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「よく帰ってきたな」
戦を終え、数日ぶりに道場に顔を出した慎太郎を、北斗と樹、高地は笑顔で迎えた。
「なに、大層なことではない」
それより、と見回す。「大我は何処へ?」
皆は一斉に黙り込んだ。慎太郎は不思議そうな表情だ。
「…やはり、内裏におらねばならなかったようだ」
樹が云った。「公卿のお父上に探されて、戻って行った」
そうか、と慎太郎は軽く流して畳に上がった。来る者拒まず去る者追わず、がこの道場の方針だ。
いつものようにそれぞれが対戦し、終えた頃には揃って息が上がっていた。
「樹…お主、何故片腕でできるのだ?」
高地が不思議そうに問うた。ほとんど傷は治っているが、竹刀を左手で持っていた。
「ふっ、これくらい出来ぬと…」
忍びなぞ務まらぬ。それは口にしなかった。
「誠に厳しいな」と高地は苦笑する。
「腹が減った。菓子でも食べたいが――辻に出ようではないか」
慎太郎が声を上げた。三人は賛同し、道場を出る。
いつもの茶屋に着き、長椅子に腰を落ち着けた。茶や団子、饅頭を注文すると、早速話に花が咲き始める。
「戦は如何だった?」
北斗が尋ねる。
「……俺は後ろのほうの下っ端だったから最前線はわからんが、かなり激しかった。やはり大砲とかいう武器が凄いと聞いておる」
「ほう。俺もいっちょやってみたかった」
新撰組の新しい隊士となった高地は膨れっ面だ。
「折角入ったのに、早々にやられていたやもしれないのだぞ?」
それもそうだ、と樹も相槌を打つ。
「倒幕運動も進んでおる。これから鎮圧に忙しくなるだろう」
「やれやれ、仕事が増えそうだ。刀も新調したいんだが」
そして休憩を終えると、北斗が「歌舞伎を観に参ろう」と提案した。
「おう、良いな」
皆は立ち上がった。街道を歩き、歌舞伎座を目指す。その途中で、話は世間話へと変わっていく。
「そう言えば、噂で『将軍が政を帝に返上する』というのを聞いたことがある」
慎太郎の言葉に、三人は一様に驚いた。
「誠か? 何故」と樹。
「何故かは分からぬが……まあ、尊王派の空言だろう。俺は真に受けておらん」
「上様が将軍でなくなったら、俺らの仕事もなくなるではないか」
高地が言って、慎太郎もうなずいた。新選組は、江戸幕府の徴募により結成されたものだった。
「戦は起こらぬほうが良いな」
ぽつりと唇を動かしたのは、樹である。
「そうだな…侍が云うのも可笑しいが」
そう高地は微笑んだ。
「俺らが治安を守らねば」
慎太郎は胸を張る。
「強くなるのだ。如何なることが起こっても良いよう」
北斗は云い、頭上を見上げた。
幕末の空は晴れていた。真青な中を、一羽の鳥が悠々と飛んで行った。
続
6.18 Happy Birthday Hokuto!!!!!!