テラーノベル
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廊下にはだれもおらず、しんと静まり返っている。月呼は自分のパートナーを探さなければ、と真っ先に思った。歩いた先にロビーを見つけ、ここが建物の一階であることに気がつく。そこに局員は数名いるが、参加者の姿はなかった。青年は先に部屋へと入ったのかもしれない。彼はリタイアしていないだろか、という一抹の不安もあった。
月呼はエレベーターを利用することにする。エレベーターが一階までおりてくるのを待っている時だった。
「あなた、名前は?」
後からやって来た女性が月呼に声をかけてくる。橘高くるるだ。身長は百六十四センチメートルの月呼より十センチメートルは低い。至近距離で見ると目鼻立ちのはっきりした美人なことがよくわかると、月呼は思った。髪型や服装からしてメルヘンチックなものが好きな印象をいだく。
「棚原前沙です」
月呼は自分のネームプレートを見せる。うっかり本名を名乗らないよう、この偽名に慣れておかなければと思った。
「『前沙』って呼ぶね。あたしは橘高くるる。あたしのことは『くるる』でいいよ。前沙のことはルール説明の時から気になっていたの。参加者の中でひとり、かわいい女の子がいるなあって」
くるるは初めて見た時は口の悪い印象だったが、実際に話してみると気さくな感じだ。おまけに月呼のことを好ましく思ってくれている。
「前沙は何歳なの?」
「二十一歳だよ」
くるるにつられ、月呼もくだけた口調になった。
「あたしは二十歳。一歳違いかな」
「多分」
そこで互いに大学何年生などと例えないのは、職業を言うことを禁じられているからだろう。
「いいな、前沙は。あんなにかっこいい人がパートナーで。あたしなんて、ゴリラをあてがわれたのよ」
くるるは腕組みをして、不満をあらわにする。人に対してゴリラゴリラと言い過ぎではないか、と月呼は吹き出しそうになる。
「でも、ゴリラの方が好都合なのかなあ。だって、この先どんなに一緒にいても、自分の好みじゃない人なら絶対好きになったりしないじゃん」
レムリア・ゲームの場合、パートナーの容姿のよさが幸か不幸になるのかはわからない。ただ、生理的に無理な人間よりは美形と過ごす方がいい、というのが月呼の価値観だ。月呼としては、ゴリラがファーストキスの相手で、ゴリラと七日連続でキスをするのは涙が出るほど辛いことのように思える。
「参加者同士で殺し合いをするわけじゃないんだから、かなり楽なゲームだよね。一週間赤の他人と恋人のように過ごすだけで、三億円をもらえるだなんて」
月呼と同様、くるるも強制的にここへ連れてこられたのを理不尽だと思っていなかった。
「本当に一週間後には無事に返してくれるのかな」
「殺しが目的なら、避難訓練なんてしないでしょ」
「あっ、そっか」
月呼はそこで先ほどくるるが「三億円」と限定的に言ったことを思い出す。
「くるるちゃんははなから三億円をもらうつもりなんだ。浪本さんをそそのかして六億円を手に入れるつもりはないんだね」
「あたしはこう見えて『他人に恨まれるようなことはしない』がモットーなの。二度と会わない人間でも、自分がその人を傷つけた罪から一生逃れられることはなさそう。だから、三億円多くもらったとしても、本当の意味で得するとは思えない」
「私もそう思う。パートナーのことを傷つけずに三億円をもらう、このゲームではそれが理想」
くるるがうわべだけ善人をよそおっているようには見えない。よくも悪くも自分の気持ちに正直な性格なのだろう。月呼は考え方が同じなくるるとは気が合いそうだと、彼女に心を開く。
「前沙、絶対にリタイアしないでね。ルール違反にも気をつけて。あたし、このゲームはあなたがいないときついよ。お互いに三億円をもらって帰ろう!」
「うん!」
月呼とくるるは拳と拳を合わせる。修学旅行で他校の女子と親しくするのと似た気持ちにもなった。一週間という限定された期間でも、くるるとは友達関係になりたいと、月呼は思う。
そこへ乙丸湯江奈がやって来た。
「うう……」
湯江奈は腹部を押さえ、苦しそうにしている。月呼やくるる、女性参加者がすらりと細い体型の人ばかりの中、湯江奈だけは肉づきがいい。腕や足、どこの部位もむっちりとしている。特に、服を着ていても胸の豊かさが目立つ。
「乙丸さん、だよね? 具合が悪そうだけれど、どうしたの?」
くるるが聞いた。
「生理痛がひどくて……」
女性の参加者は五名いる。中には月経中の者もいるだろう。月呼はこの一週間で生理的出血が生じる予定ではない。月経中に異性が同じ部屋にずっといるというのは、気をつかううえに神経をすり減らすだろう。同じ女性として、月呼は湯江奈に同情した。
「この洋館に医務室があるみたい。利用してみれば」
くるるが湯江奈に告げる。
「くるるちゃん、医務室があるって、面談中に聞いたの?」
「う、うん。ちょっとね」
月呼からの質問に、くるるはあさっての方向を向く。くるるはだれよりも荷物の返却を求めていた。もしかしたらそれは頓服薬で、一週間無人島にいても大丈夫な程度に持病をかかえているのかもしれない。
#探偵
橘靖竜
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おだんご🍡
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コメント
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今日も読ませていただきました、第7話✨ くるるちゃん、思ってたよりずっと素敵な子ですね!「他人に恨まれるようなことはしない」っていうモットー、三億円の誘惑がある中でそれを貫けるのって本当に強い意志だなって思いました。月呼さんと気が合いそうでほっこり。 湯江奈さんの♡♡♡痛のエピソードも生々しくて、こんな状況での女性同士の連帯感がじんわりきました。続き楽しみにしてます!