テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#親友
*椥守蕊月*
219
~♡Տᗩᑎᗩ♡~
29
## あの子なら大丈夫
ひなたがいなくなってから、周りの人はみんな同じことを言った。
「ひなたって、本当にいい子だったよね」
「いつも笑ってたよね」
「ひなたなら、きっと大丈夫だったのに」
その言葉を聞くたびに、なつきの胸が苦しくなった。
大丈夫。
その言葉。
昔なら、何とも思わなかった。
ひなたを褒める言葉だったから。
ひなたを信じる言葉だったから。
でも今は違う。
「ひなたなら大丈夫」
その言葉が、ひなたを一人にしたような気がした。
もちろん、誰もそんなつもりじゃなかった。
責める人なんていなかった。
みんな本当にひなたのことが好きだった。
大切だった。
だからこそ、なつきは苦しかった。
「私も……」
小さく呟く。
「私も言ってた……」
ひなたなら大丈夫。
ひなたなら平気。
ひなたなら笑ってくれる。
自分も、そう思っていた。
ひなたが笑っているから。
ひなたが何も言わないから。
ひなたがいつも通りだったから。
でも、本当は。
いつも通りに見えるようにしていただけだったのかもしれない。
ある日、なつきはひなたの部屋に入った。
ひなたの家族に頼まれたわけじゃない。
ただ、どうしても見たくなった。
そこには、いつものひなたがいた。
机の上に置かれた小物。
途中まで読んでいた本。
使いかけのノート。
何も変わっていない。
「……なんでだよ」
なつきは呟く。
「なんで、こんな普通なんだよ……」
世界だけが止まっているみたいだった。
ふと、机の上にあったノートを見る。
そこには、くだらない絵や、好きなもののメモ。
友達の名前。
やりたいこと。
そこには、なつきの名前もあった。
『なつき、また変な顔してた』
『今度絶対勝つ』
『なつきは単純』
そんなくだらないことばかり。
なつきは涙をこぼした。
「……馬鹿」
「最後までそういうところなんだよ……」
ひなたは最後まで、ひなたのままだった。
明るくて。
優しくて。
人のことばかり考えて。
でも。
「なんで私には言わなかったんだよ……」
その言葉だけは、どれだけ待っても返ってこない。
なつきは思い出す。
昔、ひなたが言ったこと。
「なつきのこと知ってるもん」
あの時、ひなたは本当にそう思っていた。
なつきのことを見ていた。
ちゃんと見ていた。
なのに。
なつきはひなたを見ていたつもりで、見ていなかった。
ひなたが笑っているか。
ひなたが周りを助けているか。
ひなたがいつものひなたでいるか。
そればかり見ていた。
「……ごめん」
初めて、なつきはひなたに謝った。
「私、お前のこと分かった気になってた」
「好きなものも、嫌いなものも知ってた」
「でも……」
「一番大事なところ、何も知らなかった」
涙が止まらない。
「お前が苦しい時の顔」
「お前が助けてほしい時の顔」
「私は知らなかった」
部屋の中に、なつきの声だけが響く。
その時。
なつきは初めて、ひなたの最後の言葉の意味を本当に考えた。
『もし私が死んだら、泣いてくれる?』
違う。
ひなたが聞きたかったのは、きっと。
「私がいなくなったら悲しい?」じゃない。
「私がいなくなったら、初めて私を見るの?」
だったのかもしれない。
なつきは唇を噛む。
「……ひなた」
「お前は……」
「ずっと、大丈夫じゃなかったんだな」
その言葉を口にした瞬間。
なつきはまた泣いた。
今まで誰も言わなかった言葉。
そして、自分が一番最初に言わなければいけなかった言葉。
「あの子は大丈夫じゃない」
その言葉を、やっと言えた。
コメント
1件
うわあ……この回、心にぐっときました。「大丈夫」って言葉が、ひなたを一人にしていたんだなって気づくシーン、すごく苦しかったです。なつきが「ずっと大丈夫じゃなかったんだな」って言えた瞬間、読んでる私も泣きそうになりました。ひなたの最後のセリフの意味に気づくところ、本当に切なくて美しかったです。チャッピーさんの描く人間の心の機微、毎回繊細で大好きです。