「それから、アナタ達――」
「えっ? あ、あっ! はいっ!!」
事の成りゆきに着いて来れず、呆然と立ち竦んでいた三人娘であったが、突然元三冠王者に声をかけられ、慌てて背筋を伸した。
「まだ元気が余っているみたいだし、すぐにシャワーを浴びないのなら|道場《ジム》に戻ってもう少し練習を続けようか?」
「「「え……?」」」
かぐやからの提案に顔を青ざめさせる新人達。
その姿を見て、かぐやは口角を吊り上げながらポキポキと指を鳴らした。
「なんなら、わたしが|本気のスパーリング《ガチスパー》で相手してあげ――」
「申し訳ありませんっ! 今日のところは遠慮させて頂きますっ!」
「すみませんっ、すみませんっ、すみませんっ!」
「お先に、シャワー失礼するッス!」
取るものも取りあえずといった感じで、替えの下着とタオルを抱え、脱衣所へと逃げ込んで行く新人達。
ってか舞華、パンツ落としたぞ、パンツ。
「まったく……近頃の若い娘には、恥じらいとか慎みというモノがないのかしら?」
まるで自分には、恥じらいと慎みしがあると言った口ぶりだな、オイ。
「何か言った?」
「いや、別に……」
ギロリと睨まれ、そっと視線を逸らすオレ。
コイツ……ホントは超能力者か何かじゃないのか?
「じゃあ、詩織。わたしもシャワー行くから、このバカ二人お願いね」
「了解です」
うずくまるオレの右手と、青い顔で口元を押さえている荒木さんの襟首を掴む木村さん。
「さあ、行きますよ、男の娘。ルーキー達の練習を見て性欲が高まっている、飢えた狼どもがお待ちかねです」
小柄で非力に見えても、そこはやはりプロレスラー。木村さんはオレ達二人をズルズルと引き摺りながら、何食わぬ顔で歩き出した。
てか、行きたくねぇ……
「そうそう。今日のスパーリング、わたしはスケベくん……もとい、深津くんのセコンドに付きますから」
「…………え?」
あのエロ深津に、|寝技《グラウンド》の魔術師がセコンドって……
「レスリングの技術はともかく、彼のねちっこさと打たれ強さ。更には打たれて悦ぶМ属性は、わたしの心に訴える何かがあります」
「いやいやいやっ! アイツはウチの選手でもなければ、試合に出る訳でもないんですから、セコンドに付いたって何の得もないでしょうっ!?」
「損得の問題ではありませんっ!!」
お互いの額がぶつからんばかりに、オレの眼前へ眉尻吊り上げた綺麗な顔を寄せる木村さん。
そして、オレの目を間近で睨み付け、静かに口を開いていく。
「コレは、わたしの腐った心を満たせるかどうかの問題です」
うおぉぉぉ~~いっ!?
「ちょっと、詩織ぃ! さすがに最後の一線を越えそうになったら止めなさいよっ!」
いや、その前に止めてくれ。マジでっ!!
しかし、木村さんはオレの眼前に寄せていた顔を上げ、かぐやに向けてニヒルな笑みを見せる。
「ふっ……ソレは|腐《ふ》の道に生きる者にとっては、出来ない相談ですね」
だから、うおぉぉぉ~いっ!? ってか、腐の道って何だよっ! 初めて聞いたわっ、そんな道っ!!
「それでは、フカ×サノのカプ成立を目指して、今日も張り切って行きましょう♪」
今にもスキップを始めそうな勢いで、再びオレ達を引き摺り歩き出す木村さん。
くっ、こうなっては仕方ない。オレの貞操と正体を守るため、深津には組み合う前に打撃だけで息の根を止めさせてもらおう。
深津……悪いが、迷わず成仏してくれ……
「詩織ぃ~っ! せめて、動画っ! 4Kとは言わないから、フルHDで撮っておいて~っ!」
「やかましわっ!!」
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