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夕闇の透き通ったブルーグレーのキャンバスを赤い夕日が彩っていく。まだ完全に日が落ちきっていない空間にはまだ少し日中の暖かさが残っていた。
暫く歩けばもう完全に日は沈みそこは夜の世界ですれ違う人は皆大人、そしてどこか違う雰囲気を纏っていた。
そんな中ふと浮かんできたのはかつて仲間たちと歌った歌、久しぶりに思い出したその歌がとても懐かしく思えてきて思わず口ずさむ。
「夕闇のキャンバスにワインレッドの夕日を見送った帰り道 あなたのハートはもう私のこと描いてるのかな〜」
「今夜は〜」
重なる声。突然聞こえた聞き馴染みのある声がした方を見るとそこには司くんがいた。約十二時間ぶりに聞けたその声で思わず頬が緩んでしまう。司くんはかつて共にショーをしていた仲間の一人。今では昔よりももっと有名になりテレビ出演なども増え僕達を知っている人の方が多いだろう。そして今では僕の恋人になった。いつもは強気な君も僕の前では可愛くどろどろに溶けるんだ、そんな司くんが可愛くていつもつい甘やかしてしまう。そんなことを考えながらも気になっていたことを口にする。
「やぁ、司くん。君とこんなところで会うなんて珍しいね」
だってここは歓楽街だ。司くんのようなピュアで可愛い人間が来る場所ではない。
「だって帰り道に類の姿を見つけたから後を追ってみたんだ。いきなり歌いだしたときは驚いたが昔歌ったからな!覚えていたぞ、さすがオレ!」
フフ、やっぱり昔と変わらず自信家でそれでもショーバカでそんなところにきっと僕は惹かれたんだろうなとつくづく思う。そんなことよりも今日は司くんに聞くことがあったんだ。
「ねぇ司くん。これから僕の家に来ないかい?」
「ん、いいぞ。何かあったのか?」
「それがね、今日お偉いさんに赤ワインをもらったんだけど僕だけでは飲み切ることもできないしどうかなと思ってね。」
「あぁ、そういうことだったのか!それでは類の家に行くとするか!」
その後二人でコンビニに行きおつまみになるものを買ってから家へと向かった。
春の暖かさが花を開花させるようなショーのように僕達二人だけのショーが始まった。
◆◇◆◇◆◇
「ポンッ」心地の良い音とともに外れるコルクとかすかに香るベリーベースの香り、二人分のグラスにトポトポと注ぐ。透き通った色は赤より深く、それでもグラスの中では黒に近いような赤。グラス同士を合わせ小さく音を鳴らし微笑むとワインを口に運ぶ。ラズベリーのような甘酸っぱい香りの中にカシスのようなどこか深みを感じる香りがしてとても美味しい。対する司くんは目を輝かせて
「美味しいな、これ!ベリーベースにドライフルーツみたいな味がしたぞ!」
感じ方は人それぞれやっぱり一人で飲むよりも二人で飲んだほうが楽しいな。何杯か飲んだあとに思い出す。
◆◇◆◇◆◇
……あれ?たしか司くんはお酒にとても弱かったような…気づいたときにはもう完全に遅かった。司くんは完全に出来上がっていてもう僕の手には負えないくらいになっていた。こうなったら最後司くんは人にくっつきたがる。そこまでならまだいい。これくらいのことなら当てはまる人もいるだろう。そこからが問題だ、司くんは色々なところにキスをするようになるんだ。”愛の言葉”を囁きながら。仮にも司くんは役者だ。司くんに愛の言葉を囁かれてドキッとしない人はきっといないと僕は信じている。軽く机の上を片付けて司くんに声をかける。
「司くん、こっちおいで。」
よくよく司くんを見ると、目はとろんと溶けていて、少し頬が赤くなっている。相当寄っているなと思い、腕を広げて抱きつけるような形でこちらに誘う。案の定司くんはむくっと立ち上がって僕に抱きついてくる、ぎゅってしたり耳を甘噛したり、そしてほっぺから、鼻、口にキスをしてくる。初めは軽いバードキスから次にディープキス、舌同士が絡みアルコールのせいでもあるのか脳が焼き切れるかのように気持ちがいい。軽いリップ音と共に口を離し金にグラデーションがかかった可愛らしい頭を撫でる。机の上にあるグラスを取ってワインを口に含み顎を少し上げ強引に口づけをする。舌をねじ込み僕の口の中にある液体を司くんの口へと流し込む
「ッ……んっ、」
静かな部屋に司くんの喘ぎ声と水温だけが響く、流石に息が続かないだろうと一旦口を離し未だにはふはふしている司くんに
「司くん、息吸って?」
息が整い切る前にもう一度ワインを口に含み強引に口づけをする。僕の口から司くんの口へと流し込まれていく液体を舌を使ってお互いの口で混ざり合いそして最後には君が飲み込む。口の端から垂れた赤い液が顎を伝ってポタッと白いシャツに垂れ染み込んで、シャツに赤い花を咲かせるそんな姿が艶っぽく見えて思わず劣情を抱いてしまう。その感情をほんの僅かに残っている理性で殴り飛ばし、
「かわいーね♡つかさくん♡」
「かわいくなど…ない!、」
なんて言ってはいるがもう既に呂律は回っていないし言った後にニヘッと笑う姿が可愛いんだよなんて言ったら君はきっと怒ってしまうだろうなと思い苦笑する。
「なにを笑っているんだ…!?それにっ、服にシミがついたら落ちにくくなるだろう?」
文句を言いつつもまんざらではない様子に更に頬が緩んでしまう、
「大丈夫だよ、司くん♡まだワインはたくさんあるからね♡最後まで一緒に飲もーね♡」
我ながら呂律が回っていなかった気がしたがきっと気のせいだろう。ちらっと部屋の片隅にある時計に目をやる、時間は午後十一時半を回ったばかり明日は僕も司くんも一日フリーだからこの後のことは気にせず飲めるななんて呑気に考えていると、
「なんだ類もう終わりか♡?」
「あぁもう!本当に君って人は、」
ワインをグラスに注ぐのすら面倒くさくなって瓶を手にとってそのまま口に流し込む前に一言告げる。
「司くんを僕に頂戴。」
淡々と告げられる言葉に司くんは目を細めてうっそりと笑いこう告げた。
「もちろんだ類♡オレを見くびるなよ♡」
この後、瓶が空になるまで飲んで翌日司くんに散々怒られることになるのだがそんなことを知らない僕はそのまま続行する。二人のまだ夜は始まったばかり。