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Eliminator~エリミネ-タ-

64 - 第64話 六の罪状① 目撃者

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2025年06月06日

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長かった冬もようやく終わりを迎え、四月――暖かな春の訪れ。だけどこの時間帯はまだ少し肌寒い。



今日もまた遅くなった。



「はぁ……」



繰り返される不毛な日々に溜め息しか出ない。



このままじゃ駄目だと分かっているけど、今は一刻も早くシャワーを浴びたかった。



そう思うと心なしか歩調も早くなる。それにこの時間帯の人気の無さは、余り好きじゃない。と言うより、女性の独り歩きでこの状況が好きな人は、そうは居ないだろう。



好きだとしたら危機感が足りないと思う。



闇夜の間隙を縫って、背後から塞がれる口元――



“もし突然、誰かに襲われたら?”



すぐ横の入り組んだ路地裏にでも引きづり込まれたら、きっと逃げられない。



それに気のせいかもしれないけど、ここ最近、誰かに見られている気がする……。



誰かが私の後ろを着けてくるような――。



「――っ!」



振り返ってみたけど、やはり誰も居ない。



だけど街灯で僅かに照らされた、先は闇の一本道は不安しか覚えないのも確か。



やっぱり急ごう。



私は一刻も早く、この場から逃れようと走り出した。



「……ギッ――」



駆け出した瞬間、何処からともなく聴こえた小さな呻き声に私は足を止め、息を潜めて耳を澄ます。



“猫の鳴き声?”



最初はそう思ったけど、何処か違う……。



「――グムゥッ!」



これは人の呻き声だ――と直感で理解した。



でも何故この時間に人の呻き声が?



そのくぐもった声は、隣の路地裏へ続く通路奥から聴こえてくる。



それは意識して耳を澄まさないと分からない程の――。



路地裏への入り口は、まるで地獄の蓋のようにぽっかりと暗闇が広がっているのがまた不気味だ。



「…………ゴクリ」



何も聴こえなかった振りをしてそのまま通り過ぎればいいのに、何故か私は何処か導かれるように……その先に歩を進めていた。



――これは一体……何の呻き声なの?



「ングッ――フグォッ!!」



壁づたいを頼りに進んでいくと、呻き声は更に鮮明になっていく。



声からしてどう考えても、愉快な状況じゃない。



それは何か危機的な類いの。



これ以上進んではいけない――見てはいけない。



理性では分かってはいても、本能が進める脚を止められなかった。



「――っングッ!!」



恐怖から漏れる搾り出されるような呻きに、鼓動が一段と高鳴る。



私は壁際から音を発てないよう、現場と思われる其処へそっと覗いてみた。



「――っ!?」



私は思わず目を疑った。出かかった声を必死で堪える。



“一体……何が起きて!?”



呻き声の正体――視線に映っていたのは、口を塞がれ、持ち上げられている男性の姿。



それも人の手によって。



その光景に脚がすくんで動けない。だけど目が離せない。



これは――暴行現場だ。



被害者と思われる男性の口を塞ぎ、片手で持ち上げている人物。



どう見ても人間技じゃない。



背面からでは男性なのか女性なのか、表情も分からないけど、冬でもないのに長く――闇に溶け込む黒いロングコートは、不吉の象徴を有無を言わせず思わせた。



そして何より目を惹いたのが――



“銀……色?”



燃えるような――でも美しいまでに輝く、銀色に靡く髪だった。



その現実とは思えない、何処か幻想的な出で立ちに魅入られていたのは、ほんの一瞬の事だったのかもしれない。



「――ッゴォォ!!!!!」



だけど直ぐに現実に戻された。



次の瞬間、より一層の呻き声が上がったかと思うと、口を塞いでいた掌から蒼白い輝きが放たれていたのが見えた。



「――っ!!」



どうして……人が凍っていくの?



それがどういう事なのか、私の頭では理解出来る筈もない。



ただ一つだけ分かるのは――これは“殺人”だと言う事。



完全に全身が凍りついたその姿からは、それがもう息が無いだろう事は誰にでも分かる。



殺人現場に出会してしまった――私はどうすれば?



――も束の間、不意に銀色の髪が振り向いた。



私は反射的に身を退いて息を潜める。



目が合ったのかは分からない。



それにしても――瞳まで銀色だなんて……。



およそ普通の人間とは思えない。



まるで悪夢の中にさ迷い込んだような感覚に、私は息を殺して身を潜め続ける。



見られてはいない筈だ。こんなに暗いんだし……。



でも……もし気付かれていたら?



そう思うと私はふと、最悪の状況を想定した。



ミステリー小説では、殺人現場を目撃した第一人者は口封じの為、犯人に殺される流れだという事に――。



嫌だ――こんな所で死にたくない!



不安は恐怖へ、恐怖は絶望へと塗り潰されていく。



どうしてこんな所に来てしまったんだろう? 好奇心、猫を殺すとは正にこの事だ。



激しい後悔の中、私はひたすらに身を屈めていた。



夢であってほしい――



“カッ”



しかし現実だと嫌でも思い知らされる足音。



“カッ カッ カッ――”



それは確実に此方に向けて、徐々に大きくなる。



――やはり気付かれていた!?



迫りくる足音に、恐怖は最高潮へ――悲鳴を上げたい衝動に駆られるけど、きっと無意味だ。



直感で分かった。“あれ”は人じゃない。



人の形をした、もっと別の――そう、死神と云った類いの。



きっと私もあの死神の力で、成す術無く氷づけにされて殺されるのだと朧気に思っていた。



“ごめんね……こんな所で――”








……何時までそうしていただろう。時間にして、そうは経っていない筈。



何かがおかしい……。何時まで経っても私の下に“それ”が来ない。



――と言うより、人の気配が……無い?



だけどホラーやミステリーでは、それで安心して振り返ったそこに犯人の姿がっ――というパターンが定石。



それに目撃者の私を見過ごす道理が無い。



そう思うと震えから、微動だに出来なかった。



だけど何時までもこうしている訳にはいかない。



足音は確かに聴こえなくなった。人の気配も感じない。



私は意を決して立ち上がり、かの場所を覗き込む。



「…………っ!!」



恐る恐る視界に映った、其処には――



「……居ない!?」



――どういう事?



あれ程印象的な銀色が、まるで最初から其処に存在しなかったかのように。



私の目の前で凍りついた、あの遺体の痕跡すら無い。



在るのは行き止まりの闇だけだ。



悪夢を見ていた? いやそんな筈はない。



あの現実離れした光景は、未だ目に焼き付いて離れないから。



じゃあ一体何処に行ったの?



其処は路地裏の行き止まり。仮に見過ごしたにせよ、此処から出ていくには私の隣を通り過ぎないといけない。



だけど通り過ぎる足跡は、一切聴こえなかった。



「どうして……?」



本当に死神だったのだろうか?



全てを持ち去り、消えていく……。



無機質で……冷酷なまでに美しいその姿を――。



その得も知れぬ感覚と光景に私は、暫く此処から去る事が出来なかった。

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