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ーー静寂の夜、響く歌声ーー
夜の海はどこまでも穏やかだった。波の音が静かに響き、夜風が帆を揺らす。月明かりの下、玲央は甲板に座り、遠くの水平線を眺めていた。
「……なんか、静かすぎるな。」
賑やかな昼とは違い、船の上は夜の静寂に包まれている。みんな寝静まり、今この甲板には玲央しかいない。
「ま、たまにはこんな時間も悪くねぇか。」
玲央はそう呟き、ふっと息をつく。静かな夜の中に、自分の声だけが響くのは少し寂しかった。
ーーだったら、歌うか。
玲央はゆっくりと息を吸い込み、穏やかなメロディを口ずさみ始めた。夜の静寂に溶け込むような、柔らかい旋律。
「〜♪」
声は次第に響き渡り、船のあちこちから寝ていた仲間たちが気づき始める。ゲンが薄目を開けて「おやおや、子守唄かい?」と呟き、フランソワが微笑んで目を閉じた。龍水でさえ、「フフン、悪くない」と言いながら寝返りを打った。
氷月は静かに目を開け、その歌声をじっと聴いていた。
玲央の歌声は、どこか心を落ち着かせるものがあった。ただ戦いのリズムを奏でるだけでなく、こうして穏やかなメロディを響かせることもできる。その歌声に包まれながら、船の仲間たちは静かに目を閉じていった。
だがーーその静寂は、突如として破られた。
「……ん?」
玲央は歌いながら、肌に当たる風の変化に気づいた。
さっきまで穏やかだった風が、少しずつ強くなってきている。波の音も、どこか不穏な響きを帯び始めていた。
「……おいおい、嫌な予感がするぞ。」
玲央は立ち上がり、遠くの空を見上げる。
ーー黒い雲が、こちらへ向かっていた。
「おい!みんな起きろ!!嵐が来る!!」
玲央の叫び声が船中に響き渡る。寝ていた仲間たちが次々と飛び起き、状況を察して慌てて動き出した。
「何だと!?急げ、帆を畳め!!」
龍水の指示のもと、みんなが慌ただしく甲板を駆け回る。ゲンは「うわぁ、いい雰囲気だったのにぃ!」と叫びながらロープを押さえ、コハクと金狼が協力して舵を固定しようとしていた。
玲央は歌うのをやめ、強風の中でしっかりと足を踏ん張った。
「くそっ、ついさっきまであんなに静かだったのに……!」
嵐はあっという間に船を飲み込もうとしていた。黒い雲が空を覆い、雷鳴が轟く。玲央の心臓がドクンと跳ねる。
ーーこれは、ただの嵐じゃない。
玲央は強風に逆らいながら、叫んだ。
「みんな、しっかり踏ん張れ!!今夜は荒れるぞ!!」
夜の海は、一瞬で地獄に変わった。