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――――狂座本部――――
※エルドアーク宮殿
外面は煌びやかな中世装飾に彩られ、外装は特殊な強化装甲により鉄壁の守備を誇る。
更には動力庫が近代的な特殊技術により、空間移動を容易に行う事が出来る。
内部は全て大理石によって豪華に建設されており、それはまさに狂座の見栄と強大さを示した冥王の一大居城であった。
現在は次元断層内に宮殿を置いており、地上から肉眼で確認する事は出来ない。
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ここエルドアーク宮殿内の戦略広間では、狂座最高幹部である“当主直属部隊”による会議が行われていた。
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「我々の最優先任務は、夜摩一族に隠された光界玉の奪取及び一族の殲滅、冥王様の早期復活にある――」
直属の一人が資料を手に、戦略内容を述べる。薄暗い広間に於いて、その容姿を確認する事は出来ない。
「キャハハ☆ なんか楽しくなってきたね★」
無邪気な声が広間内に響き渡る。声からしてまだ幼い感じで。
「少し黙ってろユーリ。これは遊びじゃ無いんだぞ……」
直属の一人が幼き声の言動を諌める。
だが口調はどちらかといえば、溜め息混じりのあやし声。
「アザミったら頭固いんだから★ クズ共がボクらに反抗してるんだよ? これが楽しみじゃなくなんなのさ? ルヅキだってそう思うでしょ★」
だがユーリと呼ばれた直属の一人は無邪気に、とても楽しそうに不満を述べていた。
戦略内容を述べてたルヅキと呼ばれた者は、自分に同意を振られ、溜め息を吐きながら資料をそっとテーブルの上に置く。
「我々の任務は楽しむ事では無い。あくまで冥王様の早期復活だという事を忘れるな」
ルヅキの『これは遊びではない』という咎めに対し――
「二人共頭固いんだね★ そんな大事な事忘れる訳無いじゃん☆ だけどもうちょっと肩の力を抜いていこうよ★」
やはり無邪気だ。
ルヅキとアザミは顔を合わせ、ユーリの無邪気さに溜め息を吐いた。
だがユーリの言動にも一理ある事は確か。
最近は焦りからか、皆が少し肩に力が入り過ぎてるのかも知れない。
「少し、いいですか?」
三人を横目に別資料を見ていた一人が口を挟む。
「どうしたハル?」
ルヅキは別資料を興味深く眺め、三人の輪から外れていた一人に問い掛けた。
「先程入ってきた情報ですが、光界玉探索にあたっていた第十八遊撃師団及び、第十六探索師団長シオンのサーモによる生体反応が、消失したとの確認報告がありました」
ハルは冷静にその主旨を告げる。
「それって殺られちゃったって事? 使えないなぁ……」
ユーリが子供の悪戯失敗みたいな感じで、あ~あと呟いた。
「師団では少し役不足だったか……。なら幾つか軍団を投入すれば早く片が付くんじゃないか?」
そう意見したのはアザミだ。
位階制である狂座。軍団は師団の一つ上の階級となっており、規模も戦力も違う。
各々に軍団を束ねているのは、軍団長と呼ばれる者達で、各々の実力は想像を絶する。
アザミの言う通り、軍団を投入すれば一国をも軽く落とせる程の――
「それがそう簡単な話じゃ無いみたいなんですよアザミ」
だがハルは厄介事を抱えた様な、何か気難しい声と共に溜め息を吐いた。
「夜摩一族と交戦したと思われるシオンは、その生体反応が消失する直前に、彼のサーモが裏コードに移行した形跡が記録されているのです」
ハルのその言葉に、直属達に一気に緊張が走る。
「なん……だと?」
“裏コード移行”
その言葉の持つ意味がどの様な事態なのか、その場に居る者達には深い程に理解していた。
「それって……臨界突破って事だよね?」
それまで無邪気だったユーリの表情が真顔になる。
「サーモの故障じゃないのか? 人間界にそんなの存在するはずが……」
そこまで言って、アザミはハッと気付く。
「まさか特異点が!? 四死刀は三年前に壊滅したはず?」
“特異点”
それは人で在って人で無き存在。
人知を超越した存在。
人として生まれながら、人には持ち得ない異能を生まれながら持っている存在。
彼等の間でも、そうした者を特異点と呼んでいる。
調査の段階で過去、現在と合わせても特異点の存在が判明したのは、現時点で四死刀と呼ばれた四人のみ。
「四死刀が現在、存在しないのは確かでしょう。しかし四死刀の一人“魂縛のキリト”が夜摩一族所縁の者という事を考えればもしや……。特異点の存在も有り得ない話ではありません」
ハルはその最も考えられる可能性を口にする。
だとすると――
「それが確かなら、無策に軍団を投入するのは得策では無いな……」
ルヅキが冷静を装いながらも苛々した口調で語る。
「四死刀との闘いで我々狂座は三人の直属に、二十二もの軍団及び六七もの師団を失っている。冥王様復活の前に、なるべくこれ以上の戦力減少は避けたい処だ……」
ルヅキが昔を思い出したのか、深い溜め息をつく。かつては7人の直属に、48の軍団と118の師団。それが現在は半壊しているという現実に。
「事の真意がはっきりするまで、念入りな調査が必要だな」
狂座の当初の目的は変わらないが、方向は大きく軌道修正する事になる。
『簡単に目的を達成出来るはずだったのに』
ルヅキは言い知れぬ苛立ちを感じていた。
「やっぱり楽しくなってきたね★」
ユーリがいつもの無邪気な笑顔に戻る。
「ユーリ、お前なぁ……」
ユーリの無邪気さにアザミは呆れ顔だ。
「だってボク達に匹敵、もしかしたらそれ以上かもしれない奴がいるって事だよ☆ ワクワクしてくるじゃん★ 退屈してたんだぁ☆」
ユーリの言葉の意味に、ルヅキはある想いに耽る。
『退屈か……』
それはかつて、冥王が常に言っていた言葉。
だからこそ狂座は、退屈凌ぎにこの世界を蹂躙する。
冥王の喜びこそが狂座の喜びでもあるからだ。
“必ずや再び此所へ復活させんと――”
ルヅキは深い決意を胸に、広間を後にしたのだった。