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#一次創作
ruruha
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「そろそろ行こう」
その言葉に頷いて、立ち上がる。
私が泣いている間、フレディは何も言わなかった。
ただ辛抱強く、落ちつくのを待っていてくれた。
立ち上がった瞬間、少し眩暈が。
「う……」
ただの立ちくらみか、それとも本当に熱が出てきたのだろうか。
泣いて泣いて泣いて泣きすぎて、もう心も体も自分ではよく分からない。
「大丈夫?」
「へいき……ちょっと眩暈がしただけ」
ああ、体が重い。喋るのもちょっと億劫だ。
彼はチラッと空を見た。
空の色は紺から青へと移り始め、先ほどよりも明らかに明るさを帯びてきている。
「もうそろそろヤバいかな」
ポツリと漏れた言葉に、フレディの顔を見返した。
どういう意味だろう。
口を開くのが面倒で、言葉にはしなかった。
「とにかく場所を移そう。ここは狭いから、いざって時に動きにくい」
彼の声はハキハキしていて、聞いてて安心できる。
今はただ、この声に従っていれば間違いない。
何も考えなくていい……。
夜が明けてしまったら光の中で、何もかもがその姿を晒すことになる。
ずっと夜のままでいい。
黒いままで、澱んだままで。
私の目を塗りつぶして。
空中廊下をまた渡った先のドアを開けると、フレディが急に立ち止まった。
ぼんやりと歩いていた私は、その背中に軽くぶつかって立ち止まる。
不思議に思って肩越しに部屋の中を覗くと、そこには人影が。
その人は明かりもない真っ暗な部屋で立ち尽くし、一点を見つめていた。
視線の先にあるのは、崩れた土の塊。
部屋の中央には石棺が置いてあり、その上に布が被せてある。
それは人型に盛り上がっていて布の下に隠されているが、ヒトの体で無いことを示していた。
「……アーウィン?」
「…………」
私たちが入ってきたことに気づいているはずなのに、土の塊を見つめたまま動かない。
突然現れたよく知る顔には、言いたいこともたくさんあったような気がする。
が、なんだか心が麻痺してしまったのかどう反応していいかよく分からなかった。
たっぷりの間を置いてから、ようやくアーウィンは顔を上げる。
私の顔を見て微笑んだ。
「ひどい顔をしてますね……どうしたんです?」
「…………」
何か言おうとして口を開けたのに、結局何も言えない。
何をどう言えばいいのか分からないこともある。
久しぶりに見せてくれた笑顔に、胸がいっぱいになったせいもある。
「アーウィン……」
「動くな」
彼に近寄ろうとした私を、フレディの背中が阻んだ。
「フレディ?どうし……」
ハッと息を呑む。
彼の手には銃が握られていた。
その銃口はアーウィンへ向けられている。
それを見た瞬間、脳裏にリズの肩を弾丸が貫いた光景がフラッシュバックした。
「!!」
思わずフレディに飛びつく。
「やめえッ!!」
「うわ!」
ガァンッという発射音と共に、弾丸が私の頬数センチを掠めて天井へ飛び去った。
「危なっ!!」
「やめて!やめて、やめて!撃っちゃだめ!」
「何すんだ!姉ちゃんまで撃っちゃうところだっただろ!!」
「私も私じゃない人も撃っちゃだめなの!!」
必死にフレディに説明する。
「この人は違うの!大丈夫なの!アーウィンって言って、私の家族みたいな人なの!」
「…………」
彼はアーウィンを見据えたまま、動かない。
ああ、分かってもらえない。
ちゃんと説明しなきゃ。
もっとちゃんと。
焦れば焦るほど、うまく言葉がでない。
「ほんとなの。こんなとこにいて、そりゃ怪しいかもしれないけど。でも怪しい人じゃないのよ。だから撃つ必要なんてないの。大丈夫なの!」
ようやくフレディはチラッと私を見たが、それだけだ。
「ねえ、お願いだから銃を下ろして……」
やがてフゥと小さく息をつき、私に向き直った。
けれど、アーウィンに向けた銃口は下げてくれない。
そして、はっきりした口調で告げる。
「姉ちゃん、こいつは人間じゃない。冥使だよ」
「……え?あっ……」
ハッとして振り返った。
まさかアーウィンもリズみたいに、人ではなくなったって言うの!?
まさか、まさか!!
祈る気持ちで彼を凝視する。
私の視線を受け取り、おどけて小さく肩をすくめてみせた。
長く息を吐いて胸を撫で下ろす。
よかった、いつものアーウィンだ……。
落ち着きを取り戻して、フレディに向き直る。
「もう、びっくりさせないで。アーウィンは大丈夫よ。お化けになんてなってないわ。目だって赤くないじゃない」
「冥使には、大きく分けて二種類ある」
銃を構えたまま、ぴしゃりと言った。
「一つは人間が冥使に入蝕されて冥使になったものーー雑種とか下級冥使とか呼ばれるタイプ。そして生まれながらに冥使となる運命をせおったものーーこれは純血種とか上級冥使とか呼ばれる。そいつは」
くいっと顎でアーウィンを示した。
「純血種だ。生まれつきの冥使だよ」
冥使ーー吸血鬼?
「……何?何言ってんの?そんなわけないでしょう?アーウィンは人間よ。ずっと一緒に暮らしてきたのよ?私だってお母さんだってヒトじゃないなら、いくらなんでも気づ……」
脳裏に蘇った光景が言葉を止めた。
照明器具の見当たらない部屋。
主の見えない……寒々とした部屋。
ほんの少しも気づかなかった。
「上級冥使には催眠の能力がある」
フレディは彼を見据えたまま、低い声で言う。
「さい、みん……?」
知らず、声が震えた。
「姉ちゃんの記憶は捏造の可能性が高い。当てにならない」
私の記憶が……当てにならない?
捏造?私の記憶が偽物……?
脳の奥に、ぞくっと寒気が走った。
「うそよ……だ、だってほら!アーウィンの目は、赤くないじゃない!お化けはみんな目が赤いのよ!私、知ってる!アーウィンはいつも通りだもん!お化けとは、全然違う!!」
「上級冥使なら、ヒトの擬態くらい簡単にーー」
「やめて!分かんない!!」
最後まで喋らせなかった。
「もう、フレディは分かんないことばっか言う!!」
銀色の銃身を握りしめて、強く揺さぶる。
「うわっ!だから危ないってば!銃身を持つな!!」
ぼろぼろと涙が出てきた。
「分かんないことばっかり言わないで!!分かんないもん!私、全然分かんない!!」
「…………」
「アーウィンは私の家族だもん。ずっと一緒に暮らしてきた、か、家族だもん!吸血鬼なんかじゃないわ!」
彼は小さく息をついて、アーウィンを振り返った。
「……あんたの答えは?」
コメント
1件
うわ、めっちゃヤバい展開になってきた…!アーウィンが純血の冥使って、しかも記憶操作してた可能性あるってマジかよ。主人公の「分かんない!」ってパニックになってる感じ、すごい伝わってきた。フレディの冷静な説明と感情的に揺れる主人公の対比がめっちゃ刺さるわ。続きどうなるんだこれ…!