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霊一が鋼谷に止めを刺そうとした、その瞬間、周囲の空気が突如として重く張り詰めた。鋼谷も霊一も、異様な緊張に気圧されるように息を飲む。
そして、霊一の背後にふわりと現れたのは、漆黒のローブをまとった男ーー異能爪術の掟を司る“相伝の当主”だった。
「霊一、お前は掟を破った。」
低く冷たい声が霊一の耳元に突き刺さる。その声に背筋を凍らせ、霊一は反射的に振り返ったが、目の前に立つ当主を見て、顔には驚愕と恐怖が浮かんでいた。異能爪術の掟。それは、己の手で触れた相手の異能のみを取り込むという厳格な戒めであり、掟を破った者には死が待つ。
霊一は冷や汗を滲ませながらも、自分の目の前にいる鋼谷への執念に囚われていた。どうしても鋼谷を倒すために、彼は掟を無視し、遠隔で異能に触れようとしてしまったのだ。
「俺は、ただ…こいつを…」
当主は無表情のまま手を掲げ、一振りする。瞬間、霊一の体は見えない鎖に縛られたかのように動きを止められた。霊一は驚愕の表情で当主を見つめるしかない。これが異能爪術一族にだけ伝えられた禁じ手ーー遠隔での異能暗殺だった。
「お前に授けた力は、一族の誇りを守るためのものだ。私欲のために乱用することは、決して許されん」
その言葉と共に、霊一の額に“死”の刻印がゆっくりと浮かび上がり、燃え上がるような痛みが彼を苛む。霊一の表情が苦痛に歪み、体が震えるのが見て取れた。
鋼谷は薄れゆく意識の中で、霊一が何かに縛られ、追い詰められているのをかすかに感じていた。しかし自分は動けず、ただ薄れる視界の中で彼らのやり取りの気配を掴むことしかできなかった。
「鋼谷…これが俺の最後の…失敗だ…」
霊一は鋼谷に呟くように言葉を残し、苦悶の表情が鋼谷の視界の端で消えていく。やがて、当主の禁じ手により、霊一の命は容赦なく絶たれた。静かに倒れ込んだ霊一の体が動かなくなると同時に、周囲の空気も再び静寂に包まれる。