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何度も
離したくなかった。
名残惜しく唇を離した瞬間、
胸の奥に幸福感と罪悪感が同時に押し寄せた。
「……姫?」
息を整えようとして、ふと姫を見つめる。
姫は目を閉じたまま、微動だにしない。
もう一度そっと名を呼んだ。
「姫……?」
返事がない。
肩に触れた指先に、力が抜けるような感触が伝わる。
まさか、と思った瞬間、
背筋に冷たいものが走った。
「……気絶、してる?」
声が震える。
軽く頬に触れ、呼吸を確かめる。
胸が規則正しく上下しているのを見て、
ほんの少しだけ安堵が胸に落ちる。
けれど、安堵よりも強いのは
後悔だった。
「すまない……」
小さく呟く
静まり返った寝室で、
会長の声だけがかすかに震えていた。
そのまま姫の頬にかかった髪と、
乱れた衣服を直そうと手を滑らす。
つい胸元を見てしまう男の_性質@さが_
(嫌だこんな俺は)
模様が
消えている?
そう言えば香も
花の模様も香も無くなっていた。
“もしや”と胸のどこかがざわつく。
説明のつかない現象に、指先だけそっと触れたような感覚
まだ霧の中だ。
けれど確かに一歩、近づいた。
謎の現象に一歩近づいた気がした。
もう一度姫の顔を見つめる。
これ以上ここにいたら、
後悔と不安に押し潰されそうになりながら、
また自制できずに触れてしまいたくなる。
そう思った瞬間、立ち上がった。
きしむ床の音が、
なぜか罪を告げるように大きく響く。
ドアノブに手をかけると、
冷たさが指にのぼってくる。
振り返れば、すぐにでも駆け寄りたくなるから、
あえて後ろは見ないまま扉を開けた。
目を覚ますまで待っていられない。
ここに留まれば、
きっとまた
眠る“姫”の静かな呼吸を確かめて、そっと布団を整えた。
鍵を掛けられず、すまない――
そんな小さな罪悪感を胸に押し込んで、
振り返らずに部屋を出た。
扉が静かに閉まる音が、やけに大きく響いた。
音がひとつ消えた瞬間、
胸の奥にまた別の痛みが落ちてきた。
「……落ち着け」
自分にそう告げて、
俺は廊下へ歩き出した。