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#すにすて
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続き楽しみにしてます!
その日の四限目は、体育だった。
昼前の日差しが強まり、気温が上がった体育館の中は熱気に包まれていた。
ボールがゆっくり床を弾む軽快な音、シューズがこすれるキュッという音、クラスメイトたちの笑い声や歓声、すべてが入り混じり、活気に満ち溢れている。
俺は、体育館の隅に座り、コートでおこなわれている試合を眺めていた。
視線の先では、らぴすが笑顔で走り回っている。
バスケ部に入っているらぴすは、体育の時間ではまるでヒーローだった。
汗に濡れた前髪をくしゃっとかき上げながら、仲間と声を掛け合い、軽やかにドリブルで相手をかわしていく。
その姿に、俺は自然と視線を奪われていた。
迷いのない動き。スピード感のあるパス。
そして大きなジャンプ。
指先から放たれたボールは、弧を描いてリングへ向かい、吸い込まれるようにネットを揺らした。
「ナイスシュート!」
周りから歓声があがる中、らぴすは白い歯を見せて笑っていた。
その笑顔は、とにかく輝いていた。
勝ち気で、楽しげで、目をそらしてしまいそうになるくらい。
らぴすの姿は、なんだか泣きそうになってしまうほど俺の心をがっしりとつかんで離してくれなかった。
隣でクスクスと笑う声がして、俺はハッとする。
笑ってたのは、同じクラスでいつも一緒にいる友人の高山メルトだった。
「らぴす、超かっこいい〜って顔にかいてあるよ?」
「う、うるさい、そんなこと思ってないし」
面白半分にからかわれていることをわかってはいても、わきあがる恥ずかしさには逃げられない。
「ち、違うに決まってんだろ!」
あわてて否定したところで、メルトにはすべてお見通しだと言わんばかりに笑っていて、俺の顔はあっというまに真っ赤になっていた。
そのあいだも、らぴすはクラスの男子たちに囲まれて、わいわいと盛り上がっていた。
その様子を眺めながら、メルトがぽつりとつぶやく。
「でも、らぴすってこんなに運動得意だったんだね?なんか新鮮」
メルトの何気ないその言葉が、ふわっと俺の胸に入りこんできて、俺は知らず知らずのうちに考え込んでいた。
言われてみればらぴすがこんなふうに活躍をしている姿を、なぜかあまり思い出せない。
おかしいな。俺とらぴすは、小学校のころからずっと一緒だったはずなのに。
「確かに、あんまイメージつかないかも」
「だよね。でもまぁバスケ部に入ってるんだもん、そりゃ上手くなるよなぁ」
メルトの言葉に俺はまた納得して頷く。
それはそうだ。部活で毎日練習してるんだもん。
知らないうちに上達してるよね。
なんでも知っていると思ってたはずのらぴすを、ちょっと遠くに感じた。
なんとなくさみしいような気がして、その気持ちをごまかすかのように、俺はわざとらしく体育館を見渡した。
「はぁー、お腹減った。早く終わんねぇかな?」
だらけたように体を得点板にもたれかかせるらんに、苦笑いをこぼす。
「メルト、先生こっち見てる」
「え、マジで?やば、心音ちゃんと試合見て!」
突然背筋を伸ばして、俺にまで指摘してくる彼に呆れながらツッコミをいれる。
「黙れ、お前がな?」
俺たちは笑いながら、ふたたびコートへ視線を戻した。
ちょうどその瞬間だった。
ドンッ !!
体育館に大きな衝突音が響き、試合が止まる。
一瞬何が起こったかわからなかったけど、視線の先で、らぴすが倒れこんでいるのが見えた。
誰かと激しくぶつかり、そのまま転んでしまったらしい。
「っ!」
運動をしていた、よくあることだとは思う。
それなのに、視界が揺れ、心臓が酷く嫌な音を立てた。
「らぴすっ!」
考えるより先に、足が動いていた。
試合が止まったコートに駆け寄り、らぴすのすぐ横にしゃがみ込む。
痛そうに体を折り曲げた彼を見て、不安で息ができなくなる。
「らぴす、大丈夫!?なぁ」
俺の必死の声に、周囲が一気に静まり返った。
「心音、大袈裟すぎ」
妙な静まりの中、起き上がったらぴすが、驚いた顔で俺を見上げる。
視線が交わり、俺は、自分の行動を冷静に振り返ることになった。
あれ。俺、なんでこんなに焦ってるんだろう。
周りを真綿里、クラスメイトも、先生でさえも、驚いたようにコートの中央にいる俺らを見つめている。
それでも俺の心臓は、どくん、どくんと嫌なリズムでなり続けていて、不安が静まる気配はなかった。
どうしてかはわからない。
けれど、らぴすが倒れて瞬間、居ても立っても居られなくなったのだ。
助けないとって、頭よりも先に感情が走り出した感覚だった。
自分でコントロールできないほどの焦りに、俺自身も戸惑っていた。
そんな俺をみて、らぴすがふっとほほえんだ。
「優しくてツンデレな彼女やなぁ」
思いも寄らないいたずらな言葉に、俺は目を丸くする。
その一言が引き金となり、クラスメイト達の反応が一気に爆発した。
「くっそ熱々かよ!うらやましい!」
「らぴす、このうぬぼれ野郎!さっさと立て!」
「心音やるぅ〜!」
急に賑やかになった体育館。
途端に顔が熱くなり、俺は両手で顔をおおいながら、思わず周りに向かって叫んだ。
「うっせぇ〜!!心配なんてしてねぇ」
恥ずかしさに耐えきれず、俺はぱっと立ち上がって壁の方へかけ出した。
背後で、らぴすが「それは無理があるだろ」と笑っていたのが聞こえたけれどそれは無視だ。
すぐに試合が再開される。
らぴすは立ち上がり、何事もなかったかのようにコートへ戻っていった。
俺は、体育館の隅へと戻り、手のひらをギュッと握りしめる。
とにかくらぴすが、怪我をしてなくてよかった。
正直、まだ呼吸が浅いけど、それを落ち着かせるように俺は小さく呼吸を繰り返した。
異常なほどの胸のざわつきに驚きはしたものの、俺はらぴすのことが本当に大切なんだと、密かに嬉しくなる。
らぴすは、コートの上で変わらず笑っていた。仲間と方を叩き合い、弾むように走る姿は、いつもの、見慣れた景色のはずだった。
けれど、どれだけ見ていても、今もなお新鮮に、俺の心には幸せが広がっていく。
「楽しそう、だなぁ〜」
そんな言葉が、思わずぽろりと口からこぼれた。
「そういってる心音も楽しそうなんだけどな」
隣で俺の様子を見ていた、メルトが、そんなふうに呟いてることには、俺は気づいていなかった。
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