テラーノベル
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突然の雨に降られ、僕は駅の軒下で立ち往生していた。
隣には、同じように肩をすぼめる女の子。彼女が持っていたのは、僕が昨日読み終えたばかりの「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」の文庫本だった。
「……それ、すごく良い結末ですよね」
思わず声をかけると、彼女は驚いたように目を丸くし、それから雨音に負けないくらい澄んだ声で笑った。
「あ、分かりますか? 私、この作家さんの言葉の選び方が大好きで」
湿った空気の中に、彼女が纏う微かな石鹸の香りが混じる。
雨が止んでほしくないなんて思ったのは、人生で初めてだった。
「あの、もしよかったら、近くのスターバックスで雨宿りしませんか? その本の感想、もっと聞きたくて」
僕の不器用な誘いに、彼女は少しだけ頬を染めて頷いた。
「いいですよ。でも、コーヒー代の代わりに、次のおすすめを教えてくださいね」
雨はまだ降り続いていたけれど、僕の心には、予報にない温かな陽が差し始めていた
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