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(…勝った…!僕の、完全勝利だ…!)
目の前で言葉を失い、ただただ顔を真っ赤にして自分を見上げる佐久間。
阿部亮平は、人生で最高とも言える達成感に打ち震えていた。
軍師・岩本照、そして、数々のアドバイス(という名の野次)をくれたメンバーたちに、心の中で最大限の感謝を送る。
もう何も言わせない。
このまま、この甘い勝利の余韻に、浸るんだ。
阿部が勝利宣言をしようと、口を開きかけた、まさにその瞬間だった。
それまで、完全に固まっていた佐久間の唇が、ふわりと、緩んだ。
それは敗北の表情ではなかった。
全てを受け入れるかのような、どうしようもなく、愛おしそうな蕩けるような笑顔だった。
そして掠れた、甘い吐息と共に囁く。
「…俺ね…?」
「…ん?」
「阿部ちゃんに、こーゆーことされるの…」
その、潤んだ上目遣いは、もはや反則としか言いようがなかった。
「…ずーっと待ってたんだぁ…」
その言葉はまるで、静かな湖に投げ込まれた、巨大な爆弾だった。
阿部の脳内で勝利を祝うファンファーレが、ぴたりと止まる。
そして、キーンという耳鳴りのような音と共に、全ての思考が、停止した。
(ま、まってた…?)
意味が分からない。
いや意味は分かる。分かりすぎるほどに。
でも理解が追いつかない。
こちらの作戦も、この状況も全てお見通しだったとでも言うのか。
いや違う。
お見通しどころかむしろ、これを望んでいた…?
「…え…?」
阿部の口から間の抜けた声が漏れる。
その完全に動揺している阿部の姿を見て、佐久間は、くすくすと楽しそうに笑った。
そして押さえつけられていない方の足で、器用に、阿部の腰に、するり、と足を絡ませてくる。
「…やっと捕まえてくれたね…阿部ちゃん?」
その声も仕草も、何もかもが阿部が今まで見たこともないほど、扇情的でそして、どうしようもなく愛おしかった。
もうだめだ。
勝ったとか負けたとかそんなこと、もうどうでもよくなってしまった。
阿部は吸い寄せられるように、その、全てを許すように開かれた唇に己のそれを、深く、深く重ね合わせた。
結果、勝ったのはどっちだったのか。
もうその答えを知る者は、誰もいない。
ただ、一つだけ確かなのはこの長い、長い戦いの果てに二人だけの、最高に甘い夜が今始まったということだけだった。