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ドーーーーンッ

遥か彼方の空へ粉塵が舞い上がっている。

「うん。ちゃんと使えているな」

双眼鏡を覗き込み、俺はカタパルトが齎した結果を見つめていた。

『おおっ…王国軍が一斉に街へと突撃していったのじゃっ!』

「王国は連邦と比べ、圧倒的に兵数が少ないからな。攻める時は短期決戦しか望みはない」

相変わらず頭の上にいるコンが、王国軍の戦いを興奮しながら実況してくる。

嫌なところを定位置にされたな……

『…なんじゃ?何で王国は足を緩めたのじゃ?』

「あれはな。白旗を振っているだろう?人が使う降伏の合図なんだよ」

『つまらんのじゃ…』

思考だけ立派な戦闘狂であるコンは、早々に降伏した連邦側に対して不満を隠せないご様子。

「無駄に命を散らすのを良しとしないのが、人の美学なんだよ。時には意地を通す場合もあるがな。

今回はカタパルトの威力と射程、そして自分達が唯一有利に思っていた外壁がなくなったことから、降伏したんだ。

誰が指揮したのか知らないが、中々戦況を見る目があると思うぞ」

『意地を張るのじゃあっ!!』

ダメだ…コイツは第三者視点で戦争を楽しみたいだけだ……

剣を合わせる前に、すぐに降参した理由はまだあると踏んでいる。

この街は比較的王国に近い街だ。

つまり、王国侵略へ向かった10万の兵が誰一人帰ってこなかったことを、軍部はもちろんのこと、街の住人でさえ知っている可能性が高い。

街の人口より多い兵が負けたのに、自分達が勝てる道理はないと考えたのだろう。

戦後連邦が勝ったとしてペナルティはあるだろうが、それも命あってのもの。

ここで訳もわからず死ぬよりは何倍も良いと考えるのが、人という生き物だ。

『連邦市民が出てきたのじゃ。処刑でもするのかのぅ?』

「いや、それはない。俺の知らない恨みがあれば別だが、それならとっくに戦争を始めているはずだ。

であれば、武装解除と落とした後のために、市民…これからは王国民の把握の為に、街の外へ集めているのだろう」

街中でするよりも外壁の外でする方が、王国軍にとっては安全で素早く済ませられる。

ここで終わりの戦争ではないからな。






あれから二時間ほど後。

全ての市民が外壁の外に出され、街中の安全が確保された王国軍は部隊を分けて別の街へと進軍を開始していた。

『とろとろなのじゃ…』

「進軍速度なんてどこもこんなものだ」

俺たちは一定の距離を取り、王国軍の後をついていっている。

コンにとっては止まっているような移動速度の為か、フードの中でモゾモゾと動いて暇を持て余していた。

『これで次の街まではどれくらいかかるのじゃ?』

「目標をしらんから何とも言えんが、今日のことにはならんだろうな」

『な、なんじゃと…?』

いや、お前、自分が山の上で千年くらいゴロゴロしていたのを忘れたのか?

それよりは随分マシだぞ…?

俺達と暮らすことにより刺激が何十倍も増加したコンは、堪え性がなくなっていた。

やはり、躾がいるようだな。






「それで、今日は二つ目の街の近くまで進軍したんだ」

夕食の席ほうこくかいにて、今日の進捗報告をした。

王国軍は1/4を占拠した街に残し、新たな街の近くまでやって来ているのだ。

画像


「じゃあ明日は早くから行くんだね?」

「そうだな。王国も時間がないのは重々承知の上だろうから、日の出と共に戦端は開かれるだろうな」

連邦は巨大だ。

人口は恐らく大陸最大だろうが、人口密度は逆にそれほどでも無い。

やはり不毛な大地が多く、戦争によって手に入れると人口はどうしても減る。

そんな連邦の領土は広すぎる為、山脈に向かっていた連邦軍が戻るのにはかなりの時間を要するはずだ。

連邦が事態を把握して王国に対応するまでに残された時間は、諸々を考えて後五日ほど。

それまでに王国は後三つ程の街を手中に収められるかどうか。

「街を落とすこと自体には問題は無さそうだから、後は連邦の速度が遅いことと、王国軍の進軍速度が早いことを期待するだけだねっ!」

『奴らはとても遅いのじゃ…』

「みんな。気にしなくていい」

ミラン達がコンの独り言に反応しそうになったから、釘を刺しておいた。

コイツの文句はキリがないからな。






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国名         人口      軍人(常備軍)

バーランド王国    1000万 40万

エンガード王国    300万     20万

ハンキッシュ皇国   500万     50万

ナターリア王国    400万     18万

エトランゼ共和国   100万      0

アーメッド共王国   800万     60万(内紛鎮圧軍)

北東部小国家群    10万〜40万   15%(人口比)

ジャパーニア皇国   不明      不明

グリズリー帝国    1200万    100万(解体中)

イステーファル連邦  1500万    120万(元130万)

ニシノアカツキ王国  300万    10→30万(連邦戦勝利後急増)

聖調べ。


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とある日の午後。

「本当に諦めたんだね」

南東部地域にあるグリズリー帝国を視察して城へと戻ってきた俺は、執務室にいる聖奈に報告していた。

「各町に立て看板が出てたな。『帝国の悲願は成された。これを以って軍事行動を縮小する。暇を出された軍人には街道整備などの仕事が優先的に与えられる』とな」

「常備軍も解体するなんて、なんだかやることが極端だね」

「戦いもしない軍なんて、ただの金食い虫だからな」

残された軍人達は衛兵として治安維持に使われる予定だそうな。

クビを切られた軍人に対して次の働き口を残したことからも、国の運営はこれからも真面目に行なっていくのだろう。

「南東部はいいけど、南西部は真逆の道を歩んでるね」

「そうだな。常備軍は前に聖奈が調べてくれたように130万だったみたいだが、これから起こそうとしている大戦に向けて、今は徴兵に躍起になっているからな」

連邦の徴兵のやり方は少し独特だ。

過去の日本では元気な男であれば、誰にでも招集命令が出された。

連邦では、食糧事情にだけは気を使った布告がなされている。

簡単に言うと、農村部では一家に二人以上の男子がいる場合のみ必ず出すこと。

それも年齢が合致し健康であれば長子でも次子でも構わないそうな。

要は、国民が減っても村を廃村に追い込むようなまねは避けているといえる。

ただどちらの子を国に差し出すのか選ばなければならない親は可哀想だがな。

選べるだけマシと思わなくてはならないか……

これとは別に街などで働いている者は、職人や役人、職を問わず、適齢の者達は皆徴兵させられる。

「男女比が1:1だとして、15歳から35歳までの人達が対象だから、とんでもない数だね」

「ああ。もし、連邦が山を越えようとすれば、南西部地域の文明は一度崩壊してしまうだろうな」

極端な男不足に加えて、国民を管理している人達さえもいなくなってしまう。

そうなれば輸送が減った街は食糧難に陥り、皆故郷や知り合いがいる農村へと散っていくだろう。

俺みたいに転移で物を運べたらいいが、そんなモノはいるはずもなく、輸送している業者ももれなく戦死している為、時代に逆行して支配者がいなくなった連邦には小さなコミュニティしか残らない。

まぁそんな心配をしても、消すのは俺なんだけどな。

「戦争以外で連邦を止められる方法があればいいが…」

「それは無理だよ。結局セイくんが多くを殺さないといけなくなるし、そんなことなら連邦なんかなくなればいいし。この世界の在り方に矛盾が出てきちゃうよ」

聖奈は俺のことも心配だが、この世界のことも心配している。

異世界大好きっ子め……

「でも大丈夫。いざとなればセイくん抜きでこの国を守ってみせるから。もちろん私だけじゃないよ?みんなとね」

「……最近そればかり主張するな…」

「私だけじゃないよ?みんなだよ?」

そう。ライルですら転移魔法くらいしか頼ってこない。

エリーは元々異世界転移でオヤツを頼むくらいだったけど。

ミランも同じく。

聖奈に至っては、俺がやることがないか聞かないと仕事を振ってくれない。


なんだかんだ言っても、そんな仲間達だからこそ、俺はこの居場所が好きなんだろうな。

〜ぼっちの月の神様の使徒〜

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