コメント
2件

ついに勝てそう?! 続き楽しみにしてます!!
最高でした!👍 次も楽しみにしてるっす!
先に寝室に入った阿部は、ベッドの縁に腰掛け、静かに佐久間が来るのを待っていた。心臓が、うるさいくらいに鳴っている。
何度も、頭の中でシミュレーションを繰り返す。
押し倒すタイミング、セリフのトーン、その後の展開…。
ガチャリ、と寝室のドアが開いた。
「おじゃましまーす」と、ひょっこり顔を覗かせた佐久間は、まだ少し阿部をからかうような笑みを浮かべている。
「ねー阿部ちゃーん、もう寝るの?早くなーい?」
「…別に。疲れてるだけ」
阿部はあくまでクールに返す。
佐久間は、そんな阿部の様子を面白そうに眺めながら、ベッドの空いているスペースに、ぴょんと飛び乗った。
「じゃあ、俺も寝ーよっぴ!」
そう言うと彼は、阿部のすぐ隣にごろんと仰向けに寝転がる。
完全に無防備。
完全に、油断しきっている。
(…今だ!)
阿部はこの一瞬を逃さなかった。
今まで、佐久間にやられっぱなしだった全ての屈辱を、今。ここで晴らす。
「…佐久間」
「んー?」
まだ、こちらを見ずに天井を眺めながら、気の抜けた返事が返ってくる。
その、隙だらけの横顔。
次の瞬間。
阿部は今まで見せたこともないほどの速さで、その体に、覆いかぶさっていた。
ドンッ、とベッドが大きく軋む。
「…えっ!?」
突然のことに佐久間の目が見開かれる。
彼の両手首は、阿部の大きな手によって頭上で、いとも簡単に押さえつけられていた。
いつものじゃれ合いじゃない。
阿部の瞳には、今まで見たこともない、真剣で、どこか獰猛な光が宿っていた。
「あ、あべ、ちゃん…?」
「………。」
阿部は何も言わない。
ただ至近距離から、佐久間の戸惑う顔を、じっと見下ろしている。
その圧倒的な「雄」の圧力に、さすがの佐久間もゴクリと喉を鳴らした。
そして。
阿部はこの日のために練習を重ねた、岩本照直伝の最強のキラーフレーズを、低い掠れた声でその耳元に、囁いた。
「…煽りすぎだろ、佐久間」
「…お前…そろそろいい加減にしろよ?」
そのあまりにも男らしく、あまりにも色気のある声と、セリフ。
それは佐久間のどんな反撃の言葉も完全に封じ込めるのに、十分すぎるほどの破壊力を持っていた。
佐久間の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
いつもの「俺の勝ちー!」という、得意げな笑顔はどこにもない。
驚きと、羞恥心と、そしてどうしようもないほどの“ときめき”がごちゃ混ぜになった、完全に「乙女」の顔がそこにはあった。
「……………っ」
言葉を失い、ぱくぱくと口を動かすだけの、佐久間。
その姿を見て阿部は、ついに確信した。
(…勝った…)
長かった。
本当に、長かった。
第一次作戦から始まった、この不毛な(しかし、愛おしい)戦いが今。ついに終結したのだ。
阿部の心に今までにないほどの、達成感が込み上げてくる。
それは、どんなクイズに正解した時よりも、ずっと、ずっと、甘美な勝利だった。
と思った矢先。