テラーノベル
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ディアとアイリが玉座の間から立ち去ると、その場にはエメラとアディだけが残された。
アディは不満そうに口を尖らせている。
「ねぇ、エメ姉は婚約、嬉しくないの?」
エメラはハッと目を見開いてアディの顔を見る。先ほどの作り笑いをアディに見抜かれていた。
「まさか、そんな事、ありませんわ……!」
「ほら、また作り笑い。父さんに対しては本当の笑顔だったのにね」
「……」
黙り込んだエメラをその場に置いて、アディは玉座へと続く階段を上っていく。
「ねぇ、そんなに父さんの方がいいの? いつも魔獣界にいないし、あんなの形だけの王じゃん」
逆を言えば、王が常に魔獣界にいる必要はない。それほどに魔獣界が平和で、エメラの統治能力が優れているとも言える。
アディはゆっくり階段を上りながら、背中でエメラに問いかけ続ける。
「魔獣界の仕事は全部、エメ姉に押し付けてさぁ……納得いかないよね」
穏やかな口調ではあるが、冷淡で無情。普段の爽やかなイメージの彼の口から出たとは思えない言葉が重く響く。
アディは、今もエメラがディアへの想いを捨てきれていない事を知っている。
知っているからこそ、その嫉妬がアディの心に影を落とし、闇に堕としていく。
エメラは顔を上げるが、アディの表情は見えない。その背中に向かって力強く言葉を返す。
「それは違いますわ。魔獣王ディア様の存在こそが、わたくしに魔獣界を治める力を与えて下さるのです」
記憶を失ったディアが、形だけの王として即位したと思われても仕方ない。
それでも最強の魔獣王の存在が、エメラと魔獣界の民に生きる希望を与えているのだ。
壇上の玉座の前に立ったアディは、階段の下のエメラを冷たく見下ろす。
「そんなに魔獣王がいいんだ。……なら、僕が魔獣王になる」
「……え?」
突然の宣言に、エメラはすぐに言葉の意味を理解できない。
「聞こえなかった? 今から僕が魔獣王だよ」
アディは前を向いたまま数歩後ろへ下がると、堂々と玉座に腰をかけた。
王しか座る事を許されない、魔獣王の玉座に。
「アディ様、いけませんわ! その椅子は……」
「いいんだよ、僕が魔獣王なんだから」
「そ、そんな……」
そんな勝手に、とはエメラは口に出せない。
アディは魔獣王ディアの息子であり、魔獣界ではディアに次ぐ身分と権力、そして王位継承権を持つ。高校を卒業したアディは、年齢的にも問題なく王として即位できるのも確かだ。
「エメ姉は今から僕の側近だよ。これは王である僕の命令だ」
玉座で腕と足を組むアディは、まるでエメラの反応を楽しんでいるようだ。
「……はい。承知致しました……わ……」
アディが何を言おうとも、エメラは受け入れるしかない。エメラは権力者ではなく、ただの側近でしかないのだから。
「じゃ、次の命令。僕の前に来て」
エメラは無言で、言われた通りに玉座までの階段をゆっくりと上る。
(アディ様は一体……どうされたのでしょうか)
アディの嫉妬に気付かないエメラは、いつもと違う彼の挙動に困惑する。
玉座に座るアディの目の前に立つと、必然的にエメラはアディを見下ろす形になる。アディはエメラではなく、隣の空いている王妃の席に視線を向ける。
「エメ姉も椅子に座ってよ」
「そんな、いけませんわ。そこは王妃様の椅子です、わたくしは……」
エメラはアディと婚約したが、まだ王妃ではない。そもそも、その椅子は王妃アイリだけが座る場所だ。
アディが鋭い金の眼光をエメラに向けたかと思うと突然、強い力でエメラの片腕を掴んだ。
「そこじゃないよ。僕の椅子に、だよ」
「え……きゃっ……!?」
掴まれた腕を強引に強く引っ張られたエメラは体勢を崩し、アディの胸元に抱きつくようにして倒れこんだ。
「ふふ、座り心地はどう?」
「あ、アディ様……」
アディの膝の上に乗る形でエメラは向かい合っている。同種族の証である金の瞳に互いを映しながら。
「言ったよね、僕が魔獣王になったら結婚しようって」
「で、ですが、それは、まだ……」
結婚の条件は揃ったのに、エメラは何を戸惑っているのか……と考えて、アディは思い出した。
「あぁ、『掟』でしょ? そんなの簡単だよ」
金色の瞳を細めながら、その唇をエメラの耳元に近付けていく。
「その掟、今ここでクリアしようか?」
アディの言う、魔獣界の『掟』とは。
魔獣界では特別な事情がない限り、正式に結婚を認められるには条件がある。
それは『婚約中に懐妊すること』。
希少種だけが住む魔獣界での『繁殖』を目的とした、絶対的な掟であった。
魔獣界の王子・アディの、エメラに対する異常なまでの溺愛……いや狂愛は、ここから始まる。
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コメント
1件
おお、これはめっちゃ重い…! アディくん、ただの爽やか王子じゃなかったんか〜い🫣 玉座に座るところから膝の上に引き寄せる流れ、狂気すら感じる引力があったわ。エメラの困惑とアディの冷めた嫉妬の対比が刺さる。掟の設定も、この世界観ならではで面白い。続き、どうなるんやろ…!