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「別に女性しかいないのですから、良いではありませんか。女性しかっ!」
「って、うおぉぉぉいっ!?」
ってか愛理沙っ! なぜそこを二回言った? そこは大切な部分なのか?
「だいたいっ! お兄ちゃんが悪いんですよっ!」
続いて舞華が、スポーツブラ一枚のけしからん胸を張りながら頬を膨らませる。
「はあ……? オレの何が悪いって言うんだよ?」
「お兄ちゃんが可愛い過ぎるのが悪いんです! 自分より可愛い人を男の人と認めるのって、なんか悔しいじゃないですかぁ?」
「その通りですわ。まあ、わたくしの場合、美しさという点では負けておりませんが……それでも可愛らしさとなると一歩及びません。そんなお兄様を異性として意識し、恥じらって見せるなど、なにやら屈辱的ではありませんか?」
「ゼェ~ゼェ~ゼェ~(コクコクコク)」
な、なんという複雑な乙女心……まったく理解出来ん。
てか、美幸はそろそろ何か喋れっ!
「という事で、お兄様が優月さんの格好をしている時は、キッチリ女性として扱わせて頂きます」
「まあ、副社長の姿で同じ状況になったら、その時は悲鳴の一つも上げてあげますから」
「ゼェ~ゼェ~……いや、でもよ……あの、生活に疲れた主婦みてぇな|面《ツラ》したヨレヨレスーツのアニキを男として意識するってぇのも。ソレはソレで難しくねぇか?」
「いやいやっ。アレはアレで、一昔前のエロゲ主人公みたいで|趣《おもむ》きがありますよ」
コラッ美幸っ! ようやく口を開いたと思ったら、ヒドイ言い草だな、オイッ!!
そして、舞華っ! 佳華先輩ならともかく、十八歳のお前が、なぜ一昔前のエロゲを知っているっ!
てゆうか、コイツら。かぐやにシゴかれ過ぎて、正常な思考と判断が出来なくなってるんじゃないか?
「てゆうかさぁ……」
「――!?」
突如、背後から耳元へ届いく、囁かれる様な第三者の声……
冷淡な口調で殺気を孕む聴き馴染んだ声に、オレの背筋が一気に凍り付いた。
「アンタがココから出て行けば、済む話なんじゃないの……?」
「は、はい……まったくもって、その通りです……」
恐怖に声を震わせるオレ。そんなオレの背中へ洗濯板みたいな胸を張り付かせつつ、左手を腹の方へと回してオレの右手首を掴む聴き馴染んだ声の主。
こ、この体勢って、まさかボイン――じゃなくて、レインメーカー(*01)か……?
「だったら~」
「ちょっ!? ま、待てかぐ――」
「とっとと、出て行きなさいよ~っ!!」
静止を求める声も虚しく掴まれていた右手を思い切り引っ張られ、その場で左回りに反転するオレ。
物凄い勢いで横へと旋回する視界に、見慣れた鬼の形相を捉えた瞬間――
「かはっ!?」
喉元からアゴへ衝撃が走ると同時に身体が宙を舞い、今度は視界が後方へと縦回転に旋回した。
そして……
「ぐはっ!?」
脳が揺さぶられ天地の感覚を無くしたオレは、ろくな受け身も取れずに硬い板張りの床へと背中から落下したのだった。
「い、今のはレインメーカーですか……?」
「今、お兄ちゃんの身体が一回転以上しましたよ!?」
「いくらアニキが軽量級つっても、|近距離《ショートレンジ》のラリアット(*02)で、一回転半も回すなんて……」
ぐぐぐ……っ。や、やはりレインメーカーか。
かぐやのラリアットはアッパー気味にすくい上げるから身体が宙に浮きやすいとはいえ、一回転半も回ったのか、オレは?
そして新人達よ、分かりやすい説明ありがと、おっ、おおっ、おぉぉぉ……
背中に走る激痛を堪えながら状況の把握をするオレの腹部を、追撃とばかりにグリグリと踏み付るかぐや。
「ねぇ、優人……」
額からの脂汗で滲む視界に映るのは、冷ややかな目でオレを見下ろす幼馴染みの姿。
ちなみにその後ろには、頬に一粒のあんこを付けた木村さんの姿。更に口元を押さえながら、「ううぅぅ……食い過ぎた、気持ちわりぃ……」などと呻いている荒木さんの姿があった。
「誰のっ! 何がぁ! 洗濯板みたいだってぇ?」
えっ?
「まったく……アナタは考えている事が顔に出やすいと、あれほど忠告してあげていたのに」
えっ? ええ~っ?
「いやいやいやっ! 顔にって、二人共オレの後ろにいたよな? 顔なんて見えてないよなっ!?」
眉尻を上げて睨むかぐやと、呆れ顔の木村さんに反論の声を上げるオレ。
しかし、二人は無言のまま、ゆっくりと正面を指差した。
その動きに導かれるよう、オレは指先が示す方へと顔を向ける。
「………………」
フッ、なるほど……謎は全て解けた。正に真実はいつも一つである。
そう、そこは脱衣所へと続く扉の隣に作られたドレッサースペース。四脚の簡易な丸椅子と備え付けのドライヤー。そして、壁には当然の如く、大きな鏡がはめ込まれていたのだった。
「それでぇ~? 誰のぉ~、何がぁ~、洗濯板みたいだってぇ~?」
不自然なほどにニッコリとした天使の微笑みを浮かべながら、さっきと同じ質問を繰り返すかぐや。
マズイッ! と、とにかく、何とか誤魔化さなければっ!
「ちょっと待てかぐやっ! 高一の時、|火《か》サス胸というあだ名をお前に付けたの実はオレだけど、洗濯板というあだ名を付けたのは、四組の藤い――」
「死ねっ!」
「ぐはっ!!」
的確にオレの鳩尾へとメリ込む、かぐやの踵……
くっ……焦るあまりに、思わずいらん事まで言ってしまった……
「火サス胸? 火曜日のサスペンス胸…………? ああ、断崖絶壁という意味ですか。中々上手い事を言いますね」
「上手くないわよっ!」
き、木村さん……ギャグを解説されるのは、恥ずかしいからやめて下さい。
(*01)レインメーカー
背後から左手を相手の腰に回し右手首を取る。
そして、手首を掴み取った腕を自身の方向へと引っ張り込むこんで、相手をその場で勢いよく反転させ、向かい合う形となったと同時に相手の喉元へをラリアットで叩き付ける。
余談ではあるが、某Kカップ女子レスラーの得意技に、ラストをラリアットではなく自慢のKカップを叩き付け、相手に精神的ダメージを与える『ボインメーカー』という技もある。
(*02)ラリアット
腕を横に伸ばし、相手の首や胸板にその腕を叩き付ける打撃技。
アメリカなどでは、クローズラインと呼ばれている。