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海月
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「やっと出られた~」
少女はイタズラっぽい笑みを浮かべると、緊迫した雰囲気を無視してこちらに手をふる。
「やぁ僕はナハト、見ての通りこの聖剣に封印されたサキュバスだよ」
少女は背中のコウモリ羽をはためかせて、ゆっくりと俺の前に舞い降りる。
なんか凄いノリが軽い子が出てきたなと思ったが、俺は彼女に見覚えがあった。確かヒロインナンバー44。聖剣に封印された夜魔族。どこかに彼女が封印されているとは知っていたが、まさかラウルの屋敷の中だったとは
「これ、やっぱり聖剣だったのか」
俺が問うと彼女は大きく頷く。
「そう翼の聖剣フリューゲルカリバー。これを引き抜いた君は、今日から聖剣の使い手さ。誇って良いよ、君には王の資格がある」
少女は顔を近づけ、蠱惑的な笑みを浮かべる。
何かしら意味深なことを言っているのだが、露出している胸の谷間が近づいてきて、正直話が全く入ってこない。
「あ、兄貴変な女が増えましたぜ」
「気にするな、よく見りゃ極上の女じゃねぇか。豚を殺した後の楽しみが出来ただけだ」
「そ、そうっすね」
ナハトは男たちの下品な視線を感じて笑みを浮かべる。
「やだなぁ、君たちは好みじゃないから迫られても相手してあげないよ」
「そんなこと言うなよ、男とヤるのがサキュバスだろ」
「悪いけど、もう契約者は決まってるんだ」
ナハトがパチンと指を鳴らすと、暴漢達は突如股間を押さえる。
「な、なんだこりゃ」
「兄貴、アレが異常に膨らんで、痛ぇ……」
「女、何しやがった!」
「僕はサキュバスだからね。男のアレを大きくするなんて簡単だよ」
ナハトが何かを握る動作をしてみせる。
ズボンがパンパンに膨張していき、暴漢達は内股で身動きできず苦しそうに呻く。
「い、痛ぇ、し、死ぬ」
「これは、どう、なるんだ」
「そりゃ体中の血が海綿体に集まってきたら、風船みたいにパンってなるよね」
ナハトの言葉を聞いて、ぞっと青ざめる暴漢達。
額からあぶら汗を大量に流しながら小刻みに首を振り続ける。
「や、やめろ! 今すぐやめないとぶっ殺すぞ!」
「そのへっぴり腰で言われてもねぇ」
完全にガウォーク形態で動けなくなってしまっている暴漢を、クスクスと嘲笑うナハト。
俺もギャルサキュバスに小馬鹿にされたい人生だった。
「畜生、やめろ!」
「破裂する!」
「さぁ王子君、今がチャンスだよ」
「えっ、この状態で攻撃するとか外道すぎんか?」
股間爆発とか数々のファンタジー小説やアニメを見てきたが、極悪の部類に入る魔法だぞ。
しかしながら今さっき戦うと覚悟したところであり、こんな連中に情をかけている場合ではない。
内股で蟹歩きしている男たちを、遠慮なくフリューゲルカリバーで斬り倒していく。
「ぐあっ!」
「ぎゃあっ!」
「うわぁっ!」
驚くことに漆黒だったフリューゲルカリバーは銀色の金属の色を取り戻しており、見事な切れ味を誇っていた。
倒れた男たちの股間が赤く染まっているのが見えて、俺のアレがきゅっと縮み上がった。
「やったねぇ王子君」
「えっと、ナハト……さんでいいのかな?」
「ナハトでいいよ」
「君のおかげで助かった」
「いやぁこっちこそ、君が聖剣を引っこ抜いてくれたからこうやって外に出られたんだ。土の中にずっといてセミになった気分だったよ」
ナハトは俺をまじまじと見やると「う~ん」と唸る。
「君まだ子供だねぇ」
「まぁそうですね」
「後1,2年くらいは置かないと食べ頃にならないよねぇ」
「食べ頃とは?」
「僕はサキュバスだよ。わかるでしょ?」
「あ、はい……」
「ゆっくり育ててみるのもありかなぁ」
ナハトは何やら意味深なことを言うと、剣の中へと吸い込まれていく。
「えっ、消えた?」
『消えてないよ。このフリューゲルカリバーの中で、君のこと見守ってるから。この剣は常に携帯しててね。そうだ、君太り過ぎだから痩せた方が良いよ』
「あ、はい……」
なんか剣と会話してる姿がシュールすぎるな。
俺があっけに取られていると、屋敷から爺やが走ってきた。
「ラウル様~!」
「爺や、無事だったのか」
「はい、気絶しただけでした。ラウル様……その剣は」
「あぁ、石に刺さってたから抜いた」
「あ、あの剣をですか? 悪魔は大丈夫でしたか?」
本当のことを言うか迷ったが、これ以上混乱させるのもよくないと思い黙っておくことにした。
「そんなのいなかったよ」
「そ、そうでございましたか。申し訳ございません、おかしなことを言ってしまい」
悪魔か、サキュバスってカテゴリー的には悪魔だもんな。
どうやら噂は事実だったようだ。
(なぁ、夜な夜な喘ぎ声がこの剣から聞こえてきたって話があるんだが、それって君?)
『うん、そうだよ。誰か剣抜いてくれないかな~って思って、喘ぎ声で人呼んでた』
なんて迷惑な剣なんだ。
「とりあえず被害状況を確認しよう」
「畏まりました」
「ラウル様! 大変でございます!」
今度はメイドが俺達の元へと走ってくる。
「奥様が、奥様が連れ去られました!」
「なんだって!?」
「賊は2グループいたみたいで、ラウル様を狙った者とは別に奥様を狙った連中がいたのです」
俺はさきほどの暴漢の言葉を思い出した「お前はおまけみたいなもの。目的は別にある」と。
まさか奴らの本当の目的はママ上?
「そいつらには逃げられたのか!?」
「申し訳ございません。黒服の男たちに、あっという間に……。奴らは馬車を使って逃げました」
「爺や、追いかけよう!」
「お待ち下さいラウル様! 賊は恐らくアジトに帰ったのでしょう、迂闊に我々が踏み込んでも返り討ちにあってしまいます!」
「そんなこと言ってる場合か!」
「ラウル様、落ち着いてください。恐らく奥様は無事です」
「なぜそんなことが言い切れる!」
「奥様は……その金庫の場所をご存知なのです」
「金庫?」
一体何の話をしてるんだ?
「メッサー王には複数の愛人がいまして、それぞれ地方に住まわせているのです。それはメッサー王にもしものことがあった時の為、王の財宝をそれぞれ愛人に持たせて金庫番をさせているからなのです。奥様も金庫番の一人で、恐らく賊はそのことを知っていたのだと思います」
「王の財宝?」
「はい……それがなにかはわかりませぬが、それ以外に奥様を連れ去る理由はありません」
確かに、メッサー王にダメージを与えたいならその場で殺せばいいし、人質にするならどう考えても俺の方が価値が高い。
わざわざママ上を拐ったのは、何かしら理由があるとしか思えない。
「賊は金庫の場所を言わない限り、奥様を生かしておくはずです」
「それって生かしておいてはもらえるかもしれないが……」
拷問される可能性が高いってことなんじゃないのか。
「爺や、その金庫の場所ってどこかわからないのか? もしかしたらその金庫と引き換えに、ママ上を返してもらえるかもしれない」
「申し訳ございません、金庫の場所は奥様以外には知らないのです」
「どうする……どうすればいいんだ」
「ラウル様、島のギルドへ行きましょう。そこで傭兵を募集し、賊のアジトに乗り込むというのはどうでしょう?」
「そうしよう」
ただ島で嫌われ者のグランツ家に、冒険者たちが協力してくれるか……。
コメント
1件
お読みになりました!第7話、ナハトがめちゃくちゃ掴みどころのないサキュバスで面白かったです。股間膨張からの破裂予告、外道すぎて笑っちゃいました。聖剣が夜な夜な喘ぎ声で人呼んでたっていう裏設定もツボです(笑)。最後にまさかのお母様誘拐…ラウル、大ピンチですね。島での立場も辛いし、どう立ち回るのか気になります!