テラーノベル
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ルール説明があった部屋を出ると、同じ階だけでも部屋は何部屋もあることがわかった。ここは洋館とのことだが、内装は高級ホテルに近い。
面接は五部屋同時に行われた。巽豆隆の後、月呼の番となる。『石上月呼』ではなく『棚原前沙』として呼ばれていた。
「面接官のローラシアです」
面接を担当する男も、バールバラたちのようにキツネに扮していた。ただ、被り物の毛はバールバラのものより青みがかっている。エジプトで発掘調査したことのある月呼にとって、その違いはわかりやすかった。顔は見えないが、どことなく若い印象を受ける。
「ローラシアさん、私の顔、化粧が落ちていたりしていませんか? あっ、被り物をしていると、視界も見えにくいのですかね?」
開口一番、月呼はたずねた。深刻な話をされるかもしれないのに、緊張感がまるでない。
「ご心配なく。ちゃんと見えていますよ。そうですね、見た感じ、あなたの顔の化粧がくずれている感じはありませんが……」
「よかったー」
月呼はほっとする。
「……では、気を取り直して。棚原前沙さんですね。本名は石上月呼さん。年齢は二十一歳。神武庫大学文学部在学中――」
「はい、そうです!」
資料を読み上げるローラシアに対して、月呼は元気よく答えた。雰囲気はまるで就職活動の面接だ。
「神武庫大学に進学したのはエジプト考古学を学ぶため、ですよね?」
「そうです!」
「神武庫大学はエジプトの調査と研究の歴史が長いことで有名ですよね。よって、エジプト考古学が好きなことは絶対に伏せてください。大学が特定されやすいですから。大学生であることを言うのも厳禁です」
「私、クルージング旅行でエジプト料理が食べられると聞いて参加しました。レムリア・ゲームの参加者は少なからずエジプトに興味がある人たちの集まりではないんですか?」
「バールバラの説明を聞いていなかったのですか? それはあなたを誘き出すための嘘です。参加者は皆それぞれ違う動機でここへ来ています」
「でも、偶然街で親切にしたお爺さんにチケットを渡されて」
「それは偶然ではありません。すべて仕組まれていたのです。あの老人もこちら側の人間です」
「そ、そんな……」
月呼はその事情に愕然とする。老紳士との出会いは自然だった。そもそも月呼から相手に近寄ったのだ。
「私のエジプト話をちゃんと聞いてくれたのも、全部演技だったなんて」
月呼としては偽のチケットを渡されたことより、そこへのショックが大きかった。
「まあ、目的があってあなたと接触したのは確かですが、そのすべてが偽りとは限らないんじゃないですか」
ローラシアは意外にも月呼をなぐさめる。それは運営事務局としてではなくローラシア個人としての見解だろう。
「そうですよね。あのお爺さん、にこにことこちらの話を聞いてくれましたもん。私の話もつまらなくはなかったはず」
「……」
月呼の自己評価の高さにも、ローラシアはなにも言わない。
「シャトルバスにはもうふたり乗客がいました。でも、あのふたりはゲームの参加者にはいない。どういうことでしょうか」
「あれもサクラです。バスにだれも乗っていないと、あなたが不審に思う可能性があったので」
#探偵
橘靖竜
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おだんご🍡
44
82
「インターネットで検索したら、クルージング旅行を企画した会社のサイトがありました。過去の実績も載っていましたよ」
「それもあらかじめ作っておいたのです。あなたが信じるように。どれも架空のイベント、架空の会社です」
「かなり手が込んでいますね……そこまでして私に参加してほしかったんですか」
なぜ、ゲームの参加者が自分であることにこだわるのか。月呼はその執着を怖いとすら思った。
「インターネットを見て、クルージング旅行に参加する人がいたらどうしていたんですか」
「そのへんはどうとでもなりますよ」
「レムリアさんって老齢なんですよね。あっ! 私にクルージング旅行のチケットを渡した、あのお爺さんがレムリアさんですか?」
推理小説の冒頭で犯人がだれかわかったかのように、急にぴんとくる。月呼は自分の推理力の高さに自惚れそうになった。
「違います。彼はただの演技力を買われた末端局員で――って、これ以上我々について探ろうとすると、失格になりますよ」
ローラシアの声は怒気を含んでいる。
「は、はい――今の私の発言、大丈夫でしたかね?」
罰金五千万円というワードを思い出し、月呼の頭の中は真っ白になった。
「……あなたはおもしろい実験結果となりそうですし、このままリタイアされてはレムリアとしてもおもしろくなさそうので、今回は目をつむっておきます」
月呼はほっと息を吐き、安堵する。
「参加者が全然集まらなかった場合はどうしていたんですか?」
「中には強制的に連れてこられた人もいます。クロロホルムを嗅がせて眠らせる、なんて推理小説によくある方法は現実には不可能なので、これがまた難しくて――これ以上言うのは控えます」
身元を徹底して隠そうとしている中、ローラシアはおしゃべりな性格なことがうかがえた。
「まあ、一週間後に三億円をもらえるのなら、警察に相談する人はいないでしょうね」
月呼はパートナーの青年を思い出す。彼は自主的に来たのか強制的に連れてこられたのか、どちらなのだろうと。
「クルージング旅行と思って来た、とも言わないでくださいね」
「それにしても、エジプト考古学の話ができないなんて。この一週間、私はあの男性となにを話したらいいんですか」
エジプト考古学が好きなことは月呼のアイデンティティーそのものである。ある意味、本名を名乗れないことよりも自己同一性を失う。
「あっ、好きな食べ物を話すのは大丈夫ですか? それなら差し障りのない話ですよね?」
「……そんなにあの彼と話したいんですか」
ローラシアの問いかけは自分がパートナーに興味を抱いていると言われているようで、どきっとした。
「そういうわけではなくて、ただ沈黙だと息が詰まると思っただけです。でも、特に会話をせず七日間過ごして、あっさりと三億円をもらえたらいいですよね」
「面談に続きます。家族構成は父、母、あなた、長男、次男、三男、四男の七人家族」
「間違いありません」
「家族のことも絶対に黙っていてください。両親がパン屋を経営していること――倒産間近だそうですが――弟が四人いることはあなた個人を特定しやすい」
「は、はい……」
弟が四人いると他人に言って驚かれることは定番の流れでもあった。それすらも封印されると、やりづらく思う。
けれども、家族のためにもルール違反をすることなく、賞金を獲得したい。石上家の運命は月呼に委ねられていた。
「どうして私がこのゲームに選ばれたんですか?」
「一週間家を開けても支障がない人が選ばれやすいです」
参加者は月呼と同世代の学生ばかりだろう。社会人はまずいなさそうである。
「私、家族に毎日連絡すると約束しているんです。音信不通だと家族が心配して、警察に捜索願を出すかと」
「棚原さんの場合は、局員の監視のもと、定期的に家族と連絡を取ってもらいます。警察に通報したり、秘密の暗号などで家族に助けを求めるなどの行為が発覚した場合、リタイアしてもらいます」
「しません。むしろ家族には警察沙汰にされると困ります」
ローラシアと面談していても、あの青年のことが頭から離れない。
「あの、どうして私のパートナーはあの人なんですか?」
「詳しいことは私にもわかりません。ただ、レムリアはそれなりに相性を考えて組み合わせているとは思います」
「相性……」
その単語の響きに少しどきどきとした。自分と青年は相性がよさそうと言われているようで。
すかさず月呼は首を横に振る。相性にも色々とある。騙し合うのにぴったり、と思われているのかもしれない。
「五組とも男女のペアとなっていますが、どんなに参加者のことを調べあげていたとしても、全員が異性愛者とは限らないのに」
「それならそれでおもしろいじゃないですか。これは裏切りと騙し合いが許されるゲームなのですよ。賞金が欲しい人間にとっては有利になります」
異性愛者のふりをしてパートナーをそそのかし、六億円を手にする者だって現れる可能性も高い。是洞気介が前回のパートナーに選ばれなかったのも、そういう理由だったのかもしれない。
「主宰者のレムリアさんって人、大損しますね。だって、みんな三億円をもらって帰るに決まっています。そうなると、最高で三十億円も損してしまいますよ」
「それが、実際にやってみるとわかると思いますが、これはそんなに単純なゲームではないんですよね」
確かに、月呼の考えるようであれば、是洞気介も賞金を選んでいたはずだ。彼がなぜ一円も手にできない行動を取ったのか、詳しい話を聞く必要があるだろう。
「仮にひとり三億円ずつで三十億円を持って帰られたとしても、レムリアにとってはたいした支出にはならないです」
「ええ……」
「……おしゃべりがすぎましたね。わからないことがありましたら、いつでも質問してください。質問の内容によっては、答えられない場合もありますが。最後に、現時点でゲームに参加する意志があれば、こちらの誓約書にサインをお願いします。これは本名で書いてくださいね」
ローラシアはそう言ってイスから立ち上がり、月呼に一枚の用紙を渡す。月呼は誓約書の内容に同意すると、部屋の鍵をもらった。彼に一礼してから部屋を出る。
コメント
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第6話読みました!月呼の軽やかな性格と、運営の細かく仕組まれた罠のギャップが面白かったです。特におしゃべりなローラシアがうっかり情報を漏らしそうになるところにニヤリとしました。あと、パートナーの青年のことが気になって仕方ない月呼、かわいいですね…。この先どう転ぶのかすごく気になります!