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──数十分後。
私たちは、ヴァエルの残骸が散らばる空間の奥で、
奇妙なものを発見していた。
「……これは……なに?」
それは、宙に浮かぶ小さな光の欠片だった。
手のひらサイズほどの、薄紫色に光る結晶のようなもの。
近づくと、ふわりふわりと漂いながら、かすかに脈打っている。
「なんか飴玉みたいだね! 美味しそう……ぶどう味……」
カエデが口を開けて、あわよくば食べようと身を乗り出す。
「ククク……我が左目が共鳴している……これは古の……」
ツバキが眼帯を押さえながら中二病の解説を始めようとした、
その時。
「これは……記憶結晶ですね。
古代魔術において、強い感情や記憶が物質化する現象は、
稀に見られ、特に魔力の濃い場所ではこういった──」
辰夫がツバキを完全に無視して
真面目に解説モードに入りかけた瞬間──
「辰夫。」
「はい?」
「三行以上になりそうなら黙って」
「……失礼いたしました」
辰夫は一瞬だけ口を開き、何か言いかけて、静かに閉じた。
言いたいことは山ほどあるらしい。
「……要するに、記憶が結晶化したってこと?」
「……はい。そういうことです」
「最初からそう言って」
「……ぐっ……溢れるな……涙」
辰夫は静かに天井を見上げた。
「辰夫さん……」
辰夫の背中をさする辰美。
私はアフロをかき上げながら、光る欠片に手を伸ばした。
──正直、なんだかよく分からない。
「……まあ、触ってみるか」
私は光る欠片に手を当てた。
──その瞬間。
ズゥゥゥゥン……。
欠片が激しく明滅しはじめた。
薄紫の光が一気に広がり、空間全体を包み込む。
「お姉ちゃん!すごく光ってる!」
「うん……見えてる」
そして、光の波が一度だけ強く瞬き──
次の瞬間、空間の中央に、
薄紫の幻影がふわりと映し出された。
*
──見えるのは、エスト様によく似た小さな女の子。
その子の前に立つ、長い黒髪の男性。
男性の顔は見えないが、その後ろ姿には威厳がある。
『パパ、どこに行くの?』
『少しだけ、遠いところに。すぐに帰ってくるから』
男性は静かに膝をつくと、小さなエスト様を、
壊れ物でも扱うかのように、強く、優しく抱きしめた。
『ほんとに?』
『ああ。約束する』
『……また一緒にごはん食べられる?』
『ああ。帰ったら、エストの好きなものを作ろう』
『……甘いやつがいい!』
『はは、わかった』
不器用な手つきで、愛おしそうに頭を撫でる。
──その時、ほんの一瞬だけ、男の手が震えた。
*
#主人公最強
しめさば
2,152
──その言葉に、胸が強く掴まれた。
(……帰る、か。いいな、それ)
そういうの、羨ましいな。
……胸の奥が、少しだけ痛んだ。
男性が振り返りかけた瞬間──映像が途切れた。
空間に静寂が戻る。
「うぅぅぅ……パパさぁん……ッ!!」
静寂を破ったのは、ツバキの大号泣だった。
さっきまでカッコつけていたのに、
顔を両手で覆ってボロボロ泣いている。
「えぐっ……ひっく……エストちゃん……
よかったねぇ……愛されてるよぉ……」
カエデもウィルソン(石)で鼻水を拭きながらもらい泣きしている。
「『聖女様、魔族の親子の愛に触れ、慈愛の涙を流される』……ッ!」
ローザが号泣しながら、
猛スピードで聖典にメモを取っている。
「なんか、悲しいな」
辰美がポツリと呟く。
「あんたたちが先に泣いてどうすんのよ……」
私は呆れながらツッコミを入れたが、
声が、思っていたより震えていた。
「お姉ちゃん?」
エスト様が心配そうに私を見上げている。
その瞳が、昔の自分と重なった気がした。
「……エスト様。今の…」
「うん……パパだった。パパとわたしだった」
エスト様の目に、うっすらと涙が浮かんでいる。
「ええ。先代魔王でしたな」
辰夫が静かに答えた。
そういや、昔からの知り合いみたいなこと言ってた気がする。
「パパ……約束、守れなかった……」
「……泣いてもいいのよ。
ムダ様も言ってたもの、涙は弱さじゃないって。」
私は無意識に、エスト様の頭に手を置いていた。
「ふふ……いつものムダ様じゃないね……」
「そうね……ムダ様もたまには間違うのかもね……」
私の言葉に辰夫と辰美が目を見合わせて首を傾げる。
──そして。
「「いや、間違って無い……」」
辰夫と辰美が小さくハモった。
「……大丈夫よ。きっと、パパにも事情があったのよ」
「でも……でも……」
エスト様の涙がぽろぽろと落ちる。
私は……なんて言えばいいのか分からなかった。
慰めの言葉なんて、私は得意じゃない。
「えぐっ!えぐっ!」
ツバキが泣いてる。当事者より大声で。
「ツバキうるさい!」
私は全力でツッコんだ。
──そして、横からスッとカエデが顔を出した。
「エストちゃん……元気出して……ほら、これあげるから」
カエデが優しく差し出したのは──
道中で拾った、『良い形の石 (ウィルソン)』だった。
「……石?」
涙でぐしゃぐしゃのエスト様が、きょとんとする。
「うん。ウィルソンだよ。
……撫でる? 大丈夫。怖くないよ?」
「カエデ?」
私が無表情でウィルソンを掴んで遠くに投げた。
ぽいっ。
「ああっ!奇跡的に良い形のウィルソンが!?」
カエデが石を拾いに離脱した。
「はい。カエデ退場」
私の剣幕に、エスト様が「ふふっ」と小さく吹き出した。
鼻をすすりながら、少しだけ涙が止まる。
……結果オーライだけど、あとで説教ね。カエデ。
私はエスト様の前にしゃがみ込み、目線を合わせた。
「エスト様」
「あなたの父親がどんな人だったかは分からない。
でも──少なくとも、あなたを愛していたことは間違いないわ」
「どうして分かるの?」
「だって、あなたみたいな子に育ったんだもの」
エスト様がきょとんとする。
「素直で、優しくて、
人を信じることができて──
そんな顔で泣ける子に育った時点で、
ちゃんと愛されてた証拠よ」
「……お姉ちゃん……」
「だから──泣かないで。
あなたの父親は、きっと今でもあなたを誇りに思ってる」
エスト様は涙を拭いて、小さく微笑んだ。
「……ありがと、お姉ちゃん」
「どういたしまして」
──ほんの一瞬、温かい空気が場を包む。
「……サクラが、まともなこと言ってる」
「……明日は槍が降るわね……」
石を拾って戻ってきたカエデと、
まだ泣いてるツバキが小声でヒソヒソ話している。
「聞こえてんぞお前ら」
「『涙は弱さにあらず、愛の証明なり』……」
ローザが震える手で書きつける。
「……ちょっといいこと言ってるのが腹立つ」
「『なお、泣いた後は糖分を摂取すべし』……!」
「台無しだよ!!」
「『空腹は信仰心を鈍らせる』とも……!」
「お腹すいたんか?」
「はい!」
ローザが最高の笑顔で返事をした。
私が後ろを睨みつけた直後──背筋にぞわりと冷たい感覚が走った。
……まだ終わってない。
優しい記憶の奥に、歪んだ瘴気がじっと息を潜めている。
──その時、記憶の欠片がふわりと浮き上がり、奥の方へ漂っていく。
「あ、飴玉が逃げる!」
カエデが指を差す。
「あの飴玉──違う、記憶です。追いましょう」
辰夫がカエデに釣られながら短く補足した。
「……今回は一行に収めました」
辰夫が、なぜか誇らしげに胸を張った。
私は辰夫を無視し──そして、少し迷った。
この記憶の欠片が、エストパパのものだとしたら──
ここで何があったのか。
なぜ彼は帰って来られなかったのか。
もしもその真実が、エスト様にとって辛いものだったら?
……でも、逃げるつもりはない。
知るべきことは、知って進む。
それが今の私の役目だ。
「追うわよ! 聖なる導きに従って!」
涙を拭いたツバキが、大げさにマントを翻す。
「お待ちを聖女様ー!」
ローザがメモを抱えて続く。
「……行くわよ、みんな!」
私たちは慌てて欠片を追いかけた。
(つづく)
◇◇◇
── 今週のムダ様語録 ──
『涙は弱さじゃない。愛の証拠だ。』
解説
泣けるってことは、それだけ大切なものがあるってこと。
強い奴ほど、泣く理由を持ってる。──ムダ様、感情論より。
サクラ「ムダ様!?」