テラーノベル
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それでも最初の頃はまだ良かった。風向きが変わったのはある出来事がきっかけだった。
毎年開かれる小麦の品評会で、モデア男爵領の小麦が優勝したのだ。
一生懸命育てていた小麦が評価されたのはすごく嬉しかった。自意識過剰かもしれないけれど、私も少しは貢献できているはずと、誇りに思っていた。
けれど、卸先も急激に増えて、裕福になると、元々働いていた私達は突然解雇された。優秀な小麦畑で働くのは、平民では無理だと……。
何度も男爵様に抗議したけれど、私たちの声は無視された。
私は早急に仕事を探して、パン屋で雇ってもらえることになった。とても感じのいいご夫婦のパン屋で、ほんの少し荒んだ心が救われた。
私たちの代わりに小麦畑の管理を任されたのは、ストーク男爵令嬢だった。共同管理を打診してきたストーク男爵の娘。
令嬢や、どこかの貴族の三男や4男など、貴族だけで畑の管理ができるのか疑問しかない。高貴な者が管理することで、更に優秀な小麦が育つからという理由らしい。
そして、解雇通告で落ち込む私の元にエディが突然やってきたのだ。
まだ気持ちの整理もつかないうちに、モデア男爵様の所へ一緒に行くように言われたのだ。
「うふふ、もぉうエディたらぁ、やぁだ、うふふ」
「セレナ、今日も可愛いね、誰も見てないから、いいだろ?」
「ちょっと、もぉうエディ、いやぁ、待って。 あら?あなた、何か用?こっちを見ないで!ねえ、エディ、どうしてこの女が一緒にいるのよ?だって、私たちもうすぐ結婚するじゃない」
「あぁ、セレナ分かってくれ、こんな女でもまだ、一応婚約者なんだよ、書類にサインしてもらわなきゃいけないから。すぐに解消するから」
エディの腕にべったりと腕を絡ませて、豊満な胸を押し当てるように寄り添う女性。
これまでも度々こういう状況があった。
婚約しているから、定期的に交流する必要があるとかで、エディと私は出かけることもあった。なぜか三人で。いつもいつもエディの腕にはセレナ嬢がくっついていた。
目の前でいちゃつく様子を見せられて、ため息が漏れる。
そんな様子が二人は気に入らないのか、何かと文句を言ってくる。
「だいたいな、お前のその態度はなんだ!俺様に感謝の気持ちはないのか⁉︎お前が本来なら乗ることのできない、こんな豪華な馬車に乗せてもらってるにも関わらずその目が気に入らない!」
「ほんとよね、これだから平民は」
「セレナ、君のような高貴な女性が口を聞いてはいけないよ。さぁ、俺を見て」
「エディ……」
抱き合い完全に二人だけの世界に入りつつあった。
「はぁ……」
私だって、別にエディと結婚したいなんて思わない。そちらがそういう態度なら、喜んで婚約解消するわ。もう勝手にして
「きゃぁ!」
「な、なんだ、どうした!」
「きゃあ!」
ガタンという激しい音と共に、突如馬車が激しく振動を始める。
恐怖のあまりに、おろおろして何かを掴もうとする。
エディとセレナ嬢は抱き合いながら震えている。
「ぼっちゃん、大丈夫ですか!すんません」
ほんの数分の出来事だったのかもしれない。車輪が脱輪したことで馬が驚いて、暴走したことが原因だった。
ほっとしたのも束の間。目の前では相変わらず二人が愛を囁きあっている。
まるで、死の淵から生還したかのように。
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