サイド キリ
空気が、重い。
キノの家のリビング。そこに着くまで、私も誰も一言も喋らなかった。
アミの言葉は刃物のように鋭くて、私たちの心に切り込みを入れた。
犯罪者だって、望んで罪を犯したわけじゃないってことがあるのに。
必死になって反省してやり直そうとしているのに。
それでも、犯罪者というレッテルを貼られ、偏見を持たれた人の、その気持ちなんて知らないくせに。
そんなことを考えていると、トンと背中を叩かれた。振り返ると、レンとユメが唇に人差し指を立てて手招きしていた。
「???」
私は二人の後について行って、玄関を通り外へ出た。
サイド レン
「すみません、いきなり……」
「ううん、あの空気はキツイからね」
キリさんはそう言い微笑んでくれた。
「なんというか、その……マオさんのこと、気になってしまって……」
あのアミさんって人はマオさんのことを“犯罪者”だと言った。
昔、何かあったんだろうか。オレはそれをマオさん本人に聞こうとして、ユメに止められた。
曰く、「今!この!空気で!それを聞いて良いと思っていますの?!」だそうだ。
「私も何も知らないんだよね。レンとユメより先にこの団に入ったっていっても、ほんの一週間くらいだけだし」
「そう、ですか……」
やっぱ、オレらはマオさんのこと、知ることができないのかな。
同じモンダイジ団の仲間なのに、何もできないままは、もどかしい。
「だからさ、三人で調べに行かない?」
「「えっ?!」」
キリさんの提案にオレとユメは目を見開いた。
でも、それが一番いいかもしれない。
「そうだな!そうします!!」
「あ、あたくしも賛成ですわ!」
オレらだって、あの人たちの仲間なんだ!
「……うーん、俺はあんまりおすすめしないけどな」
「「「?!」」」
振り返ると、そこにはルネさんの姿があった。
い、いつからいたんだ?!全然気づかなかった……!
ユメもキリさんも驚いた表情でルネさんを見ている。
「……どういうこと、ですの?」
すぐにユメは冷静になって聞き返した。
「……“仲間”だからこそ、知られたくないこと、秘密にしたいこともあるんだよね」
そう言ったルネさんの笑顔に、いつもと違う陰りが見えた気がした。
「……っ、それでもオレは知りたいです。何があってもオレは皆さんの力になりたいと思うし、それに事実を受け止めますから!」
オレはルネさんを真っ直ぐ見据える。
この気持ちに嘘や虚勢なんてない!
「……そう。なら、俺から少しだけ」
ルネさんはふっといつもの表情に戻って、メモをオレに手渡した。
「マオの実家の住所。これ以上は協力できないからねー」
「!あ、ありがとうございます!」
「すぐ行ってみますわよ!」
オレとユメ、そしてキリさんはそのメモを頼りに走り出した。
だから、聞こえなかったんだ。
ルネさんがオレらを暗い顔で見送りながら、ボソリと呟いた言葉を。
「みんながレン君みたいだったら、よかったのになぁ」