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” 突き進む(動き出す) Go Into Action “
私の身の周りの荷物を片付けると、幸せの絶頂にいた私たちふたりは
驚くくらい早くにマリリンの運転する車で私の実家に辿り着いた。
家に着いた時、何故かほっとした。
これで……これで世間様からも夫からも私たちふたりが不実なことを
していたのではないか?
と疑いの目を向けられる芽を摘むことができたからだ。
慎は私を送り届けるだけと初めから決めていたようで
私の母に挨拶をすると早々に踵を返そうとした。
その場にいた私も、慎のその行動に違和感を覚えなかった。
だけど、私の母は違ったみたい。
そりゃそうだよね、私はここのところずっとマリリンと一緒だった
からそのことを当たり前のように捉えていたんだけど、母からしてみれば
久しぶりに会うマリリンなんだもの。
そういう配慮というか、慮る力も幸せ過ぎて
フワフワしている私からは抜け落ちていたようだ。
帰ろうとした慎に 母がしばらくぶりなのに何すぐ帰ろうと
しているのかと家にマリリンを強引に引きずり込んだ。
「マリリン、久しぶりだね。まぁまぁそんなに急いで帰らなくても
いいでしょ? 話もしたいし、お茶でも飲んでってちょうだい?
姫苺もいることだし……って、ありがとうねこの子、送ってもらって」
「はは、すみません。
お久しぶりなのに挨拶もそこそこに、お暇しようとして……」
「この後何か急ぎの用があるなんてことはないよね?」
「ないです」
「じゃあ、はいはい上がってちょうだい」
そう言って母は、マリリンの前にスリッパを差し出した。
このあと、私とマリリンがダイニングスペースで椅子に腰かけて
寛いでいると……お茶を淹れている母親が私に問いかけてきた。
「あなた、どうしてたの?
冬也さんと何かあった?
2回ほど 姫苺がうちに来てないかって電話あったのよ?
喧嘩でもした?」
「ただの喧嘩ならよかったんだけど」
「まさか、冬也さん浮気でもした?」
「最後までいったかどうかは分からないけど……ま、そんなとこ」
「もしかして、あなた……」
まだ詳細を話してもないのに、母は私が離婚するつもりでいることを
キャッチしたようだった。
参るわぁ~!
最初のうち……『一度の浮気心だったのなら夫を許してやり直したら?』 と
冬也に寛容な対応だった母。
だが 私が慎との結婚話を報告するやいなや、あっさりと手の平返しをした。
「なんだぁ、早く話してよ。マリリンと結婚することが決まってるのなら
話は変わってくるじゃない? 浮気する人なんて捨てちゃうなさい」
そんな風な母の言動に 私も慎もあっけにとられ、吹いてしまった。
小さな頃から慎を我が子のように接してきた母からすれば……
いずれ慎と娘が結婚してくれたらと願っていた母からすれば……
当然のことだったのかもしれない。
母は完全に私の味方になった。
きっと父親も母親に右に倣えすることだろう。
よしっ、これで夫天羽冬也との離婚に関してほぼほぼ、足枷が
なくなったといえよう。
その夜――――
離婚に対して理解を示してくれた母親と、これから一緒に未来を紡いで
いける慎とに囲まれてディナーに舌鼓をうつ姫苺の表情は、明るかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夫の冬也の元から逃げて2週間近くが過ぎようとしている。
家を勢いで出た時には、ただもう別れることだけを心に決めて
出たのだった。
ただそれだけで、自分は近い将来のビジョンさえ描けていなかった。
そして夫との別れを決めて家を出たものの、両親に打ち明けるところまでの
決心がつきかねていた。
だから――――
マンスリーマンションでも探して少し気持ちを落ち着け、じっくりと考えをまとめ、
それから両親に話を持っていこうって思ってた。
そして、ちょうどそんなふうに少しの不安を抱えていたところで、ばったり
マリリンに会って……なんとなくの体で冬也のことを話すことになり……。
🩰
慰めてもらえれば御の字くらいの気持ちで話したのに、いつの間にか
マリリンからプロポーズを受けていた。
あれよあれよという間に私の未来が……それも直近の未来ではなく
この先の長ぁ~い未来が、もう自分に素晴らしい未来、明るい未来なんて望むべくもないと
頭のどこかで考えてもいたのに、そんなことぶっ飛ばすくらいの素晴らしい
未来が私を待ち受けていたのだ。
慎が女性も受け入れることができるようになったという現実が……
慎の変化が……
私とマリリンの人生を大きく変えようとしていた。
人は変わる……。
人が変わると……
こんなにも全てのことに変化が起こり、化学反応するように変わってゆくんだ?
なんか、可笑しいって思った。
冬也が結婚の時に私と誓った愛を守り、余所の女に現を抜かさなければ
私が家を出るという変化はなく、女性とも行為できるようになったマリリンとの
直近での再会もなかったろうし、それだから私とマリリンとの結婚話も
なかったことだろう。
そんなことをツラツラと考えた。
――――とするならば、運命を左右する分岐点は……
私たち3者の人生を大きく変えたのは……
紛れもなく、冬也だ。
そしてその本人とぼちぼち対面でちゃんと話し合わなければ
ならない時が来たことを私は悟った。