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「ヤバイ。篠宮さんが限界ドルオタに見えてきた」
「おい……」
ガクッと項垂れた彼を見て笑ったあと、今後の恵と涼さんの進展に期待した私は、スックと立ちあがった。
「そろそろ部屋に行きましょうか。お風呂に入ってのんびりして、部屋から夜のシーを見るのもオツなものですし」
「だな。明日の朝食はルームサービスを手配してるから、部屋でゆっくり過ごしてほしい」
私たちが立ちあがると、それまで尊さんをいじっていた恵が焦りだした。
「ま、まだいいんじゃない? 今日の余韻に浸ってゆっくり……」
「部屋でくつろいでシーに浸ろうよ。女子会はまた改めてカフェでも行こう?」
そう言うと、恵はオロオロしつつ私の袖を引っ張る。
なんじゃこりゃ、可愛い生き物!
「恵ちゃん、何もとって食いやしないよ」
涼さんはクスクス笑って言い、「こっちおいで」と優しく恵の腕をとって引き寄せる。
その時の恵は絶望といってもいい表情をしていたので、さすがに可哀想になる。
……でも世の中、思い切ってやってみないと分からない事は沢山ある。頑張れ!
私は心の中で恵にエールを送り、「行きましょうか」と尊さんの手を握った。
さあ、涼さん! 私に続いて部屋へレッツゴー!
歩き始めたあと、チラッと後ろを見ると、涼さんはスルッと恵の手を握っていた。
恵は靴下を履かされた猫みたいにギクシャクしているけれど、ヨシ!
涼さん、私の意図を察してくれるできる男!
そのまま私たちはサロンを出てエレベーターに向かうけれど、前日のホテル同様、吹き抜けになったロビーが素敵なのでまた写真を撮る。
ロビーの中央にはガレオン船を模した像があり、建物全体はアール・ヌーヴォー調だ。
全体的にクリーム色と赤銅色が基調の色で、ホールの天井はドーム状になっており、半円窓の上にはアーチ状にあった絵画があって女神や船を従えた男性、楽器を持った詩人っぽい人などが描かれている。
尊さんはスイートを予約してくれて、片方だけ豪華な部屋だとなんだから……という事で、二組とも同じクラスのスイートに泊まれるよう取り計らってくれた。
でも同じフロアにはないので、恵とは明日までお別れだ。
「さらば、友よ」
私はエレベーターの前で恵に別れを告げ、涼さんにペコリと頭を下げる。
「恵を宜しくお願いします。くれぐれも、初心者コースで」
「ちょっと、朱里!」
焦った恵が私の口を塞ごうとするけれど、サッとかわす。ふふふ。
「心配しなくても初対面でがっついたりしないよ。嫌われるの怖いから。こう見えて小心者なんだ」
涼さんは嘘か本当か分からない事を言い、クスクス笑う。
これだけ大人の余裕がある人なら、本当に恵を大切にしてくれそうで安心だ。
「おやすみ、恵。多分思っているよりずっと安全だと思うから、涼さんを信じなよ」
そう言うと、彼女は肩を落としてヒラヒラと手を振った。
もう言い返す元気もないらしい。ドンマイ。
やがて二人は三階のまま、私と尊さんは四階に向かった。
「お邪魔しまーす」
部屋のドアを開けて中に入ると、ふんふん、すぐ横手のドアはクローゼット。
その隣には全身鏡があり、さらに横手には洗面所とお手洗い。どちらも温かみのあるクリーム色の壁で、地中海みがある。
床は青緑にダマスク柄の絨毯で、右手にある部屋に入ると朱色のソファにゴールドのクッション、チョコレート色の木製のテーブルがあった。
ソファの後ろには羊皮紙に描かれた世界地図を思わせる絵が金縁の額に納められていて、部屋全体の壁は白。
テーブルには、ミラマーレのロゴが入ったエコバッグが二つ置かれてあった。嬉しい。
アンティークな木製のキャビネットに収まったテレビを見られるよう、脚をのばして座れるクリーム色の一人掛けの椅子がある他、窓辺にはさらに朱色の椅子が三脚、丸テーブルを囲んでいた。
丸テーブルの上にはウェルカムフルーツの器に入ったさくらんぼに、丸ごとのオレンジとキウイ、ミニマカロンがある。
尊さんいわく、丸ごとフルーツはフロントにお願いするとカットしてもらえるらしい。
卓上花は持ち帰ってもいいみたいで、専用の袋も用意されてあった。
スイートの宿泊記念として黒いボックスが置かれてあり、中にはラビティーキャラのトランプ、色違いのラゲージタグ――旅行鞄につける名札があった。
壁際にはコーヒーメーカーなどが置かれた台があり、ミラマーレのロゴが描かれた白いティーカップが置かれてある他、黒いボックスの中には紅茶のティーバックなどもある。
台の下には例によって無料のミネラルウォーター四本が収まった冷蔵庫があり、隣にはグラスも置かれてあった。
壁に掛かっている絵画はいずれも航海をテーマにしていて、船乗りスタイルのラビティーや仲間たちの絵もあって嬉しい。
さらに隣室はベッドルームになっていて、柄の入った鮮やかなブルーのフットスローが掛かった白いリネンは糊がピシッと利いている。
白い枕が二つ並んだ手前にカラフルな円筒状のクッションもあり、複雑な形をしたヘッドボードの裏、壁際には天井からカーテンのような布が掛かっていて、お姫様みたいな気持ちだ。
ベッドに寝た状態で見られるよう、足元の壁にはテレビがあり、窓からはポルト・ヴィータが臨める。
例によってベッドサイドの引き出しには、持ち帰っていいポストカードがあり、万が一の時の懐中電灯もある。
寝室の奥にはバスルームに続くガラスの引き戸があり、その横にあるクローゼットにはバスローブがハンガーに掛かり、足元にはスリッパが置かれてある。
バスルームは広々としていて、入り口近くの洗面所よりもっと広い洗面所があり、金縁の鏡が二つ、洗面ボウルも二つある。
アメニティやハンドソープが置かれている他、メイク用のスタンド型拡大鏡も置かれてあった。
歯ブラシはラビティーが描かれた箱に入っていてアガるし、シャンプー類や石鹸、ボディソープやローションはフェラガモだ。
驚く事に洗面所にもテレビがあって、多分ファミリーで来た時にお子さんが飽きないように……とか配慮されているんだなと思った。
奥にはバスタブがあり、入って右手にはシャワーブースとお手洗いがあった。
「凄い……」
私はあちこちパシャパシャ写真を撮り、動画も撮ったあと溜め息をつく。
その間、尊さんはフロントに電話を掛けてフルーツのカットをお願いしていた。
「朱里、先に風呂入るか?」
「うーん……、疲れたので、顔を落としてから少し横になります」
「そっか。じゃあ朱里が休んでる間に、先に入らせてもらうかな」
「どうぞどうぞ」
スマホを充電した私は、尊さんに「窓側のベッドを使っていいですか?」と確認してからゴロンと転がる。
尊さんはバスタブにお湯を貯め始め、私と同様にベッドに座るとリモコンでテレビをつけた。
「朱里」
「はい?」
早くもムニャムニャしながら返事をすると、尊さんが甘い声で言う。