゃん」と呼ぶたびに優しく注意していた。
でも、今日から始まったばかりの授業という空間で、佐久間の真っ直ぐな視線を真っ正面から浴びて、阿部先生のほうもどこか白衣の袖をぎゅっと握りしめるように、ほんの少しだけ初心な照れを隠しているようだった。
🤍said
「……ふふ、本当に最高。みんなまだ、学校という新しい環境と、お互いの存在に慣れるので必死だね」
僕は校長室で一人、モニターを眺めながら不敵に笑った。
付き合うだのなんだのという展開は、まだまだ先の話。
まずはこの不器用で、じれったい日常がどんな風に回り出すのか。
僕の『校長日記』の次のページは、これから少しずつ縮まっていくであろう2人きりのデータの蓄積のために、ゆっくりと白紙のまま待機しているのだった。
目黒said
目黒「起立、礼。ありがとうございました」
日直の声に合わせて、一年生の生徒たちが一斉に頭を下げる。
チャイムが鳴り響く教室の中で、俺は教科書と出席簿を小脇に抱え、教壇の上で小さく息を吐き出した。
(……めちゃくちゃ緊張したな)
新任の社会科教師として赴任して、今日が初めての本格的な授業。
女子生徒や男子生徒から浴びせられる珍しそうな視線も、慣れない板書のスピードも、すべてが手探り状態だった。
だけど、そんな緊張以上に、俺の意識を強烈に引っ張っていたのは、一番前の席に座っているアイツの存在だった。
向井康二。
入学式の日に一目見た瞬間から、どうしても目で追ってしまう一年生。
今日の授業中も、康二は関西弁混じりの声を時折漏らしながら、シャカリキにノートを取っていた。
女子からも男子からもモテる人気者だと聞いていたけれど、本人は自分の魅力に全く無自覚なようで、時折カメラのストラップを触りながら、俺の板書を真剣に見つめていた。
目黒「よし、今日の授業はここまで。向井、そこ、まだノート書き終わってないなら、放課後にでも社会科準備室に聞きにきなさい」
康二「えっ!? 目黒先生、俺のノートが遅いのバレてました!? すんません、俺、ほんまに手が不器用で……」
康二は申し訳なさそうに頭を掻いた。
その無防備な笑顔を見た瞬間、俺の胸の奥がほんの少しだけ熱くなる。
本当は、今すぐにでも付き合いたいとか、自分のものにしたいとか、そういう猛烈な独占欲が頭をよぎるけれど、俺は先生で、コイツはまだ入ってきたばかりの一年生。
学校に慣れてもらうのが先だし、立場という鉄壁の境界線が俺たちの間にはしっかりと横たわっている。
目黒「補習ってわけじゃないけど、分からないところがあったら、いつでも『目黒先生』って呼びなさい。準備室で待ってるから」
康二「おん! ありがと、目黒先生! 俺、次の時間はもっと早く書けるようにしゃかりき頑張るわ!」
康二は嬉しそうに俺にペコペコと頭を下げると、すぐに後ろの席にいる深澤たち三年生のところへ走っていった。
入学式で出会ったばかりだというのに、もうすっかり先輩たちの輪に馴染んで、
康二「ふっかさん! しょっぴー! さっくん! 聞いてや、歴史めっちゃ難しかったわぁ!」
と、先輩なし、敬語なしのフランクな距離感で楽しそうに笑い合っている。
目黒「……はぁ」
俺は廊下に出ると、誰にも聞こえないように小さくため息をついた。
付き合いたいと願う本音と、まずは先生としてアイツの学校生活を支えなきゃいけないという大人の理性。
まだ何も始まっていない、ただの先生と生徒。
だけど、康二が俺の名前を呼ぶその響きだけで、俺のなかの何かが少しずつ、確実に狂い始めているのを感じていた。
向井said
康二「なぁ、ふっかさん。目黒先生ってめっちゃ格好ええよな。なんか授業中、俺のことばっかり見てた気がするねんけど気のせいかなぁ?」
放課後、俺は三年生の教室に突撃して、机に座っているふっかさんに話しかけた。
深澤「あー、目黒先生ね。新任の社会科の先生だっけ? 確かにイケメンだけど、サボり魔の俺からしたら天敵になりそうな予感がするわ。それより康二、お前また写真部のカメラ持ったままうろついてんの?」
ふっかさんは笑いながら、俺のカメラをのぞき込んできた。
深澤は生徒会会長のくせにバスケ部の幽霊部員で、成績はそこそこだけど男女問わずモテる、自慢の最高のお兄ちゃんや。
康二「ええやんか! 俺は写真部として、この雪男学園の美しい一瞬を切り取らなあかんねん! あ、しょっぴーもさっくんも一緒に行こうや!」
奥の席から、美容オタクで肌がピッカピカなしょっぴーと、放送委員会会長のさっくんがやってきた。
渡辺「俺は行かねぇよ。日焼けするし、これから宮舘先生に家庭科室の片付け手伝わされるから」
しょっぴーは言いながらも、顔がちょっと赤い。
宮舘先生の名前を出すだけでこうなるの、ほんま分かりやすくて可愛いわ。
康二「えー! しょっぴーも宮舘先生も冷たいわぁ! さっくんはあべちゃんのところ行くん?」
佐久間「あべちゃんじゃなくて阿部先生ね! って、さっき怒られたばっかりなんだよ〜! でも俺、あべちゃんに勉強教えてもらう約束したから理科室行ってくる!」
さっくんも成績は良くないけど、男女問わずモテる人気者。
ピンクの髪を揺らしながら元気に教室を飛び出していった。
康二「みんな忙しそうやなぁ。じゃあ俺、さっき目黒先生に言われた通り、歴史のノート見てもらいに社会科準備室行ってくるわ!」
深澤「おう、気をつけてな」
ふっかさんとしょっぴーに見送られながら、俺は廊下を歩き出した。
まだ入学したばかりで、学校のことも先生たちのこともよく分からんことだらけやけど、この雪男学園は毎日がめっちゃ賑やかで楽しい。
でも、社会科準備室のドアの前に立った瞬間、なぜか胸がドキドキと小さく高鳴った。
目黒先生の、あの冷たそうで見守るような優しい瞳を思い出すと、なんだか不思議な気持ちになる。
コンコン、とドアをノックする。
康二「失礼します、目黒先生……!」
ドアを開けると、そこには夕暮れのオレンジ色の光に照らされた、目黒先生が待っていた。
俺たちのじれったい放課後は、ここから少しずつ動き出そうとしていた。
コメント
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あー、もうこのじれったい距離感たまらんわ! ラウールくんの視点で教師陣の恋愛模様を見守る構図がめっちゃ好き。特に目黒先生、先生としての理性と恋心の葛藤がリアルで、康二の無自覚な人懐っこさに翻弄されてる感じが最高。まだ何も始まってないのに、これからどう動くのか想像するだけで胸が熱くなるわ🔥 次話も楽しみにしてる!