『そこじゃーっ!!いけぇぃっ!!』
うるせーな。
直接脳内に聞こえるから耳も塞げんし。
「コン。どう見ても破れかぶれの突撃なんだから、結果は火を見るよりも明らかだろう?応援してて面白いのか?」
『何を言うとるのじゃ。いつの戦いも弱者が強者に向かっていくのは心躍るものじゃぞ?』
連邦の応援かよ……
翌早朝。コンを連れて王国の連邦切取り戦を見守っている。
街の前に陣取った王国は、鉄壁の守りをみせる街の外壁へ向けて投石機を使用した。
壁の崩壊を確認した街の防衛軍は、時を待たずして圧倒的な数で勝る王国軍へと突撃した。
その数は1,500程。
普段その十倍はいるのかもしれないが、今はその殆どが北へ向かっていて、あまりにも無謀な突撃となった。
「街に残されたこの部隊には考える者がいなかったのかもな」
優秀な者は大事な場面で使いたい。
街の治安はそれこそ普段の恐怖政策で守られると考えて、優秀な者を北へと向かわせたのだろう。
この前の街は10万の兵が帰ってこなかったことを知っていたが、この街の人達は知らないのかもしれないな。
『終わったのじゃ…最後までよく戦ったのじゃ!』
うん…そんなんじゃないと思うぞ?
恐らく戦わずして降伏するなんて、後が怖くて出来なかっただけだろう。
いくら外壁が壊されたからといっても、普通10万に迫る軍に1,500で立ち向かうか?
常識的に考えれば、壊された外壁からの侵入にまずは備えるだろ?
コンには悪いが、奴らはバカなんだよ。
勇敢に戦うとか戦況が読めないとか理由は知らんが、死ぬ必要なんかないのに。
「王国もそんな兵ならいらないだろうから、掃除もできて丁度良かったねっ!」
魔王だ……
そんなことばかり言うから、俺に魔王って陰で呼ばれるんだぞっ!
夕方になり、王国軍がその日の行動を終えたことを確認して、俺達は城へと帰ってきた。
そしていつもの報告会での聖奈の言葉だ。
『そんな事よりも…ますます遅くなったのじゃ……』はぁ……
コンは、次の街へと辿り着けなかったことに溜息をこぼした。
猫は溜息を吐かないから…やっぱりコイツ犬か……
だが、それは間違いだ。
「遅くなったわけではない。単純に王国が標的にしている街までの距離が、今回のモノよりも長くなってしまっただけだ」
「そうなんだね。明日には着きそうなのかな?」
「俺が確かめた街が次の目標なら、そうだな」
王国軍が野営の支度を始めたのを見届けると、その道の先に向かったんだ。
今日歩いた道のりの丁度倍くらいの距離に別の街があったから、恐らくそこが次の戦地になるのだろう。
「じゃあ明日も朝早くから行くの?」
「まぁ…な」
「セイさん。次の街の近くまで転移できるのなら、到着予想を立てて、ゆっくりされては如何ですか?」
聖奈とミランが困ったような、心配そうな顔をして伺いを立ててくる。
働くなということよりも、気持ちにゆとりを持ってほしいってことなんだろうが…もし、万が一があると困るのは俺達だ。
いや、聖奈達だ。
それなら俺が少し気持ちに余裕がなくとも王国に張り付いておく方がいい。
「いや、することもなくて暇だから、コンを連れての散歩に丁度いいんだ。コイツ、サボらせると直ぐに太るからな」
『にゃっ!?』
「そうですか…」
コンはやはり猫だったか。
ミラン、ごめんな。でも、俺は行くよ。
みんなが俺のことを心配してくれるように、俺もみんなのことが心配だからな。
後で不安にかられながら一人で待つくらいなら、俺の選択は一つだけだ。
この戦争を、王国勝利へと必ず導く。
「どうやらここまでのようだな」
眼下には見たこともない数の人の群れが溢れていた。
ここは連邦内にある山脈の内の一つ。
王国へ向かうのであれば、連邦軍が通らなくてはならない山の一つだ。
ここの手前まで王国軍は来ているが、山脈の反対側には連邦軍本軍が現れた。故のここまでという話。
俺はそんな山の頂に登り、両軍の動きを眺めていた。
『やっと終わりかのぅ…?』
コンからすれば王国軍の遅々として進まない進軍に、溜息が日に日に増えていた。
それを聞く俺の身にもなって欲しいのだが?
「だろうな。連邦はまだ山の麓だが、王国は中腹まで着ている。このままいくと、俺が手を出さずとも王国軍が連邦軍の進行を止めるだろう」
人と人との争いでは、高所を押さえた者の方が強いからな。
いくら連邦が巨大だとしても、簡単には突破できないだろう。
王国もそれがわかっているからここまで急いで押さえたのだろうし、今後この山脈は王国の全力を投入して護ることになるはずだ。
連邦の山脈突破イコール、王国の滅亡だからな。
『やっと帰れるのじゃっ!』
…いや、毎日帰っていたからな?
「帰る前に一つ」
『ん?なんじゃ?』
「連邦軍が今後ここを攻めようなどと考えないように、ちょっとな」
俺は出来ることを終えると、コンを連れて城へと転移した。
『悪魔じゃろう?』
例の如く、いつもの面子にいつもの食卓。
そう、報告会だ。
そんな報告会でコンが聖奈のことを悪魔と呼ぶ。
「コン。この美味い食事はそんな悪魔が作ったモノだぞ?それに人の嫁を悪魔呼ばわりはやめろ」
『馬鹿いうでないっ!!悪魔はお主のことじゃっ!!』
「セイくん…?」
あれ?…俺またなんかやっちゃいましたか?
俺がなろう系主人公の真似事をしていると、聖奈から冷たい視線が……
すみません。悪魔だなんて思っていませんよ?
貴女は素敵な魔王様です。
「悪魔っていうほどのことか?」
『アレは獅子が蟻を踏み潰しているのと同じじゃっ!!』
お前は蟻を踏み潰して悦に浸っていただろうがっ!!
「コンちゃん。そのお陰で王国は暫く安全なんだから、良しとしようよ。ほらっ。みんなも何も言わないでしょ?」
『むぅぅ。セーナがそう言うのなら…仕方ないのじゃ』
おいっ!俺がリーダーだぞっ!?
名ばかりだけど。
コンが悪魔の所業と言っていたのは、帰る前に俺が連邦軍へとしたことが原因だろう。
俺がしたこととは、山脈の一つの山の頂上から『アイスブロック』を使い、連邦軍側へとそれを転がり落としたことだ。
もちろん一発ではなく、どうせならと十発ほど転がり落とした。
氷の塊は連邦軍が布陣しているところまで転がり落ち、連邦軍はそれがバカでかい氷の塊だと確認した後、撤退を始めた。
「自然現象であればまた攻めるかもしれないが、転がり落ちてきたものが岩ではなく氷の塊なのは不自然だからな」
「そうだね。敵に魔法使いがいて、あんな氷の塊を最低十発も撃てるって分かれば、一先ず山越えは諦めるよね。王国の問題は連邦にそれを攻略する目処が立つことだけど、そんな先のことは自分達でどうにかしてもらうしかないね」
他人に守られ続ける国なんておかしいからな。
それなら守っている奴に統治させた方がいいし、俺にそんな気はないからこれでおしまいだ。
「そうだな。王国も街を四つ奪えたんだ。充分な戦果だろう」
「本当にそう思う?」
「えっ?違うのか?」
だって奪った街こそ四つだけど、国土は倍になり、その中にはまだ攻めていない町や村がいくつもあるんだぞ?
残された小さな町や村なんて攻めなくとも布告するだけで統治出来るだろうし、侵略戦争は終わりなんじゃないのか?
「連邦軍の侵略を止めた時はどうだったの?」
「そりゃあ…王侯貴族も国民も盛り上がって、今回の戦争に……まさか。いや、そんなに馬鹿じゃないだろ…?」
もう俺達からの武器の供与はないんだぞ?
それ以外にも、カタパルトはあの山を越えられないし……
「ギャンブルと同じだよ。したことがない人がやって勝てれば、また次もってなるでしょ?」
「いや、俺はギャンブルをしないからわからんな…」
聖奈は確かポーカーにハマっていたな…勝てないくせに。
「一度楽を覚えた人達はその楽をまた求めるものなの」
「…それならわかる気がする。俺も初めて酒を飲んだ時の安心感が忘れられなくて、やめられなくなったしな」
「…普通お酒は高揚感やその場の雰囲気が好きでやめられなくなるものだよ?もちろん現代では美味しいっていうのが大前提になるけどね」
そうだったのか……
アル中と常人では感じ方が違うんだな。
「私の考えだと、王国は山脈に防衛戦を張った後、新たな領土にある町や村を支配して、それから一度国力増強に努めると思うの。
支配した後、このまま攻める可能性も少しはあるけど、流石に食糧不足になりそうだしね。
だからその辺りがクリアされると、あの軍務卿だと他の人達を抑えられないと思うなぁ」
「まだ戦争するのかよ…まぁその方が北西部にとっては有難いことだがな」
「おっ。流石国王陛下!わかってるねー」
やめろよ。未だに国王陛下って言われると恥ずかしいんだぞっ!!
連邦は王国の戦略に嵌り、これからは気軽に北西部攻めが出来なくなった。
次に同じ事が起これば、北西部攻めどころか連邦の維持が難しくなるからだ。
「戦略っていうよりも、留守の間に盗んだみたいなもんだがな…」
「それも立派な戦略だよ。私達にとって重要なのは、これからは連邦が簡単には軍を移動することが出来なくなったっていう結果だよ」
「だな」
王国はこの後も戦争を続けるようだが、俺が気にしても仕方ないな。
……偶に様子を見に行こう。
それくらい良いよね…?
「セーナさん。次は地球の話でしょうか?」
「うん。次は会社の話だね」
えっ…この報告会、まだ続くの?
酒が…飲めん……