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報告を済ませた後。
 (ふぅ、やっと休める)
 そう思った矢先。
 「2人とも、こっちに来て」
 「ん?」
 アリアに引き止められ、何故かギルドマスターの部屋に通された。
 「おう、お疲れさん!なにやら大変だったようだな!」
 グラムの労いの言葉に、疲れ切った表情のアレンとカイル。
 「なんでマスターが知ってんだよ?」
 「そりゃあ、お前達の師匠が鬼の形相で飛び出して行ったら、誰だって気になるだろう?」
 「ちょ、マスター!余計なこと言わないでください!」
 アリアは眉を跳ね上げ、頬を赤らめながらマスターの肩をバシッと叩く。
 (師匠がこんな表情するなんて初めて見た)
 そんなやり取りをし笑い合っていると、唐突にグラムの表情が変わった。
 「それで、何があったんだ?」
 アレンとカイルは、銀仮面(男?)との遭遇、そしてその異様な強さについて詳しく説明した。戦闘の緊迫感を思い出しながら語るアレンに、グラムは腕を組み、真剣な表情で聞き入っていた。
 「……イレギュラーにも程があるな。それに、銀仮面の男…か。」
 グラムは拳を握りしめ、額に薄く汗が滲んだ。彼の低い声には、ただならぬ警戒心が滲んでいる。
 「あいつは何者なんですか?」
 「…いや、俺たちにもまだ分からない」
 そう言ったグラムの言葉には含みがあった。
 パンパンッ
 「マスター、2人は大変な目にあって疲れてるんだから、そろそろ休ませてあげましょ」
 重い空気を察したアリアが口を開いた。
 「そうだな、とりあえず今回の件は他言無用で頼むぞ。それと、アレン、カイル無事に帰ってきてなによりだ。ゆっくり休んでくれ!」
 話が終わり、各自部屋で休むことにした。
 (今日は流石に疲れたな……)
 アレンはベッドに倒れ込むと、じわりと身体の痛みが広がった。瞼が重くなり、思考がぼやけていく。
 (また、明日……マスターに……)
皆が寝静まった夜ーー。
 アリアとグラムは今回の事を話し合っていた。
 「アリアどう思う」
 「今回の襲撃、もしかしたらアレンの素性に関わる事なのかも……」
 「ん?なぜだ?」
 「銀仮面との戦闘を聞いて、アレンを執拗に狙っているように感じました。」
 「……言われてみれば」
 グラムは改めて思い出そうと顎に手を当て考えている。
 「今後の対応も考えないといかんな」
 「はい…」
 (でも、なぜアレンを?貴族の子だから?それとも……)
 2人が考え込んでいると、思い出したかのようにアリアが尋ねる。
 「あっ、そういえば調査の進捗はどうなんです?」
 「ん?ああ、アレンがここに来る前に何をしていたのか、だったな。」
 グラムは少し間を置いてから、言いづらそうに続けた。
 「……どうやら、グランベルトの貴族のようだ」
 「……え?」
 アリアの表情が強張る。想定外の事実に、彼女の脳裏で様々な憶測が巡った。
 「まぁ、本人は知られたくない様子だからこの話は黙っておこう」
 アリアも頷き賛成の意を示し話を終わらせた。
翌朝、マスターに話を聞こうと思っていたが、すでに外出した後だった。
 「んー、どうしよう」
 じっとしていても仕方ないので、カイルと共に鍛冶屋へ向かうことにした。
 「ここだ、『ドルガン鍛治工房』。ここの店主の腕前はこの国随一なんだ!さぁ、入ろうぜ!」
 カランッ——カンッカンッカン!
 店の扉を開けると、奥から鉄を打つ音が響き、焼けた鉄の匂いが鼻をついた。
 「おーい!ドルガンのおっちゃん!素材持ってきたから見てくれ!」
 カンカンカンッ!
 「あ?なんだって?『取材』なら他所に行ってくれ!」
 「違うって!だぁかぁらぁ!『素材!!』持ってきたっての!!」
 カウンターの向こうには、鍛え上げられた腕を持つドワーフの男がいた。手には分厚い革手袋をはめ、煤けたハンマーを握っている。
 「おう、カイルじゃねぇか!今日は何のようだ?」
 「よぉ!ドルガンのおっちゃん、この素材で装備を作って欲しいんだよ」
 カイルが袋からサンヴァイパーの素材を取り出し、ドンッとカウンターに置いた。
 鍛冶屋の主人は目を見開き、皺だらけの手で慎重に素材をつまむ。
 「おぉ、サンヴァイパーの素材か!おいカイル、お前が仕留めたのか!」
 「チッチッチ、こいつと一緒に仕留めたんだぜ!なっ!」
 そう言って、カイルは得意げに俺の肩に手を回してきた。店主は僕をじろりと見て、しばし沈黙する。
 「……その坊主と?」
 「初めまして、アレンといいます」
 軽く会釈すると、店主は「ほぅ」と短く唸り、すぐに素材へと視線を戻した。
 「この素材なら——」
 ドルガンが作れる物の説明を始め、カイルは腕を組みながら真剣な表情で悩んでいる。
 「カイル、僕は決まったよ」
 「え!んーーーーちょっと待ってくれ!」
 そう言って結局、1時間粘ってようやく決めた。
 「よし、これでいいな? 完成まで2週間だ。それまではのんびりクエストでもしてこい」
 「おう! 頼むぜおっちゃん!」
 「よろしくお願いします」
 新しい装備が出来ることにウキウキしながら、鍛冶屋を後にし、ギルドへと戻ることにした。
道中。
 「いつもより人通りが少ない気がするな」
 「そうか?いつもこんなもんだろ?」
 頭の後ろで手を組みながら呑気に返事をするカイル。
 「そうかな?何か忘れてる気がするような…」
 ギルド前に着くと何故か人だかりができていた。
群集を掻き分けていくと、中心にアリアの姿があった。全身を純白の鎧に金色の模様が刻まれ、マントにはこの国紋章が刻まれている。
 「カイルとアレン、どこに行ってたの?」
 「鍛冶屋に……って、今日が出発の日だったっけ?」
 「少し早めに出発するよう要請が入ってね、すぐに経たなければいけないの」
 「そうだったんですね」
 アリアが後ろに控えていた騎士に耳打ちされると、すぐに騎馬に乗り煌々たる佇まいで多くの群集が沸いた。出発の合図だ。
 「今日から私は遠征でいないけど、忘れずに鍛錬するのよ」
 「わかってるよ!」
「はい、師匠」
 アリアはアレンとカイルの頭をくしゃくしゃと撫で、いたずらっぽく微笑んだ。
 「それじゃあ、行ってくる!」
 ーーアリアを見送った後。
 「アレン、次に師匠が帰ってきた時、強くなって驚かせてやろうぜ!」
 「……ああ!」
 アレン達は決意を新たに進んでいく。
翌朝から討伐クエストを次々とこなしていき、 その中にはBランクに近い魔物も混じっていたが、それでもアレン達は諦めずに剣を振るった。
 ドスンッ!
 「ふぅ、やっと倒せたぜ。これで無事完了だな、そっちはどうだ?アレン!」
 カイルの足元には、炭のように焦げた大きな熊の死骸がある。それは、アレンが森で殺されかけた相手、【ブラッディベア】だ。
 「ああ!こっちも、もう終わる!」
 ザシュッ!
 剣を振り抜き、もう一体を仕留める。
獣の血の匂いが鼻をつき、冷えた風が汗を拭い去った。
 カイルのもとへ歩み寄ると、彼は満足げに笑っていた。
 「まぁまぁ苦戦せずに倒せたな、アレン!」
 「……あぁ。昔じゃ考えられないくらい強くなったんだ、僕たち」
 「そうだな!さぁ、素材取って帰ろうぜ!」
 難なくクエストを終え、帰ることにした。
 鍛冶屋に着き。
 「おう! カイル、アレン、今日はどんな獲物を狩ってきたんじゃ?」
 「今回は、ブラッディベアだ!」
 「ほぅ! これはまた大物じゃな」
 「そりゃあそうさ! もうすぐランク試験だからな!」
 「おっと、そうだそうだ、ちっと待ってろ」
 店主はカイルの言葉を聞いて、忘れていたと言わんばかりに、奥の作業台から完成した装備を持ってきた。
 「どうじゃ、わしの作った装備は?」
 カイルは槍を手に取り、光を反射する刀身をじっと見つめる。
柄には黒光りする蛇の模様が彫り込まれ、持ち手は手に馴染むよう調整されている。
 「ああ、この槍すっげ使いやすい!なんだこれ!」
 以前、彼が頼んだのはサンヴァイパーの鱗を刃に使った170cmの槍。
さらに、サンヴァイパーの皮を使った軽鎧とローブを身にまとっている。
 「あったりめぇよ! アレンはどうだ?」
 僕も手袋越しに剣を握る。
途端に指先へ馴染むような感触が伝わってきた。
 「すごいですね。今までの剣より軽く、デザインも素晴らしい。短剣も、バランスがよく、抜刀が速くなりそうです。 防具も、軽い上に動きやすいーー」
 僕の装備は、100cmの剣(サンヴァイパーの牙と鱗を使用)と30cmの短剣2本(蛇の装飾入り)、 黒く塗装された鱗の軽鎧。
 軽量でありながら防御力も高く、まさに理想の装備だった。
 「そうか、そうか! それなら良かった。」
 少し間をおきドルガンが口を開く。
 「よし、お前達ついてこい」
 そう言われて着いていくと、訓練場へと案内された。
 「…?何をするんですか?」
 「その武具がクエストで使い物になるかの最終確認だ。」
 その言葉と同時に、近くにあったレバーを下ろした。
 ガタンッ
 「え!いきなりですか?」
 柵が開放され、5匹のボアが放たれた。
 「うぁぁあ!なんで俺だけぇぇぇ!」
 カイルは1匹のボアに執拗に追いかけられている。
 ブヒィィィ!
 他4体のボアが興奮したように走り回り、攻撃を仕掛けてくる。
 「まずは、1体目!」
 シュバッ!
 (っ!なんだ、この切れ味…! たった一太刀で倒せるなんて…!)
 「すごい…!よし、次はこっちで試すか」
 剣を鞘に納め、短剣を握る。
 「俺も負けてらんねぇ!」
 カイルも負けじと槍を振り回す。次々と倒すアレンとカイルを眺めていたドルガンは、とても満足げに微笑んでいた。
 「最高だ。この槍切れ味もだが、魔法が槍全体に浸透する様な、威力が底上げされる様な感覚だ!すっげー!」
 全て討伐した後、カイルは興奮した様子で何度も槍を構え直す。
 「確かにすごい、あれだけ戦ったのに刃こぼれすらしていないなんて…!」
 「そりゃあ、そうさ。わしが打った武器じゃからな!」
 ドルガンは豪快に笑い装備の完成を喜んだ。
 「あ、そうだ。お代はいくらですか?」
 アレンが尋ねるとドルガンはニヤリと笑った。
 「お代はアリアの嬢ちゃんからもらってるから気にすんな!」
 「え?」
 「お前達が素材を預けた後、嬢ちゃんが訪ねてきてな。」
 『あの子達に良い武器と防具を作ってあげて下さい。お代や素材が足りなければ私が調達してきますので。』
 「って頭まで下げて頼みに来やがってよ。よかったなぁ、あんな良い師匠に巡り会えて。」
 そう言うドルガンは笑みを浮かべながら鍛冶屋へと戻って行った。アレンとカイルは驚きのあまり呆然と立ち尽くしていた。
 (まさか、師匠がそんなこと…)
 「へへっ!師匠はツンデレだな!」
 2人で笑い合っていたが、大事な事を忘れていた。
 「おっちゃん、ありがとな!」
「ドルガンさん、ありがとうございました!」
 「おぅよ! これからは、何かあれば立ち寄りな!」
 アリアとドルガンが用意してくれたこの装備で、試験まであと2週間。アレン達は全力で経験を積んだ。
 そして、2週間後のランク試験の日——